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 第178話 建てる

 建物があると、仕組みが動き始める。


 仕組みが動き始めると、人が集まる。


 ――人が集まると、場所が変わる。

 青天月、下旬。


 冒険者ギルドと商業ギルドの建物が、同時に着工していた。


 ガッツが二棟を同時に指揮していた。


 朝、現場に行くと、ガッツが二つの建物を交互に確認していた。


「同時進行、大丈夫ですか」


「問題ない」


 ガッツが短く言った。


「段取りをちゃんと組めば、一棟でも二棟でも変わらない」


「人手は足りていますか」


「今は足りている。週後半に壁の組み立てが重なる。そこだけ人を増やす」


「分かりました。バルドさんに調整してもらいます」


──────────────────────────────────────


 建設現場の端に、グリットがいた。


 廃材の山の近くだった。


 建築で出た端材や石材の欠片が積まれていた。


 グリットが端材に触れていた。


 灰色だった端材の表面が、少しずつ硬質な色に変わっていく。


 触れるたびに、端材の表面が変わった。


 固くなった。


 再利用できる強度になった。


「グリットが働いていますね」


 ガッツが見た。


「昨日から来ている。廃材を固めて、使える材料にしている」


「役に立っていますか」


「役に立っている」


 ガッツが短く言った。


「捨てるはずだった材料が、使える。それだけで、費用が変わる」


 グリットが新しい端材に触れた。


 固める。


 また次の端材に移る。


 黙々と、続けていた。


──────────────────────────────────────


 昼、バルドが来た。


「人口の報告だ」


「聞かせてください」


「今月の確認で、二百五十人を超えた」


 ヒコは少し間を置いた。


「二百五十人、ですか」


「外来の冒険者、新規移住者、商隊の定着者。少しずつ増えている」


「管理は大丈夫ですか」


「今はまだ大丈夫だ。ただし、三百人を超えると、今の仕組みでは回らなくなる」


 バルドが続けた。


「宿泊登録・識別・夜間の人の流れ。ギルドができれば、そちらで管理できる部分が増える」


「ギルドに委任できますか」


「できる。それが早い」


 バルドが短く言った。


「外来者の管理は、領主がやることじゃない。ギルドがやることだ」


──────────────────────────────────────


 午後、アーヴィンが来た。


「夜警の件で話がある」


「聞かせてください」


「人口が増えた。夜間の人の流れが複雑になっている。今の体制では、全域を見きれない」


「増員ですか」


「交代制にする。今まで夜警は固定だったが、分隊を交代で回す」


「最初の担当はどこですか」


「リクの分隊から始める。索敵機動担当だ。夜間の動きを把握するのに向いている」


「リクに伝えましたか」


「今から伝える」


 アーヴィンが続けた。


「もう一つ。村人側でも動きがある」


「村人が、ですか」


「バルドから聞いた。避難訓練をしたいという話が出ている」


「村人から自発的に」


「そうだ。外来者が増えたことで、何かあったときの動き方を決めておきたいと言っている」


 ヒコは少し考えた。


「良い動きですね」


「ああ」


 アーヴィンが短く言った。


「守られる村から、自分たちで守る町になっている」


──────────────────────────────────────


 夕方、バルドと村人の代表が集まった。


 避難訓練と火災対応の話し合いだった。


「何から始めますか」


 村人の代表が口を開いた。


「まず、警報の決め方です。何かあったとき、全員が同じ動きをできないと困る」


「警報は、鐘を使いますか」


「鐘が一番分かりやすい。音で伝わる」


 アーヴィンが口を開いた。


「回数で意味を分けるのが良い。一回は外敵。二回は火災。三回は全員避難」


「分かりやすいですね」


「全員が同時に動ける。それが守る力の本質だ」


 バルドが頷いた。


「決まりだ。来週から鐘を設置する。訓練は再来週に一回やる」


「村人に伝えてください」


「分かった」


 バルドが立ち上がった。


「こういう話が村人から出てくるのは、良いことだ」


「そうですね」


「自分たちで考える人間が増えると、俺一人で回さなくてよくなる」


 バルドが短く言った。


「良いことだ」


──────────────────────────────────────


エピローグ


 ガッツは夕暮れ、二つの建物を見た。


 骨格が立っていた。


 まだ壁がなかった。


 まだ屋根がなかった。


 それでも、形はあった。


 ガッツはここに来てから、いくつ建てただろうか。


 石壁。工房。訓練場。倉庫。


 そして今、二棟同時に立ち上がろうとしている。


 全部、次がある仕事だった。


 建てると、次が見えた。


 次が見えると、また建てたくなった。


 ガッツはそれを繰り返してきた。


 建設班の一人が声をかけた。


「ガッツさん、明日の段取りを確認したいんですが」


「ああ」


 ガッツが振り返った。


 また建てる。


 続きがある。


 この領地には、まだ次があった。


 それだけで、十分だった。



 第178話 建てる 了

【次回予告】

 白色層について、サヤが話してくれた。


──────────────────────────────────────


【領地収支・青天月下旬時点】


・所持金:金貨304枚(変動なし)

 支出見込み:ギルド建設完成 金貨数枚(来月)

       畜産試験導入 金貨3枚前後(来月以降)

       鐘設置    銀貨数枚


【発展進捗・第178話時点】


・防衛:100%(交代制夜警開始・鐘システム制定・領民自主防衛開始)

・食料:98%(継続)

・水 :90%(継続)

・住居:78%(人口二百五十人超・宿屋建設継続)

・インフラ:99%(ギルド建設進行中・グリット廃材資材化稼働)


 今日の進捗:冒険者・商業ギルド建設進行中(ガッツ二棟同時指揮)。グリットが建築廃材の固化資材化を開始(初の実働)。人口二百五十人超をバルドが報告。交代制夜警開始(リク分隊から)。村人から避難訓練・鐘システムの提案(一回=外敵・二回=火災・三回=全員避難)。エピローグ:ガッツ視点(また建てる・続きがある)。

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