表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
307/351

 第164話 新人

 最初の一日は、その場所の空気を全部吸う日だ。


 吸った空気が、その後の判断を作る。


 ――最初の一日で、その場所は決まる。

 花灯月、末。


 新人二十名が揃った。


 朝、訓練場に集まった。


 ゴルフが集めた人間が十二名。


 新規移住者の中から選んだ人間が八名。


 年齢はばらばらだった。


 出自もばらばらだった。


 ただ、全員が「働ける」という目をしていた。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンが前に立った。


 それだけで、訓練場の空気が変わった。


 新人の中の一人が、隣の者に小声で言った。


「……怖い人だな」


 隣の者が頷いた。


「沈黙の剣士、って本当にいるんだな」


 アーヴィンは聞こえていたかもしれなかった。


 何も言わなかった。


 ただ、全員をゆっくりと見た。


「俺がアーヴィンだ。騎士団長を務めている」


 声は静かだった。


 ただ、静かなのに、全員に届いた。


「お前達が今日から入る騎士団は、まだ小さい。ただし、弱くはない」


 新人の一人が、訓練場の石壁を見た。


 別の一人が、領地の様子を窺った。


「辺境の小さな領地、と聞いてきた者もいるだろう」


 何人かが視線を動かした。


「見れば分かる」


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 最初の一時間は、整列と基本動作の確認だった。


 アーヴィンが指示を出した。


 五人の分隊長が各自の四名を引き連れて動いた。


 新人の反応は、最初は遅かった。


 指示と動作の間に、間があった。


 ただ、カインの分隊が動くと、他の分隊が追った。


 リクの分隊は、最初から動きが早かった。


 ミーナの分隊は、指示より先に動こうとして、ミーナに止められた。


「早いのはいい。ただし、勝手に動くな」


 ミーナが短く言った。


 その一言で、分隊が静止した。


 アーヴィンがそれを見て、何も言わなかった。


──────────────────────────────────────


 昼休みに、新人たちが話していた。


 ヒコは少し離れた場所で聞いていた。


「無駄に静かだな、ここ」


「静かなのに、全員が動いてる」


「怒鳴る人間がいない」


「指示が短い。なのに伝わってる」


 別の一人が石壁を見た。


「あの壁、思ってたより高い」


「東側と北側、両方あるぞ」


「辺境って聞いてたのに」


「辺境じゃないんじゃないか、もう」


 ヒコは何も言わなかった。


 聞こえていなかったふりをした。


──────────────────────────────────────


 午後の訓練。


 リクが自分の分隊四名に索敵の基礎を教えていた。


 風の向き。足音の消し方。視野の広げ方。


 新人の一人がリクを見ていた。


 年齢はリクとそれほど変わらなかった。


「分隊長って、いくつですか」


「関係ない」


 リクが短く言った。


「動けるかどうかだ」


 新人が黙った。


 リクは気づいていた。


 自分が見られていることに。


 以前は、こういうとき、どう振る舞えばいいか分からなかった。


 今は、分かっていた。


 見られているなら、見せればいい。


 正しい動きを。


 それだけだった。


 アーヴィンが遠くからリクを見ていた。


 何も言わなかった。


──────────────────────────────────────


 夕方、訓練が終わった。


 新人たちが思い思いの場所で休んでいた。


 アーヴィンがヒコのところに来た。


「初日の印象を聞かせてください」


「及第点だ」


「どのあたりが」


「動こうとしている。指示を聞こうとしている。それだけで、今日は十分だ」


「問題がある者はいますか」


「今日は分からない。明日以降で見える」


 アーヴィンが少し間を置いた。


「リクが変わった」


「はい」


「以前は、見られることを嫌がっていた。今日は、見られることを使っていた」


「成長しましたね」


「ここで育った」


 アーヴィンが短く言った。


「それが、この場所の力だ」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 花灯月末。新人二十名が配属初日。ゴルフルート十二名・移住者八名。


 新人印象:「無駄に静かだ」「怒鳴る人間がいない」「辺境じゃないんじゃないか」。


 アーヴィン評:及第点。動こうとしている。指示を聞こうとしている。


 リク:見られることを使っていた。アーヴィン「ここで育った」。


 《可視化》確認:新人の色はまだばらばら。ただし、全員に「ここにいようとしている」色があった。


 ペンを置いた。


 二十名が来た。


 二十五名体制になる。


 領地の色が、また少し変わる。


 新しい人間が来るたびに、この場所が変わる。


 人が増える。


 役割が増える。


 守るものが増える。


 そうやって、領地は生き物みたいに変わっていく。



 第164話 新人 了

【次回予告】

 ガデルに、装備の相談をした。


──────────────────────────────────────


【領地収支・花灯月末時点】


・所持金:金貨259枚(変動なし)

 支出見込み:訓練場拡張 銀貨三十枚(着工中)


【発展進捗・第164話時点】


・防衛:100%(新人二十名配属初日・二十五名体制へ移行中)

・食料:98%(継続)

・水 :90%(継続)

・住居:72%(継続)

・インフラ:98%(継続)


 今日の進捗:新人二十名が配属初日。ゴルフルート十二名・移住者八名の混成。アーヴィン評「及第点」。リクが見られることを使いこなす成長を確認(第133話回収)。《可視化》で新人全員に「ここにいようとしている」色を確認。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ