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 第172話 セリウスが来た

 来た人間は、来た瞬間から、その場所の一部になる。


 手紙では分からなかったものが、顔を見ると分かる。


 ――それが、会うということだ。

 陽炎月、中旬。


 朝、ゴルフが来た。


「セリウスさんが着きました」


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 入口に出た。


 セリウスがいた。


 四十代後半の男だった。


 旅装だった。


 荷物は少なかった。


 随行者が一名いた。


 セリウスがヒコを見た。


 少し間を置いた。


「思ったより、大きくなりましたね」


 領地のことか、オレ自身のことか。


 ただし、どちらでも同じことだった。


「お待ちしていました」


「そのようですね」


 セリウスが石壁を見た。


 東側と北側を順番に見た。


「北側まで、もう立っているんですか」


「昨年のうちに」


「早い」


 短く言った。


 セリウスらしかった。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンが来た。


 セリウスを見た。


 セリウスがアーヴィンを見た。


 二人は少し間を置いた。


「元気そうだ」


 アーヴィンが言った。


「そちらも」


 セリウスが答えた。


 それだけだった。


 ただし、それで十分だった。


──────────────────────────────────────


 昼、食事をしながら話した。


 マルティナが少し良い日の食事を出した。


 セリウスが食べた。


「……美味いですね」


「マルティナさんが作っています」


「マルティナ、というのは」


「フォルテス領の食糧統括です。元アーゼルタウンの星の宿の宿主です」


 セリウスが少し驚いた顔をした。


「あの星の宿の……食糧統括ですか」


「本人が、ここを選んでくれました」


「そういう人間が、いるんですね」


 セリウスが食事を続けた。


 少し間を置いてから言った。


「ここは、そういう場所になっているんですね」


「どういう意味ですか」


「来た理由がある人間が来て、役割を持って動いている。来てみると、分かります」


 ヒコは少し考えた。


「手紙では伝わらないものが、ありましたか」


「空気です」


 セリウスが短く言った。


「この領地の空気が、前と違います。何かが変わりました」


「良い変化ですか」


「良い変化です。ただし」


 セリウスが続けた。


「良い変化には、次の問題が必ずついてきます」


 ヒコは少し考えた。


「問題、ですか」


「はい」


──────────────────────────────────────


 午後、ヒコとセリウスで話した。


 アーヴィンも同席した。


「冒険者ギルドを、ここに作りたいと思っています」


「作れます」


 セリウスが即答した。


「建物は、来月完成予定です」


「場所は決まっていますか」


「ガッツさんに頼んであります。入口から近い場所に建てます」


 セリウスが頷いた。


「人が来やすい場所が良いです。ギルドは、入口が大事です」


「分かりました」


「規則も必要です。外来者が増えると、何もしなければ揉め事が増えます」


「具体的には」


「武器の持ち込み規定。夜間の外出制限。宿泊登録。火気の管理。最低限、この四つです」


 アーヴィンが頷いた。


「それは必要だ」


「セリウスさんが、ギルドで管理してもらえますか」


「それが、自分の役割です」


 セリウスが静かに言った。


「ギルドは自由です。ただし、秩序の上に成り立ちます。秩序が崩れた瞬間、ギルドは壊れます」


「頼りにしています」


「任せてください」


 セリウスが短く言った。


「ここに来たのは、そのためです」


──────────────────────────────────────


 夕方、セリウスが領地を一人で歩いた。


 ヒコは少し離れてついていった。


 セリウスが農地を見た。


 工房を見た。


 訓練場を見た。


 騎士団の新人が訓練しているのを見た。


 下水網の出口を見た。


 倉庫を見た。


 最後に、石壁の上に登った。


 領地全体を見渡した。


 長い間、黙っていた。


「アーゼルタウンで初めて会ったとき」


 セリウスが言った。


「あなたは、まだ何も持っていなかった」


「そうでしたね」


「今は、持っている」


 セリウスが領地を見た。


「手紙を読んで、想像していました。ただし、想像より、ずっと本物でした」


 ヒコは何も言わなかった。


 セリウスが続けた。


「良い仕事です」


 それだけだった。


 ただし、セリウスが言うと、それだけで十分だった。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 陽炎月中旬。セリウス到着。随行者一名。


 アーヴィンとの再会:短く・重く。それだけで十分だった。


 食事中の対話:「この領地の空気が変わった」「来た理由がある人間が来て、役割を持って動いている」。


 冒険者ギルド設立の協議:建物来月完成予定。規則四点(武器持ち込み・夜間外出・宿泊登録・火気管理)を確認。セリウスがギルドマスターとして着任確定。


 石壁の上で:「想像より、ずっと本物でした」「良い仕事です」。


 ペンを置いた。


 セリウスが来た。


 手紙では伝わらなかったものが、伝わった。


 それは、ヒコも同じだった。


 文字では書けないものが、この領地にはあった。


 セリウスは、それを見ていた。


 ただし、セリウスが「本物だ」と言った。


 それで十分だった。



 第172話 セリウスが来た 了

【次回予告】

 ドガンも来た。


──────────────────────────────────────


【領地収支・陽炎月中旬時点】


・所持金:金貨273枚(変動なし)

 支出見込み:西側排水堀 金貨10枚前後(着工中)

       工房拡張  金貨10枚前後(着工中)

       冒険者ギルド建設 着工中(来月完成予定)


【発展進捗・第172話時点】


・防衛:100%(継続)

・食料:98%(継続)

・水 :90%(継続)

・住居:75%(継続)

・インフラ:99%(冒険者ギルド設立準備開始・規則四点確認)


 今日の進捗:セリウス到着。アーヴィンとの再会(短く・重く)。食事中の対話(領地の空気の変化を確認)。冒険者ギルド設立の協議(建物来月完成・規則四点・セリウスがギルドマスター着任確定)。石壁の上でセリウス「想像より、ずっと本物でした」「良い仕事です」。

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