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 第167話 倉庫

 置く場所があると、次を作れる。


 次を作れると、渡せるものが増える。


 ――渡せるものが増えると、人が集まる。

 若樹月、中旬。


 朝、バルドが来た。


「倉庫が完成した」


「村人が建てたんですよね」


「ガッツが指揮した。村人が動いた」


 バルドが短く言った。


「止めなかった」


──────────────────────────────────────


 完成した倉庫を見に行った。


 工房と農地の間に建っていた。


 以前より広かった。


 壁の組み方が、以前の簡易倉庫とは違った。


 しっかりした木組みだった。


 換気口があった。


 棚の配置が考えられていた。


 荷車が通れるよう、通路幅も広く取られていた。


「村人が設計したんですか」


「大工の経験がある者が一人いた。その人間が中心になって動いた」


 バルドが倉庫の壁を見た。


「ガッツに相談して、材料だけ出してもらった。あとは自分たちでやった」


「ガッツさんは何と言っていましたか」


「悪くない、と言っていた」


 ガッツが「悪くない」と言う場合、それは本当に悪くないということだった。


 ヒコが倉庫の中に入った。


 天井が高かった。


 棚が三段あった。


 奥に仕切りがあった。


「仕切りは何のためですか」


「農産物と鉱物を分けるためだ。においが移ると困る、と言っていた」


 それは、ヒコが指示したことではなかった。


 村人が自分達で考えた。


──────────────────────────────────────


 昼、ヒコはバルドに聞いた。


「村人が自分から動くようになったのは、いつ頃からですか」


 バルドが少し考えた。


「少しずつだ。気づいたら、動いていた」


「何かきっかけはありましたか」


「商隊が来るようになってからだ。外から人が来て、見られるようになって、自分たちの場所だと意識し始めた」


 バルドが続けた。


「以前は、ここは領主の領地だった。今は、自分たちの領地になっている」


「それは、良いことですか」


「良いことだ」


 バルドが短く言った。


「自分で動く人間が増えると、俺の仕事が減る。俺の仕事が減るのは、良いことだ」


 ヒコは少し笑った。


「バルドさんらしいですね」


「褒め言葉として受け取っておく」


──────────────────────────────────────


 午後、バルドが追加の報告を持ってきた。


「もう一つあった」


「聞かせてください」


「宿屋を作りたい、という話が出ている」


「村人からですか」


「そうだ。商隊が来るたびに、泊まる場所がない。今は空き家に押し込んでいるが、それも限界に近い」


 ヒコは少し考えた。


 外来者が増えた。


 商隊、冒険者、新規移住者。


 泊まる場所が必要になるのは、当然だった。


「村人が自分で建てますか」


「建てたいと言っている。材料と場所があれば、動けると」


「場所はどこを考えていますか」


「入口に近い場所がいい、と言っていた。商隊が入ってすぐ分かる場所だ」


 ヒコが入口付近を《可視化》で確認した。


 商隊が出入りする道の横に、空き地が残っていた。


 地盤も悪くない。


「場所は出せます。材料はガッツさんと相談してください」


「分かった」


 バルドが立ち上がった。


「ここは、町になっていく」


 独り言のようだった。


 ヒコには聞こえた。


「そうなりそうですね」


「なるだろう」


 バルドが短く言った。


「ただし、町になっても、ここはここだ」


──────────────────────────────────────


エピローグ


 バルドは夜、一人で帳簿を閉じた。


 村人の名前が増えていた。


 新人の騎士団員。移住者。商隊からの流入者。


 一年前には、いなかった人間たちだった。


 倉庫を建てた大工の名前も、そこにあった。


 自分から動いた人間だった。


 バルドはその名前を見た。


 止める理由がなかったから、止めなかった。


 それだけだった。


 ただし、正確には違うかもしれなかった。


 止めたくなかったから、止めなかった。


 動く人間を見るのは、悪くなかった。


 ヒコが夜遅くに書類を持ってきた。


「バルドさん、これ確認しておいてください」


 バルドは受け取って、少し間を置いた。


「承知しました……」


 言いかけて、止まった。


「……分かった」


 ヒコが少し首を傾けた。


「どうかしましたか」


「何でもない」


 ヒコが去った後、バルドは帳簿に目を戻した。


 自分が変わっていた。


 いつから、という記憶はなかった。


 気づいたら、変わっていた。


 村人と同じだった。


 バルドは帳簿を閉じた。


 外では、完成した倉庫が夜の中に立っていた。


 灯りの消えた領地の中で、そこだけが、まだ新しかった。



 第167話 倉庫 了

【次回予告】

 セリウスから、また手紙が来た。


──────────────────────────────────────


【領地収支・若樹月中旬時点】


・所持金:金貨247枚(変動なし)

 支出見込み:西側排水堀 金貨10枚前後(来月着工)

       工房拡張  金貨10枚前後(着工中)

       宿屋建設  材料費別途(村人主体・規模未定)


【発展進捗・第167話時点】


・防衛:100%(継続)

・食料:98%(継続)

・水 :90%(継続)

・住居:75%(倉庫完成・宿屋建設計画浮上)

・インフラ:98%(継続)


 今日の進捗:村人主導の倉庫完成(換気口・三段棚・農産物と鉱物の仕切りあり)。バルド「自分たちの領地になっている」。宿屋建設の提案が村人から浮上。エピローグ:バルド視点(忠誠変化第一段階・「承知しました」から「分かった」へ)。

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