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 第177話 王都の影

 遠くの動きは、近くに届くまでに形を変える。


 届いたときには、もう始まっていることもある。


 ――だから、早く知ることが大事だ。

 青天月、中旬。


 夜、ミルヴァが来た。


 正式な報告の顔をしていた。


 軽い話ではないと、入ってきた瞬間に分かった。


「話がある」


「聞かせてください」


 ミルヴァが椅子に座った。


「ベルン商会が動いた」


「どう動きましたか」


「王都の中央商業ギルドを通じて、フォルテス領への取引制限を働きかけようとしている」


 ヒコは少し間を置いた。


「取引制限、ですか」


「まだ働きかけの段階だ。成立はしていない。ただし、動いているのは確かだ」


「証拠はありますか」


「状況証拠だけだ。ただし、この情報は信用できる」


 ミルヴァが続けた。


「もう一つある」


「はい」


「セルヴァン・ロウという名前が出た」


 ヒコは少し考えた。


 カルヴィン・レイドの手紙に、匂わせがあった名前だった。


「どういう人間ですか」


「タナール系の研究者だ。王都で動いている。ベルン商会との接点があるという話だ。ただし、詳細はまだ分からない」


「中央商業ギルドとも繋がっていますか」


「可能性がある。調べている」


──────────────────────────────────────


 ドガンを呼んだ。


 ミルヴァから聞いた内容を伝えた。


 ドガンが少し間を置いた。


「中央商業ギルドを通じて、か」


「知っている動きですか」


「似たような手を、前に見たことがある」


 ドガンが続けた。


「取引制限の働きかけは、正式なルートでやると時間がかかる。ただし、非公式のルートで動くと、すぐには分からない」


「どちらのルートですか」


「非公式だ。おそらく」


 ドガンが腕を組んだ。


「ベルン商会は、フォルテス領を孤立させたい。取引先を減らし、外部収入を細らせる。そうすれば、領地は弱る」


「対策はありますか」


「ある」


 ドガンが短く言った。


「商業ギルドを早く立ち上げる。ギルドが正式に動けば、フォルテス領の信用が制度として確立される。非公式の工作が効きにくくなる」


「商業ギルドが、盾になるということですか」


「そうだ。ギルドがあれば、取引先がフォルテス領を選ぶ理由が増える。理由が増えると、外部からの圧力に対して取引先が自分で判断できるようになる」


 ゴルフが横から言った。


「ギルドの信用は、外部圧力より強くなります。実績が積み重なれば」


「急ぎますか」


「今回だけは急ぐ」


──────────────────────────────────────


 翌朝、ミルヴァとアーヴィンに追加の報告があった。


 アーヴィンが別の話を持ってきた。


「兵站の件で、相談がある」


「聞かせてください」


「定期討伐で、遠距離行動が増えてきた。現在の携行食では、長時間の遠征に対応できない」


「何が必要ですか」


「軽くて、長持ちする食料だ。今は干し肉を持っていくが、量が限られる」


 アーヴィンが続けた。


「ボアジャーキーを、騎士団の携行食として整備したい」


「マルティナさんに相談しましたか」


「まだだ。ただし、香草の調整が必要になる。ミルヴァに頼めないか」


 ミルヴァが少し驚いた顔をした。


「私に?」


「お前は薬草と香草の知識がある。防腐効果のある香草を選べるだろう」


 ミルヴァが少し間を置いた。


「……できる。ただし、マルティナと相談する。勝手に彼女の職場には入らない」


「それでいい」


 アーヴィンが短く言った。


 ヒコがマルティナのところに行った。


「ボアジャーキーを騎士団の携行食として整備したいんですが」


「聞いてた」


 マルティナが短く言った。


「ミルヴァが香草を選ぶんだろ。それでいいよ。ただし、最後の味付けはあたしがやる」


「お願いします」


「保存食は、美味くないと続かない」


 マルティナが続けた。


「続かない保存食は、保存食じゃない」


──────────────────────────────────────


 夕方、セリウスに今日の状況を伝えた。


「ベルン商会が中央商業ギルドを通じて動いているようです」


 セリウスが少し間を置いた。


「冒険者ギルドにも影響が来る可能性がありますね」


「ありますか」


「中央冒険者ギルドと中央商業ギルドは、完全に別ではありません。片方が動けば、もう片方にも空気は伝わります」


「対策はありますか」


「冒険者ギルドを正式に開設することです。開設すれば、フォルテス領のギルドは公式に認定された施設になります。中央の非公式な動きが届きにくくなります」


「ドガンさんと同じ考えですね」


「同じです」


 セリウスが短く言った。


「ギルドを早く動かす。それが、今できる一番の対策です」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 青天月中旬。ミルヴァ報告:ベルン商会が王都中央商業ギルドを通じた取引制限の働きかけを開始(成立前・状況証拠)。セルヴァン・ロウの名前が初めて浮上(タナール系研究者・ベルン商会との接点・調査継続)。


 ドガン対策:商業ギルドの早期設立が盾になる。非公式工作に対して制度的信用が有効。


 セリウス対策:冒険者ギルドの早期開設。公式認定で中央の動きを受けにくくする。


 ボアジャーキー:アーヴィンが騎士団携行食として提案。ミルヴァが防腐香草を選定。マルティナが最終調整。「保存食は、美味くないと続かない」。


 ペンを置いた。


 外から影が来た。


 ただし、手が届く前に動ける。


 ギルドを先に立ち上げる。


 制度が、工作より強い。


 少なくとも、この領地はそうでなければならない。


 ヒコは、それを先に形にすることにした。



 第177話 王都の影 了

【次回予告】

 ギルドの建物が完成した。


──────────────────────────────────────


【領地収支・青天月中旬時点】


・所持金:金貨304枚(変動なし)

 支出見込み:排水堀継続

       畜産試験導入 金貨3枚前後(来月以降)

       ギルド建設  完成間近


【発展進捗・第177話時点】


・防衛:100%(ボアジャーキー携行食整備開始)

・食料:98%(ジャーキー整備・チーズ試作継続)

・水 :90%(継続)

・住居:75%(継続)

・インフラ:99%(ギルド早期開設の方針確定)


 今日の進捗:ミルヴァがベルン商会の王都経由工作を報告。セルヴァン・ロウの名前が初浮上。ドガン・セリウスが「ギルド早期設立が最大の対策」と一致。アーヴィンがボアジャーキーの携行食整備を提案。ミルヴァが防腐香草を選定・マルティナが最終調整を担当。

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