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 第183話 商業ギルド、開く

 市場が生まれると、人が集まる。


 人が集まると、町になる。


 ――町になると、次の問題が生まれる。

 陽炎月、末。


 商業ギルドの建物が完成した。


 ガッツが確認を終えた。


「問題ない」


 ドガンが建物の前に立った。


 冒険者ギルドの隣だった。


 入口を見た。


「でかいな」


「冒険者ギルドと同じ規模です」


「十分だ」


 ドガンが扉を開いた。


 掲示板はまだ空だった。


 取引台帳も新しい。


 それでも十分だった。


 商業ギルドが、動き始めた。


──────────────────────────────────────


 午前、ドガンが市場の区画を確認した。


 ゴルフが同行した。


「ここが取引スペースになります。区画は十二区画確保できています」


「足りるか」


「今は足ります。来年以降は増設が必要になるかもしれません」


 ドガンが区画を見た。


「倉庫への導線は」


「裏手から直接入れます。ガッツさんが通路を作ってくれました」


「悪くない」


 ドガンが続けた。


「今日から使用料を取る。市場使用料は一区画銀貨二枚。仲介料は取引額の一分。倉庫保管料は一棚一週間銀貨一枚」


「初日から取りますか」


「取る。後から始めると、無料が当たり前になる。最初から取れば、それが普通になる」


 ゴルフが頷いた。


「正しい判断です」


──────────────────────────────────────


 昼、ヒコとドガンとゴルフで話し合いをした。


「役割分担を正式に決めたい」


 ドガンが口を開いた。


「俺は領地内の商業を整える。市場の管理。取引の仲介。倉庫の運営。商人の格付け」


「ゴルフさんは」


「外を動きます」


 ゴルフが答えた。


「王都ルートの開拓。取引先の拡大。情報収集。フォルテス領の外側を担当します」


「二人の役割が分かれた」


「分かれた方が、速い」


 ドガンが短く言った。


「一人がやることを二人でやるより、二人が別のことをやる方が、倍になる」


 ゴルフが静かに言った。


「損はさせません。フォルテス領にとっても、自分にとっても」


「頼りにしています」


──────────────────────────────────────


 午後、ドガンがヒコに別の話を持ってきた。


「税の話をしたい」


 ヒコは少し間を置いた。


「税、ですか」


「そうだ。商業ギルドが動き始めると、人が増える。人が増えると、維持費が増える。維持費を誰が払うか、決めておかないと後で揉める」


「今の体制では、どういう問題が出ますか」


「今の村人と騎士団は、領地が全部面倒を見ている。それを新しく来た人間にも全部適用すると、財政が持たない」


 ドガンが続けた。


「整理が必要だ」


「どう整理しますか」


「まず、創設領民と新規移民を区別する」


「創設領民、ですか」


「フォルテス領の基盤を作った人間たちだ。バルドさん、ガッツさん、ゾルドさん、マルティナさん、既存の村人。この人たちは、今の待遇を維持する。税免除・衣食住保証・固定給与。そのままだ」


 ヒコは少し考えた。


「新規移民は、違う扱いにするということですか」


「そうだ。新しく来た人間は、自分で食べていく。宿屋を使う。市場で買う。そこから間接的に回収する」


「直接税は取りませんか」


「今は取らない」


 ドガンが短く言った。


「税を取る前に、人が稼げる場所を増やせ。稼げる場所があれば、人は来る。人が来れば、市場と宿屋が回る。市場と宿屋が回れば、自然に金が集まる」


「先に取るな。先に回せ」


 ヒコは少し間を置いた。


「道路と市場が先、ということですか」


「そういうことだ」


 ドガンが頷いた。


「それから、準領民制度を作ることを勧める」


「準領民、ですか」


「三年居住して、一定の労働実績があって、問題行動がなければ、正式な領民として認める。そういう制度だ」


「創設領民と同じ待遇になりますか」


「なる。ただし、三年かかる」


 ドガンが短く言った。


「領民になるのは簡単じゃない。その代わり、なった後は守る」


 ヒコは少し考えた。


「頑張れば、受け入れてもらえる。そういう場所になりますか」


「そういうことだ」


 ドガンが短く言った。


「フォルテスに行けば、頑張った分だけ返ってくる。それが評判になれば、人が来る」


──────────────────────────────────────


 夕方、ゴルフが陽炎月の月間まとめを持ってきた。


「陽炎月の外部取引収入です」


 ゴルフが手帳を開いた。


「金貨五十二枚です」


「また増えましたね」


「ギルドが開いた影響が出ています。取引先が、フォルテス領への信用を上げています」


「来月はどうなりますか」


「商業ギルドが動き始めたので、さらに増える可能性があります。ただし、王都ルートの正式打ち合わせが来月です。そちらが成立すれば、大きく変わります」


「楽しみですね」


「急ぎません」


 ゴルフが静かに言った。


「ただし、準備は整っています」


──────────────────────────────────────


 夜、商業ギルドの外を通ると、外来者らしい二人が話していた。


「フォルテスって、こんな場所だったのか」


「聞いてた話と全然違う」


「ギルドが二つあるぞ」


「石壁がでかい」


「飯が出るらしい。働けば」


「本当か」


「本当らしい」


 二人がギルドを見た。


「冬でも死なないって聞いた」


「それは大きいな」


「前の領地じゃ、冬が来るたび誰か消えたからな」


「ここに居ついた方がいいかもしれないな」


 ヒコは少し離れて聞いていた。


 何も言わなかった。


 聞こえていなかったふりをした。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 陽炎月末。商業ギルド開設。ドガンが初代ギルドマスターとして着任。使用料三点即日適用(市場区画・仲介料・保管料)。


 役割分担確定:ドガン(領地内商業)・ゴルフ(外部・王都ルート)。


 税制・領民制度の議論:ドガン提起。創設領民制度・準領民制度の導入方針を確定。新規移民は間接税モデルを採用。


 陽炎月月次精算:外部取引収入金貨五十二枚。


 外来者の声:「フォルテスに行けば仕事がある」「冬でも死なない」「居ついた方がいいかもしれない」。


 ペンを置いた。


 二つのギルドが揃った。


 フォルテス領は、ギルドのある領地になった。


 町になった、とドガンは言わなかった。


 ただし、町になっていた。


 人が集まり始めた時点で、もう後戻りはできなかった。



 第183話 商業ギルド、開く 了

【次回予告】

 雷鳴月の収支を、ゴルフがまとめてきた。


──────────────────────────────────────


【領地収支・陽炎月末時点(確定)】


・所持金:金貨366枚(+52)

 収 入:冒険者固定給 金貨 30枚

     勲爵士給与  金貨 12枚

     外部取引   金貨 52枚

     合計     約  94枚

 支 出:月次固定   金貨 40枚

     ギルド建設完成費 金貨数枚(概算 金貨 2枚)

     合計     約  42枚


 ※創設領民制度・準領民制度の正式導入を確定。次月以降の制度運用開始。


【発展進捗・第183話時点】


・防衛:100%(継続)

・食料:98%(継続)

・水 :92%(継続)

・住居:80%(人口増加・宿屋稼働・ギルド開設で流入加速)

・インフラ:100%(両ギルド開設・使用料制度導入・領民制度確定)


 今日の進捗:商業ギルド開設(ドガン着任)。使用料三点即日適用。ゴルフとドガンの役割分担確定。ドガンが税制・領民制度を提起(創設領民維持・新規移民間接税・準領民制度導入)。陽炎月精算金貨五十二枚。外来者「フォルテスに行けば仕事がある」「冬でも死なない」の声を確認。

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