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 第171話 初陣

 最初の実戦は、準備した全部を試す場だ。


 試した結果が、次の準備を作る。


 ――だから、最初の実戦は大事にしなければならない。

 陽炎月、第一光曜星。


 月次給与の支払い日だった。


 バルドが台帳を持ってきた。


「今月分だ」


「確認します」


 ヒコが台帳を受け取った。


 先月の若樹月末、ゴルフの月次精算も済んでいた。


 若樹月の外部取引収入は、金貨二十四枚だった。


 花灯月より戻していた。


 ゴルフの見立て通りだった。


 陽炎月の月次固定支出は先月と同じだった。


 台帳に署名した。


「バルドさん、支払いをお願いします」


「分かった」


──────────────────────────────────────


 その日の午後、土曜星に備えた準備が始まった。


 今回は、新人を含む初の合同定期討伐だった。


 アーヴィンが五個分隊全員を訓練場に集めた。


 二十五名が揃った。


 アーヴィンが前に立った。


「今日は、初めて全員で動く。ただし、やることは変わらない」


 新人の何人かが、少し緊張した顔をしていた。


「各分隊長の指示に従え。分隊長の指示が最優先だ。俺の指示より先に動くな」


 アーヴィンが全員を見た。


「全員無傷で帰る。それだけだ」


──────────────────────────────────────


 東の森へ向かった。


 アーヴィンが先頭に立った。


 五個分隊がその後に続いた。


 リクの分隊は左翼を担当した。


 索敵機動担当だった。


 リクが四名に短く指示を出した。


「間隔を保て。前を見るな。横と後ろを見ろ」


 新人が頷いた。


 森に入った。


 最初の十分は静かだった。


 リクが風の向きを確認した。


 足音を意識した。


 四名が後ろにいる。


 全員の位置が、頭の中にあった。


 以前は、自分のことで精一杯だった。


 今は、四名のことを考えながら動けた。


──────────────────────────────────────


 ブレードボアが出た。


 三頭。


 アーヴィンが即座に指示を出した。


「カイン、正面。リク、左から圧をかけろ。ドラン、後方固め。トマ、離れろ。ミーナ、右から回れ」


 五分隊が動いた。


 新人の動きは、まだ遅かった。


 ただし、止まらなかった。


 カインの分隊が正面で圧をかけた。


 ボアの注意がカインに向いた。


 リクが左から動いた。


「前に出るな。追い込むだけだ」


 リクが四名に言った。


 四名が頷いた。


 圧をかけた。


 ボアが動きを変えた。


 ミーナの分隊が右から入った。


 三頭は、崩れるように倒れた。


 二分もかからなかった。


 アーヴィンが何も言わなかった。


 それが、合格の意味だった。


──────────────────────────────────────


 帰り道。


 森を抜けたところで、アーヴィンが立ち止まった。


「上を見ろ」


 全員が空を見た。


 何もいなかった。


「何もいないが、何かいることがある」


 アーヴィンが続けた。


「飛ぶ魔物だ。森の奥に入ると、上から来ることがある。今日はいなかった。ただし、次はいるかもしれない」


 新人の一人が聞いた。


「飛行魔物は、どう対処するんですか」


「まず、見る。見てから考える」


 アーヴィンが短く言った。


「見えない相手には対処できない。だから、上を見る癖をつけろ」


 リクが空を見た。


 木々の隙間が、思ったより広かった。


 確かに、上は死角だった。


 森の中では、木が視界を遮る。


 訓練場でも、上を見ることはしていなかった。


「見張り塔が要りますね」


 カインが言った。


「ああ」


 アーヴィンが短く頷いた。


「高いところから見える目が必要だ」


──────────────────────────────────────


 訓練場に戻った。


 アーヴィンが全員の前に立った。


「及第点だ」


 それだけだった。


 新人の何人かが、少し表情を緩めた。


 アーヴィンは、それを見ていた


「ただし、及第点は最低限だ。次は、及第点より上を目指せ」


 アーヴィンが続けた。


「今日分かったことを、各自で整理しろ。明日の訓練で使え」


 解散になった。


──────────────────────────────────────


エピローグ


 リクは、帰り道、ずっと四名の後ろ姿を見ていた。


 全員無傷だった。


 当たり前のようで、当たり前ではなかった。


 初めての実戦だった。


 怖かった者もいたはずだった。


 それでも、動いた。


 指示通りに動いた。


 リクが「前に出るな」と言ったとき、四名は止まった。


 止まれた。


 それだけで、十分だった。


 アーヴィンが「及第点だ」と言った。


 リクには分かっていた。


 あれは、新人への言葉だけではなかった。


 分隊長五人への言葉でもあった。


 リクは空を見た。


 アーヴィンが「上を見ろ」と言った。


 見上げると、夕暮れの空が広かった。


 自分が見ていなかった方向が、まだあった。


 次は、そこも見る。


 分隊長として、見るべき場所が増えていた。



 第171話 初陣 了

【次回予告】

 セリウスが来た。


──────────────────────────────────────


【領地収支・陽炎月第一光曜星時点】


・所持金:金貨273枚(+26)

 収 入:冒険者固定給 金貨 30枚

     勲爵士給与  金貨 12枚

     外部取引   金貨 24枚

     合計     約  66枚

 支 出:月次固定   金貨 40枚

     合計     約  40枚


 収入見込み:外部取引(ゴルフ月末精算)

 支出見込み:西側排水堀 金貨10枚前後(着工中)

       工房拡張  金貨10枚前後(着工中)

       見張り塔建設 未定(次章以降で検討)


【発展進捗・第171話時点】


・防衛:100%(新人初陣・全員無傷・飛行魔物警戒の必要性確認)

・食料:98%(継続)

・水 :90%(継続)

・住居:75%(継続)

・インフラ:99%(継続・見張り塔構想浮上)


 今日の進捗:陽炎月第一光曜星・月次給与支払い完了。若樹月ゴルフ月次精算(外部取引金貨二十四枚)。新人含む初の合同定期討伐・全員無傷。アーヴィン「及第点だ」。帰り道に飛行魔物への警戒と見張り塔構想が浮上。エピローグ:リク視点(分隊長として初めて後ろを守った瞬間)。

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