第184話 雷鳴月の収支
数字が変わった。
それは、何かが変わった証拠だ。
――変わったことを、数字が先に教えてくれる。
雷鳴月、第一光曜星。
月次給与の支払い日だった。
バルドが台帳を持ってきた。
「今月分だ」
「確認します」
ヒコが台帳を受け取った。
月次固定支出。先月と変わらなかった。
台帳に署名した。
「バルドさん、支払いをお願いします」
「分かった」
バルドが立ち上がった。
「今月から、識別札の運用が始まる」
「周知はできていますか」
「した。外来者の大半は、すでに受け取っている」
「問題は出ていますか」
「今のところ、ない」
バルドが短く言った。
「出てから対応すればいい」
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午前、ゴルフが来た。
「陽炎月の月間まとめと、雷鳴月の見通しです」
「聞かせてください」
ゴルフが手帳を開いた。
「陽炎月の外部取引収入は、先ほど報告した通り金貨五十二枚です。ただし、今月から商業ギルドが稼働しています。市場使用料・仲介料・保管料が入り始めました」
「いくらになりますか」
「雷鳴月の見込みで、ギルド収益だけで金貨十五枚前後になります。外部取引と合わせると、金貨七十枚を超える可能性があります」
「月次固定支出の二倍近いですね」
「二倍に達します」
ゴルフが静かに言った。
「ギルド設立後、初の月間収支になります。この数字が続けば、フォルテス領の財政は完全に自立します」
「王都ルートはどうですか」
「先月の打ち合わせが成立しました。来月から、王都経由の取引が始まります。規模はまだ小さいですが、入口ができました」
「着実ですね」
「急ぎません。ただし、進んでいます」
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昼、アーヴィンが来た。
「見張り塔の件で話がある」
「聞かせてください」
「西側の工事と並行して、木造の監視塔を建てたい。西側の排水堀が完成したタイミングで設置する」
「高さはどのくらいですか」
「三間から四間。石壁より高くする必要はない。ただし、領地の外が見渡せる高さが必要だ」
「ガッツさんに相談しましたか」
「これから行く。ただし、先に聞いておきたかった」
「建てましょう」
ヒコが即答した。
「飛行魔物への警戒は、先手を打つ必要があります。見えない死角は、早く埋めた方がいい」
「見える場所は守れる。見えない場所が危ない」
アーヴィンが頷いた。
「鐘との連動も考えている。見張り塔から鐘を鳴らせるようにする。遠くから異常を確認したら、即座に全領地に伝わる」
「一回は外敵。二回は火災。三回は全員避難。その体系と合わせますか」
「そうだ。塔の鐘が第一報になる」
ヒコは少し考えた。
「鐘システムが、これで完成しますね」
「完成させる」
アーヴィンが短く言った。
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午後、ガッツと見張り塔の設計を確認した。
「木造で三間半。西側の排水堀の角に建てる。堀が完成したときに、一緒に立ち上げる」
「費用は」
「木材は調達済みのものを使える。銀貨三十枚あれば十分だ」
「鐘を取り付けられますか」
「取り付けられる。鐘の重さに耐える梁を組む」
「来月中に完成できますか」
「排水堀と合わせれば、来月末には立てられる」
「お願いします」
ガッツが頷いた。
「これで、四方を見る場所ができる」
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夕方、鐘システムの正式運用を告知した。
バルドが村人に周知した。
騎士団にはアーヴィンが伝えた。
外来者にはセリウスとドガンが識別札の説明と合わせて伝えた。
一回は外敵接近。二回は火災発生。三回は全員避難。
全員が同じ意味を共有した。
全員が同じ動きをできるようになった。
アーヴィンが夜の訓練でも確認した。
「鐘が鳴ったら、何をする」
「一回は戦闘配置。二回は消火と誘導。三回は避難場所へ移動」
「良い」
アーヴィンが短く言った。
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夜、ゴルフが月間収支の見通しをまとめてきた。
「雷鳴月の月間収支見込みです」
ヒコが受け取った。
収入:
冒険者固定給 金貨三十枚
勲爵士給与 金貨十二枚
外部取引 金貨五十五枚前後
ギルド収益 金貨十五枚前後
合計 金貨百十枚前後
支出:
月次固定 金貨四十枚
合計 金貨四十枚
月間収支:プラス七十枚前後。
「外部収入が月次固定支出の二倍を超えますね」
「超えます」
ゴルフが静かに言った。
「フォルテス領は、町になりつつあります」
「町、ですか」
「村ではなくなった。ただし、まだ都市ではない。その間にある」
ゴルフが手帳を閉じた。
「この段階が、一番大事です」
「なぜですか」
「成長しているが、まだ壊れやすい。速く動けるが、まだ盤石ではない。この段階で、どれだけ基盤を固めるかで、次が決まります」
「伸びる時ほど、足元を見なければなりません」
ヒコは少し間を置いた。
「段取り八分、ということですか」
「そういうことです」
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夜、記録をつけた。
雷鳴月第一光曜星。月次給与支払い完了。識別札運用開始。
ゴルフ月間見通し:雷鳴月外部収入金貨七十枚超の見込み。月次固定支出の二倍に達する。ギルド収益が新たな収入源として機能開始。王都ルートも来月から稼働。
見張り塔建設:アーヴィンが提案。西側排水堀との同時完成を目指す。木造三間半・銀貨三十枚・来月末完成予定。
鐘システム正式運用:一回=外敵・二回=火災・三回=全員避難。見張り塔の鐘が第一報になる体制が完成。
ゴルフの言葉:「この段階が、一番大事です。成長しているが、まだ壊れやすい」。
ペンを置いた。
数字が変わった。
変わり方が、変わった。
以前は、少しずつ積み上がっていた。
今は、仕組みが仕組みを生んでいた。
それが、町になるということだった。
もう、一人では作れない場所になっていた。
第184話 雷鳴月の収支 了
【次回予告】
西側石壁の着工が始まった。
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【領地収支・雷鳴月第一光曜星時点(陽炎月確定・雷鳴月見込み)】
・所持金:金貨366枚(変化なし)
雷鳴月見込み:収入約110枚・支出約40枚・月間収支プラス約70枚
支出見込み:見張り塔建設 銀貨30枚(来月末)
医務室設置 銀貨50枚(今月着工)
畜産試験導入 金貨3枚前後
【発展進捗・第184話時点】
・防衛:100%(見張り塔建設計画・鐘システム正式運用)
・食料:98%(継続)
・水 :92%(継続)
・住居:80%(継続)
・インフラ:100%(ギルド収益始動・王都ルート来月稼働)
今日の進捗:雷鳴月給与支払い・識別札運用開始。ゴルフが月間収支見通し報告(外部収入が固定支出の二倍超)。アーヴィンが見張り塔建設を提案(西側排水堀と同時完成・銀貨三十枚・来月末)。鐘システム正式運用開始。ゴルフ「この段階が、一番大事です」。




