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 第174話 ギルドを作る

 ギルドは、建物ではない。


 仕組みだ。


 ――仕組みができると、人が動き始める。

 陽炎月、末。


 朝、ヒコはセリウスとドガンを呼んだ。


 ゴルフとアーヴィンも同席した。


「ギルドの設計を、それぞれ聞かせてください」


 セリウスが先に口を開いた。


──────────────────────────────────────


「冒険者ギルドから話します」


 セリウスが小さな手帳を開いた。


「冒険者ギルドの役割は三つです。依頼の受付と管理。冒険者の登録と評価。紛争の調停」


「紛争の調停、ですか」


「外から人が増えると、必ず揉め事が起きます。ギルドは、その窓口になります」


 セリウスが続けた。


「登録制にします。フォルテス領で活動する冒険者は、全員ギルドに登録する。登録なしで依頼を受けた場合は、ギルドが介入します」


「登録料は取りますか」


「銀貨一枚で登録できます。年次更新制にします。更新しない場合は、領地内での活動を制限します」


「領主として、何か関与しますか」


「緊急時の依頼発注と、重大案件の最終判断はフォルテス領主が持ちます。それ以外は、ギルドに委任してもらいます」


 ヒコが頷いた。


「分かりました」


──────────────────────────────────────


 ドガンが次に口を開いた。


「商業ギルドだ」


 手帳は開かなかった。


 全部、頭の中にあった。


「商業ギルドの役割は四つだ。市場の管理。取引の仲介と証明。倉庫の運営。商人の登録と信用評価」


「信用評価、ですか」


「商人に格付けをする。実績がある商人と、初めて来た商人を同列にしない。格付けがあると、取引先が選びやすくなる」


 ゴルフが頷いた。


「それは必要です」


「使用料の設計も決めた。市場使用料は一区画につき銀貨二枚。ギルド仲介料は取引額の一分。倉庫保管料は一棚一週間で銀貨一枚」


「高くないですか」


「高くない。ただし、安くもない。適正だ」


 ドガンが続けた。


「払える商人だけが来ればいい。払えない商人は、まだ来る段階じゃない」


「厳しいですね」


「甘くすると、質が下がる。質が下がると、評判が下がる。評判が下がると、良い商人が来なくなる」


 セリウスが横から言った。


「冒険者ギルドも同じです。安売りすると、質が下がります」


「二人の考え方は、同じですね」


「当然だ」


 ドガンが短く言った。


「秩序は、値段で作る」


──────────────────────────────────────


 午後、ヒコはアーヴィンと二人で話した。


「二つのギルドができると、何が変わりますか」


 アーヴィンが少し考えた。


「人の流れが変わる」


「人の流れ、ですか」


「今まで、フォルテス領に来る人間は、目的が曖昧だった。移住したい。働きたい。商売したい。全部が混ざっていた」


「ギルドができると、整理されますか」


「そうだ。冒険者ギルドがあれば、冒険者が来る目的が明確になる。商業ギルドがあれば、商人が来る目的が明確になる。目的が明確な人間は、動きやすい」


 アーヴィンが続けた。


「動きやすい人間が集まると、領地が動きやすくなる」


 ヒコは少し考えた。


「拠点、ということですか」


「そうだ。フォルテス領が、通過する場所から、目的地になる」


 アーヴィンが短く言った。


「それが、ギルドを作るということだ」


──────────────────────────────────────


 夕方、セリウスとドガンが建設中の建物を見に行った。


 ガッツが案内した。


 ドガンが建物の骨格を見た。


「思ったより、しっかりしているな」


「ガッツさんの仕事です」


「ガッツというのは」


「建設総責任者です。フォルテス領の石壁も、工房も、この人が建てました」


 ドガンがガッツを見た。


「腕が良いな」


「ありがとうございます」


 ガッツが短く言った。


「当然の仕事をしただけです」


 セリウスが建物の内部を確認した。


「掲示板の場所はここで良いです。入口を入ってすぐ見える場所が良い」


「分かりました。ガッツさん、変更できますか」


「問題ない」


 ドガンが倉庫の位置を確認した。


「倉庫は、ギルドの裏手に繋げたい。商人が荷物を直接搬入できるようにする」


「導線が変わりますね」


「その方が使いやすい」


 ガッツが少し考えた。


「裏手に通路を作れる。来週から修正に入る」


「頼む」


 ドガンが短く言った。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 陽炎月末。冒険者ギルド・商業ギルドの設計協議完了。


 冒険者ギルド設計セリウス:依頼管理・登録評価・紛争調停。登録料銀貨一枚・年次更新制。緊急時と重大案件のみ領主が関与。


 商業ギルド設計ドガン:市場管理・取引仲介・倉庫運営・信用評価。市場使用料銀貨二枚/区画・仲介料取引額の一分・保管料銀貨一枚/棚/週。


 アーヴィンの言葉:フォルテス領が通過する場所から目的地になる。それが、ギルドを作るということだ。


 建物の修正:掲示板の位置変更・倉庫への通路追加。ガッツが来週から対応。


 ペンを置いた。


 ギルドは建物ではない。


 仕組みだ。


 仕組みが先にできていれば、建物は完成した日から動き始める。


 来月、建物が完成する。


 その日から、フォルテス領は変わる。



 第174話 ギルドを作る 了

【次回予告】

 青天月、一日。月次給与の支払い日だった。


──────────────────────────────────────


【領地収支・陽炎月末時点】


・所持金:金貨273枚(変動なし)

 支出見込み:西側排水堀 金貨10枚前後(着工中)

       工房拡張  金貨10枚前後(着工中)

       冒険者・商業ギルド建設 来月完成予定


【発展進捗・第174話時点】


・防衛:100%(継続)

・食料:98%(継続)

・水 :90%(継続)

・住居:75%(継続)

・インフラ:99%(ギルド設計確定・建物修正着手)


 今日の進捗:冒険者ギルド・商業ギルドの設計協議完了。セリウスが冒険者ギルドの三機能を説明。ドガンが商業ギルドの四機能と使用料設計を説明。アーヴィン「フォルテス領が通過する場所から目的地になる」。ガッツが建物の修正(掲示板位置・倉庫通路)を来週から対応。

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