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 第185話 西側石壁

 壁が増えるたびに、守れる範囲が広がる。


 守れる範囲が広がるたびに、次の壁が見えてくる。


 ――それが、要塞を作るということだ。

 雷鳴月、中旬。


 西側排水堀が完成した。


 ガッツが確認を終えた。


「問題ない」


 ゾルドが掘削した堀は、幅三間、深さ一間半だった。


 水脈と繋がっていた。


 少しずつ、水が入り始めていた。


「水が入っていますね」


「サヤさんが言っていた通りだった。白色層の水脈と繋がっている」


「掘った堀に、水が来た」


 ガッツが短く言った。


「思ったより、水の流れが早い」


「外堀の布石になりますね」


「なる」


──────────────────────────────────────


 堀の完成と同時に、西側石壁の着工が始まった。


 朝から、ガッツが石材の搬入を指揮していた。


 ゾルドの班が基礎を掘り始めた。


 グリットが廃材を固化して資材に変えていた。


 ヒコが現場を見た。


「東側、北側に続いて、西側か」


「三方が固まる」


 ガッツが短く言った。


「残りは南側だ。ただし、南側は入口がある。全部を石壁にするわけにはいかない」


「南側は、どう考えていますか」


「門を強化する。石材で門柱を作り直す。それで対応できる」


「了解です。西側が完成したら、南側の強化に移りますか」


「そのつもりだ」


──────────────────────────────────────


 昼、ヒコは西側の基礎を《可視化》で確認した。


 地盤の色が見えた。


 安定していた。


 次に、領地全体を広く確認した。


 東側の石壁。


 北側の石壁。


 西側の着工中の基礎。


 南側の入口。


 頭の中で、線が繋がった。


 星形。


 外側へ張り出した五つの角。


 それぞれの角から、射線が交差する。


 どこからも死角が消える。


 外堀が繋がれば、内側に近づけなくなる。


 フォルテス領の最終形態が、初めて鮮明に見えた。


「四方を固めて、外堀を作る」


 ヒコは呟いた。


 誰もいなかった。


 ただし、方向が決まった。


 完成形が見えた。


──────────────────────────────────────


 午後、ガデルが来た。


「保管庫の件で話がある」


「聞かせてください」


「増産したら、置く場所がない」


 ガデルが短く言った。


「蒼鋼の増産を始めている。装備の素材として必要だ。ただし、今の保管場所では足りない」


「倉庫を使えませんか」


「使えない」


 ガデルが続けた。


「農産物と一緒には置けない。湿度が違う。それと、見張りが必要だ」


「見張りですか」


「蒼鋼だ。放っておけば盗まれる」


 ヒコは少し考えた。


「専用の保管庫が必要ですか」


「必要だ。湿度管理ができて、鍵がかかる。それだけでいい」


「ガッツさんに相談します」


「急かすな」


「急ぎません。ただし、準備を始めます」


──────────────────────────────────────


 夕方、コリンを呼んだ。


「保管庫に結界を張れますか」


「張れます。どの程度の強度ですか」


「蒼鋼の保管庫です。侵入検知と、持ち出しの察知ができれば十分です」


 コリンが少し間を置いた。


「できます。ただし、蒼鋼を保管するということは、量がかなりあるということですか」


「増えてきました」


「それは」


 コリンが静かに言った。


「注意が必要です。量が知られると、外から来る人間の目的が変わります」


 ドガンを呼んだ。


 コリンの話を伝えた。


 ドガンが少し間を置いた。


「中央商業ギルドが知れば、確実に来る」


「買いに来るとは限らん」


「来る、というのは」


「取りに来る。正式な手続きを使って。鉱物の王国管理法がある。国家的に価値のある鉱物は、領主だけで管理できなくなる場合がある」


「蒼鋼は、そこまでの価値がありますか」


「可能性がある」


 ドガンが短く言った。


「ガデルに聞いた方がいい」


──────────────────────────────────────


 ガデルのところに行った。


「蒼鋼を外に知られ過ぎると、問題が起きますか」


 ガデルが少し間を置いた。


「知られ過ぎるな」


 短く言った。


「どのくらいの価値があるものですか」


「国家が動く」


「国家が、ですか」


 ガデルは頷いた。


「蒼鋼は、軍備に使える。精製技術があれば、鎧と武器の質が変わる。王国軍が欲しがるものだ」


「フォルテス領が持っている量は、どのくらいですか」


「今の精製速度で半年続ければ、王国軍が動く規模になる」


 ヒコは少し間を置いた。


「急ぎません。ただし、対策が必要です」


「保管庫を作れ。結界を張れ。外に出す量を絞れ。それだけだ」


 ガデルが工房に戻った。


──────────────────────────────────────


 夜、ガッツに保管庫の設計を依頼した。


「工房の裏手に、専用保管庫を建てたい。湿度管理ができて、鍵がかかる。コリンさんが結界を張ります」


「大きさは」


「今の蒼鋼の量の三倍を保管できる広さ」


「分かった。来週から設計に入る。工期は二週間見てくれ」


「費用は」


「小規模だから、金貨五枚前後だ」


「お願いします」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 雷鳴月中旬。西側排水堀完成。白色層の水脈と接続・水が入り始めた。西側石壁着工。ガッツ「三方が固まる」。


 《可視化》:領地全体を確認。東・北・西の石壁が揃う輪郭が見えた。星形要塞の最終形態が初めて鮮明になった。「四方を固めて、外堀を作る」。


 保管庫建設:ガデルが蒼鋼の保管場所不足を報告。専用保管庫建設をガッツに依頼(金貨五枚前後・二週間工期)。コリンが結界保管を担当。


 国家資源問題:ガデル「蒼鋼を外に知られ過ぎるな。国家が動く」。ドガン「中央商業ギルドが知れば、確実に来る」。対策:保管庫・結界・出荷量制限。


 ペンを置いた。


 三方が固まった。


 要塞の形が、見えてきた。


 ただし、見えてきたということは、外からも見えてきたということだった。


 守るものが増えると、狙われるものも増える。


 それが、育つということだった。


 だから、もっと強くならなければならなかった。



 第185話 西側石壁 了

【次回予告】

 要塞の設計を、全員に見せた。


──────────────────────────────────────


【領地収支・雷鳴月中旬時点】


・所持金:金貨366枚(変動なし)

 支出見込み:西側石壁建設 金貨数十枚(継続)

       専用保管庫  金貨5枚前後(二週間後)

       見張り塔   金貨3枚(来月末)

       医務室    金貨5枚(着工中)


【発展進捗・第185話時点】


・防衛:100%(西側石壁着工・排水堀完成・見張り塔建設中)

・食料:98%(継続)

・水 :94%(排水堀に白色層水脈が接続・水が入り始めた)

・住居:80%(継続)

・インフラ:100%(蒼鋼保管庫・結界保管の計画開始)


 今日の進捗:西側排水堀完成(白色層水脈接続)。西側石壁着工。ガッツ「三方が固まる」。《可視化》で星形要塞の最終形態が初めて鮮明に見えた。蒼鋼専用保管庫建設をガッツに依頼(金貨五枚・二週間)。コリンが結界保管担当。ガデル「国家が動く」・ドガン「中央商業ギルドが確実に来る」の警告。

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