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 第181話 陽炎月

 誕生日は、自分が生きてきた証拠だ。


 生きてきた年数が、積み上がっている。


 ――それを、誰かに祝ってもらえるとは思っていなかった。

 陽炎月、第一光曜星。


 月次給与の支払い日だった。


 バルドが台帳を持ってきた。


「今月分だ」


「確認します」


 ヒコが台帳を受け取った。


 月次固定支出。先月と変わらなかった。


 台帳に署名した。


「バルドさん、支払いをお願いします」


「分かった」


 バルドが台帳を受け取った。


 少し間を置いた。


「今月は、誕生日だな」


「そうですね」


「祝われるのはどうだ」


「慣れていません」


「そうか」


 バルドが短く言って、出て行った。


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 陽炎月、十五日。


 朝から、何かが違った。


 マルティナの動きが、いつもより早かった。


 台所から、良い匂いがしていた。


 ヒコは、気づいていないふりをした。


 ただし、気づいていた。


──────────────────────────────────────


 昼前、ルナが来た。


 後ろに花冠を持っていた。


「はい」


「ありがとうございます」


「作ってみたよ」


「自分で?」


「うん」


 ルナが短く言った。


「毎年、誰かの誕生日に作ってる。今日はヒコさんの番」


「毎年、作っているんですか」


「マルティナさんに教わった」


 ルナが花冠を渡した。


 ヒコが受け取った。


 かぶってみた。


「似合う?」


「……どうですかね」


「似合う」


 ルナが断言した。


 思っていたより、ずっと嬉しかった。


──────────────────────────────────────


 昼、マユミが来た。


 人前では、いつも通りだった。


 ただし、昼食の後、少し残った。


「これ」


 小さな包みだった。


「何ですか」


「開けて」


 ヒコが開けた。


 小さな石だった。


 青白い色をしていた。


 丸く、磨かれていた。


「どこで」


「ランデルで買った。先月行ったとき」


「ランデルで買ったんですか」


「そう」


 マユミが短く言った。


「何かと聞かれると、ただの石だよ。でも、色が綺麗だったから」


 ヒコはしばらく石を見た。


 青白かった。


 羅針盤の色に、少し似ていた。


「ありがとうございます」


「うん」


 マユミが立ち上がった。


「大切にしてね」


 出て行った。


 ヒコは石を手のひらで転がした。


 しばらく、手の中で転がしていた。


──────────────────────────────────────


 夕食は、特別日の食事だった。


 丸焼きがあった。


 シチューがあった。


 白パンがあった。


 蜂蜜菓子があった。


 全員が揃った。


 アーヴィンが来た。


 コリンが来た。


 リアが来た。


 ミルヴァが来た。


 ゴルフが来た。


 セリウスが来た。


 ドガンが来た。


 ガッツが来た。


 ガデルが来た。


 バルドが来た。


 全員が揃っていた。


 マルティナが食事を出した。


 誰も、誕生日とは言わなかった。


 ただし、全員がそのために来ていた。


 ドガンが丸焼きを見た。


「これはたまげたな」


 マルティナが短く言った。


「当然だよ」


 ドガンが笑った。


 大きな笑い声だった。


 ヒコは少し困った。


 祝われ慣れていなかった。


 どういう顔をすれば良いか、分からなかった。


 アーヴィンが隣に座った。


 何も言わなかった。


 ただ、隣に座っていた。


 それで良かった。


──────────────────────────────────────


エピローグ


 マルティナは片付けをしながら、食卓を見ていた。


 全員が食べた。


 全員が帰った。


 皿が空だった。


 全部、空だった。


 マルティナがここに来たのは、ヒコの目に何かを見たからだった。


 亡くなった夫と、同じ目をしていた。


 先を見ている目だった。


 何かを作ろうとしている目だった。


 あの目を見て、ついてきた。


 正解だったと思っていた。


 今日、全員が揃った。


 丸焼きも、蜂蜜菓子も空になった。


 ヒコが少し困った顔をしていた。


 祝われ慣れていない人間の顔だった。


 それで良かった。


 慣れてしまったら、つまらない。


 マルティナは最後の皿を片付けた。


 来年も、作る。


 この場所がある限り、作り続ける。


 帰れる場所を私が作る。


 それが、マルティナの答えだった。



 第181話 陽炎月 了

【次回予告】

 冒険者ギルドの扉が開いた。


──────────────────────────────────────


【領地収支・陽炎月第一光曜星時点】


・所持金:金貨314枚(-40)

 支 出:月次固定 金貨40枚


 収入見込み:外部取引(ゴルフ月末精算)

 支出見込み:ギルド建設完成費 金貨数枚

       畜産試験導入   金貨3枚前後


【発展進捗・第181話時点】


・防衛:100%(継続)

・食料:98%(継続)

・水 :92%(継続)

・住居:78%(継続)

・インフラ:100%(継続)


 今日の進捗:陽炎月第一光曜星・月次給与支払い完了。陽炎月十五日・ヒコの誕生日。ルナが花冠を持参。マユミがランデルで買った青白い石を渡す。マルティナが特別日の食事(全員揃う)。エピローグ:マルティナ視点(帰れる場所・来年も作る)。

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