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 第175話 青天月の収支

 数字は、組織の成長を映す鏡だ。


 感情を持たない分、正直だ。


 ――数字が変わったとき、何かが変わっている。

 青天月、第一光曜星。


 月次給与の支払い日だった。


 バルドが台帳を持ってきた。


「今月分だ」


「確認します」


 ヒコが台帳を受け取った。


 月次固定支出。


 今月から、セリウスとドガンが加わっていた。


 ただし、二人の給与は、引き続き中央ギルド負担だった。


「セリウスさんとドガンさんの分は、今月も領地負担なしですか」


「そうだ。中央ギルドからの支給が続いている」


 バルドが短く言った。


「それが変わる時期は、まだ先だ」


「分かりました。今月の月次固定支出は先月と同じですね」


「ああ」


 台帳に署名した。


「バルドさん、支払いをお願いします」


「分かった」


──────────────────────────────────────


 午前、ゴルフが来た。


「陽炎月の月間まとめです」


「聞かせてください」


 ゴルフが手帳を開いた。


「外部取引収入、金貨四十三枚です」


 ヒコは少し間を置いた。


「先月より、大きく増えましたね」


「セリウスさんとドガンさんが来たことで、フォルテス領への信用が上がりました。取引先が増えています」


「具体的には」


「ヴォルト商会との再交渉が成立しました。魔導銀の安定供給契約です。期間は六ヶ月」


「条件は」


「魔導銀一匁あたり銀貨十四枚。フォルテス領産の刻印付きです。先方が価格を受け入れました」


 ゴルフが続けた。


「王都ルートも、先月引き合わせた商人から正式な問い合わせが来ています。来月、ランデルで詳細を詰めます」


「着実ですね」


「急ぎません。ただし、止めません」


──────────────────────────────────────


 昼前、ガデルが来た。


 珍しく、自分から来た。


「成果報酬の件だ」


「確認します」


 ガデルが短く言った。


「魔導銀の累計が、五百匁を超えた」


「二回目の計上ですね」


「そうだ。金貨二枚になる」


 ヒコが台帳を確認した。


 魔導銀の成果報酬レート:二百五十匁ごとに金貨二枚。


 五百匁達成で、二回目の計上。


「確認しました。今月の精算で支払います」


「礼はいい」


 ガデルが短く言った。


「次は、蒼鋼の増産に入る。装備の素材が必要だ」


「ゾルドさんと調整済みですか」


「してある」


 ガデルが工房に戻った。


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 午後、エルナが来た。


 農地担当のエルナが、ヒコのところに来るのは珍しかった。


「少し、相談があります」


「聞かせてください」


 エルナが少し間を置いた。


「牛を、入れたいと思っています」


「牛ですか」


「肉牛と乳牛を、少数から試験的に。今の農地には余裕が出てきました。飼料も、農産物の余剰で賄えます」


「マルティナさんには話しましたか」


「先に話しました」


 エルナが続けた。


「マルティナさんが、乳が取れるなら冬が変わると言っていました」


 それは大きかった。


 冬の食事の幅が広がる。


 チーズ。バター。乳を使った保存食。


「費用はどのくらいですか」


「肉牛二頭・乳牛二頭から始めるなら、購入費で金貨三枚前後です。飼育小屋の建設が別途必要です」


「ガッツさんに相談できますか」


「できます。ただし、工房拡張と排水堀が優先だと思っています。順番を待てます」


「来月以降で動けますか」


「動けます」


 エルナが頷いた。


「急ぎません。ただし、準備は始めます」


 ヒコはエルナを見た。


 以前は「楽しみです」と言えなかった人間だった。


 今は、自分で判断して、自分で動いていた。


──────────────────────────────────────


 夕方、ゴルフが月間収支の最終まとめを持ってきた。


「陽炎月月間収支、確定です」


 ヒコが受け取った。


 収入:

 冒険者固定給 金貨三十枚

 勲爵士給与  金貨十二枚

 外部取引   金貨四十三枚

 合計     金貨八十五枚


 支出:

 月次固定   金貨四十枚

 ガデル成果報酬 金貨二枚

 合計     金貨四十二枚


 月間収支:プラス四十三枚。


「外部収入が、月次固定支出を初めて上回りましたね」


「はい」


 ゴルフが静かに言った。


「フォルテス領は、外部収入だけで支出を賄えるようになりました」


 ヒコは少し間を置いた。


「つまり」


「冒険者固定給と勲爵士給与が、純粋な黒字になります。以前は、それで支出を埋めていた。今は、外部収入だけで回る」


「組織が、自立し始めたということですか」


「そういうことです」


 ゴルフが手帳を閉じた。


「急ぎませんでした。ただし、届きました」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 青天月第一光曜星。月次給与支払い完了。セリウス・ドガン分は領地負担なし(中央ギルド支給継続)。


 陽炎月月間収支確定:収入金貨八十五枚・支出金貨四十二枚・月間収支プラス四十三枚。外部収入が月次固定支出を初めて上回った。


 ヴォルト商会との再交渉成立:魔導銀月産安定供給契約・六ヶ月・銀貨十四枚/匁。


 ガデル成果報酬二回目計上:魔導銀五百匁達成・金貨二枚。


 エルナ提案:肉牛・乳牛の試験導入。金貨三枚前後・来月以降着手予定。


 ゴルフの言葉:「急ぎませんでした。ただし、着きました」。


 ペンを置いた。


 数字が変わった。


 外部収入が支出を超えた。


 それは、この領地が外に支えられるようになったということだった。


 内側で作り、外に売る。


 外からの収入が、内側を支える。


 領地の循環が、動き始めていた。



 第175話 青天月の収支 了

【次回予告】

 西側の排水堀が着工した。


──────────────────────────────────────


【領地収支・青天月第一光曜星時点(陽炎月確定)】


・所持金:金貨314枚(+43)

 収 入:冒険者固定給 金貨 30枚

     勲爵士給与  金貨 12枚

     外部取引   金貨 43枚

     合計     約  85枚

 支 出:月次固定   金貨 40枚

     ガデル成果報酬 金貨 2枚

     合計     約  42枚


 支出見込み:西側排水堀 金貨10枚前後(来月着工)

       工房拡張  金貨10枚前後(着工中・完成間近)

       畜産試験導入 金貨3枚前後(来月以降)

       飼育小屋建設 別途(順番待ち)


【発展進捗・第175話時点】


・防衛:100%(継続)

・食料:98%(畜産試験導入計画開始)

・水 :90%(継続)

・住居:75%(継続)

・インフラ:99%(ヴォルト商会供給契約成立・王都ルート進展)


 今日の進捗:青天月第一光曜星・月次給与支払い完了。陽炎月月間収支確定(プラス四十三枚・外部収入が固定支出を初めて上回る)。ヴォルト商会再交渉成立(魔導銀六ヶ月契約)。ガデル成果報酬二回目計上(金貨二枚)。エルナが畜産試験導入を提案(肉牛・乳牛各二頭・来月以降)。

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