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 第165話 装備の話

 装備は、戦い方を決める。


 戦い方が変われば、装備も変わる。


 ――変わる前に、変えておくことが大事だ。

 花灯月、末。


 夕方、ゴルフが来た。


「花灯月の取引まとめです」


「聞かせてください」


 ゴルフが手帳を開いた。


「外部取引収入、金貨十九枚です」


「先月より少ないですね」


「騎士団再編で輸送路警戒が減りました。ただし想定内です。来月は戻します」


 ゴルフが続けた。


「王都ルートも進んでいます。商人一名と繋がれました。来月、正式に引き合わせます」


「順調ですね」


「急ぎません。ただし、止めません」


──────────────────────────────────────


 翌朝、アーヴィンがガデルのところに行った。


 ヒコも同行した。


 工房は朝から火が入っていた。


 ガデルが魔導銀の成形をしていた。


 新人の一人が、蒼鋼を見て言った。


「……これ、本当に辺境の工房か?」


 アーヴィンが入口で立ち止まった。


「装備の相談がある」


 ガデルが手を止めた。


「聞く」


「新しい装備が必要だ。二種類」


「言え」


 アーヴィンが続けた。


「一つは軽量装備だ。シャドウリンクスへの対応用。速さが必要だ。重い鎧では追えない」


 ガデルが少し考えた。


「シャドウリンクスは一撃離脱か」


「そうだ。木陰と岩陰に潜って、一撃入れて逃げる。追いかけるより、先に動く必要がある」


「軽さと防御の両立か。難しいな」


「難しいのは分かっている。ただし、今の装備では対応できない」


「もう一つは」


「モスハウンド対応だ。苔狼型で、擬態がある。接近に気づきにくい。打撃に耐えられる装備が必要だ」


 ガデルが腕を組んだ。


「打撃耐性と軽量を同時に求めるのは無理だ。どちらを優先する」


「用途で分ける」


「分隊ごとか」


「そうだ」


 ガデルが少し間を置いた。


「作れる。ただし、素材が必要だ」


「何が要りますか」


 ヒコが聞いた。


「蒼鋼だ。今ある量では足りない。増産してもらう必要がある」


「どのくらい必要ですか」


「二十五名分となると……軽量型が八名分、打撃耐性型が十二名分として。蒼鋼で六百匁は要る。これだけの蒼鋼を動かす領地は、そう多くない」


 ヒコは計算した。


 現在の月産量では、数ヶ月かかる。


「急ぎますか」


「急ぐな」


 ガデルが短く言った。


「急いで作った装備は、直ぐ壊れる。素材が揃ってから、順番に作る」


「分かりました。採掘の増産をゾルドさんに相談します」


──────────────────────────────────────


 午後、ガデルが追加で声をかけてきた。


「もう一つ、話がある」


「聞かせてください」


「炉が足りない」


 ガデルが工房の奥を指した。


「今の炉は二基だ。装備を量産するには、高熱炉がもう一基要る。蒼鋼の成形には、今の炉では温度が足りない場面が出てくる」


「高熱炉の建設ですか」


「それだけじゃない。冷却水路も要る。金属を急冷する工程で、水が必要になる。今は桶で対応しているが、量が増えると追いつかない」


 ヒコが工房全体を見た。


 作業台、炉、道具棚、精製エリア。


 確かに、手狭になってきていた。


「搬入の導線も変えますか」


 ガデルが少し驚いた顔をした。


「分かるか」


「素材が増えると、運び込む動線が詰まりますよね。今の入口だと、ゾルドさんたちの搬入と、作業の動線が交差してます」


「その通りだ」


 ガデルが短く言った。


「よく見ている」


「ガッツさんに相談して、拡張の設計をお願いします。高熱炉・冷却水路・搬入導線。三点セットで」


「急かすな」


「急ぎません」


 ヒコが答えた。


「ただし、次の段階に備えて、準備を始めます」


 ガデルが少し間を置いた。


「分かった」


──────────────────────────────────────


 夕方、ガッツに工房拡張の話を持っていった。


「工房の拡張をお願いしたいです。高熱炉の増設、冷却水路の整備、搬入導線の見直し」


 ガッツが腕を組んだ。


「冷却水路は、下水網と繋げられるか確認が要る。ゾルドに聞く」


「お願いします」


「高熱炉の基礎は、今の工房の裏手に余地がある。そこを使えばいい」


「費用の見込みは」


「材料費と人件費で、金貨十枚前後になる。ただし、冷却水路の引き方次第で変わる」


「来月から動けますか」


「動ける。ただし、訓練場の拡張と並行になる。人手を分ける必要がある」


「優先順位はどうしますか」


「訓練場を先に終わらせる。工房は来月半ばから」


「分かりました」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 花灯月末。ゴルフ月間報告:外部取引収入金貨十九枚(先月比減・騎士団再編による往来減が要因)。来月回復見込み。王都ルート:商人一名と繋がり確立・来月引き合わせ予定。


 装備相談:アーヴィンがガデルに依頼。軽量型(シャドウリンクス対応)・打撃耐性型(モスハウンド対応)。蒼鋼六百匁が必要。採掘増産をゾルドに相談予定。


 工房拡張:高熱炉増設・冷却水路・搬入導線見直し。ガッツに依頼。金貨十枚前後。来月半ばから着工。


 ペンを置いた。


 工房では、まだ炉の火が消えていなかった。


 火が強くなる。


 装備が変わる。


 守れる範囲が広がる。


 フォルテスは、また次の段階へ進もうとしていた。


 ガデルが「問題ない」と言った。


 それだけで、十分だった。



 第165話 装備の話 了

【次回予告】

 西側の整備について、ガッツが提案してきた。


──────────────────────────────────────


【領地収支・花灯月末時点(確定)】


・所持金:金貨287枚(+28)

 収 入:冒険者固定給 金貨 30枚

     勲爵士給与  金貨 12枚

     外部取引   金貨 19枚

     合計     約  61枚

 支 出:月次固定   金貨 33枚

     合計     約  33枚


 支出見込み:訓練場拡張 銀貨30枚(着工中)

       工房拡張  金貨10枚前後(来月半ば着工)


【発展進捗・第165話時点】


・防衛:100%(装備更新計画開始・蒼鋼増産検討中)

・食料:98%(継続)

・水 :90%(継続)

・住居:72%(継続)

・インフラ:98%(工房拡張計画開始)


 今日の進捗:花灯月末・ゴルフ月間報告(外部取引金貨十九枚・王都ルート商人一名確保)。アーヴィンがガデルに装備相談(軽量型・打撃耐性型・蒼鋼六百匁必要)。ガッツに工房拡張依頼(高熱炉・冷却水路・搬入導線・金貨十枚前後・来月半ば着工)。

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