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 第168話 セリウスが動いた

 準備が整った人間の手紙は、短い。


 長い手紙は、まだ迷っている。


 ――短い手紙が来たとき、相手は動いている。

 若樹月、下旬。


 朝、使者が来た。


 ランデル経由の書状だった。


 差出人は、セリウスだった。


 三通目だった。


 そして、一番短かった。


 「後任への引き継ぎが完了しました。近いうちに伺います」


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンに見せた。


 アーヴィンが読んだ。


 少し間を置いた。


「来るのか」


「そのようです」


「早いな」


 アーヴィンが書状を返した。


「近いうちに、というのはどのくらいだ」


「分かりません。ただし、引き継ぎが完了したと書いてあるので、準備は終わっているはずです」


「来る前に、受け入れの準備が要る」


「居住場所ですか」


「それと、役割だ。来てから決めるより、来る前に枠を作っておく方がいい」


 アーヴィンらしかった。


 来る前に、受け入れる側が整っている。


 それが、セリウスへの礼儀でもあった。


──────────────────────────────────────


 午前、ヒコはバルドに相談した。


「セリウスさんが来ます。居住場所を確保してください」


「一人か」


「書状には一人とあります。ただし、随行者がいるかもしれません」


「部屋が二つあれば足りるか」


「おそらく」


 バルドが少し考えた。


「宿屋の建設が始まれば、外来者用の部屋が増える。ただし、今は空き家を使う」


「セリウスさんは、長く滞在する方です。空き家で構いませんか」


「構わない。ただし、整備は必要だ。掃除と修繕を入れる」


「お願いします」


 バルドが立ち上がった。


「セリウスという人間は、どういう人間だ」


「アーゼルタウンの冒険者ギルドマスターです。オレとは旧知の仲で――」


 そこまで言って、止まった。


 肩書きを説明しても、違う気がした。


「……信用できる人間です。動くと決めたら、止まらない」


 バルドが頷いた。


「それで十分だ」


──────────────────────────────────────


 昼、ゴルフに伝えた。


「セリウスさんが来ます」


「聞きました。バルドさんから」


 ゴルフが手帳を開いた。


「冒険者ギルドの設立が、現実的になりますね」


「そうなります」


「ギルドができると、外部冒険者の受け入れが正式になります。今は個人的なルートで集めていますが、組織になれば規模が変わります」


「良い変化ですか」


「良い変化です。ただし、人が増えると問題も増えます」


 ゴルフが静かに言った。


「秩序が必要になります。ギルドがその役割を担う」


「セリウスさんはそれができる人間です」


「だから来るんでしょう」


 ゴルフが手帳を閉じた。


「王都ルートの件も、ギルドができれば動きやすくなります。冒険者の護衛依頼と商隊の輸送が繋がる」


「考えていましたか」


「常に考えています」


──────────────────────────────────────


 夕方、ヒコは返書を書いた。


 セリウスへの返事だった。


 短く書いた。


 「お待ちしています。仕事は、あります」


 それだけだった。


 使者に渡した。


 アーヴィンが横で見ていた。


「それだけか」


「それだけで十分です」


「そうだな」


 アーヴィンが少し間を置いた。


「セリウスさんは、そういう人間だ」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 若樹月下旬。セリウスから三通目の書状。「後任への引き継ぎが完了。近いうちに伺います」。


 受け入れ準備:バルドが居住用の空き家整備を開始。アーヴィンが役割の枠を事前に設計。


 ゴルフ所見:冒険者ギルド設立により外部冒険者の受け入れが正式化。王都ルートとの連動も視野に。


 返書:「お待ちしています。仕事は、あります」。


 ペンを置いた。


 セリウスが来る。


 アーゼルタウンで初めて会った日を思い出した。


 あの頃は、ヒコはまだ何も持っていなかった。


 今は、持っている。


 場所がある。


 仕事がある。


 人がいる。


 フォルテスは、もう一人では作れない場所になっていた。



 第168話 セリウスが動いた 了

【次回予告】

 ドガンからも、短い書状が届いた。


──────────────────────────────────────


【領地収支・若樹月下旬時点】


・所持金:金貨247枚(変動なし)

 支出見込み:西側排水堀 金貨10枚前後(来月着工)

       工房拡張  金貨10枚前後(着工中)

       宿屋建設  材料費別途(村人主体・進行中)


【発展進捗・第168話時点】


・防衛:100%(継続)

・食料:98%(継続)

・水 :90%(継続)

・住居:75%(空き家整備開始・宿屋建設進行中)

・インフラ:98%(継続)


 今日の進捗:セリウスから三通目の書状(後任引き渡し完了・近日来訪)。バルドが居住用空き家整備を開始。アーヴィンが受け入れの枠を事前設計。ゴルフが冒険者ギルド設立後の連動効果を分析。ヒコが返書(「お待ちしています。仕事は、あります」)。

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