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 第163話 背中を預ける

 人は、一人では守りきれない。


 だから隊がある。


 ――隊になれるかどうかは、誰の背中を見るかで決まる。

 花灯月、四日。


 朝の訓練が終わった後、アーヴィンが五人を呼んだ。


 カイン、リク、ドラン、トマ、ミーナ。


 五人が訓練場に並んだ。


 アーヴィンは少し間を置いてから言った。


「お前達は、もう前に出る側じゃない」


 五人が黙っていた。


「後ろを守る側だ」


──────────────────────────────────────


 五人の反応は、それぞれ違った。


 カインが静かに頷いた。


 リクが少し目を細めた。


 ドランが姿勢を正した。


 トマが一瞬だけ視線を下げた。


 ミーナが小さく息を吐いた。


 ミーナだけが、少し面白そうに口角を上げた。


「俺が一番前に出る。お前達は各自の持ち場を守る。持ち場の四名を率いる。それだけだ」


「四名、ですか」


 リクが聞いた。


「新人が二十名。各自に四名ずつ配属する」


「合計二十五名体制ということですか」


「そうだ」


 アーヴィンが続けた。


「カイン。お前は正面制圧担当だ。前線での突破と制圧を担う。四名は突撃適正のある者を選ぶ」


「了解」


「リク。索敵機動担当だ。前より広い範囲を見る。素早さに長けた者を選べ」


「分かりました」


「ドラン。防衛護衛担当だ。拠点と要人を守ることに特化する。慎重・確実な行動ができる者を選べ」


「おう」


「トマ。後方輸送担当だ。物資、傷病者、伝令の流れを管理する。判断が早い者を選べ」


 トマが頷いた。


「ミーナ。遊撃連携担当だ。状況に応じてどこにでも動く。適応性・柔軟性がある者を選べ」


「任せて」


 ミーナが短く言った。


 アーヴィンが五人を改めて見た。


「お前達には今まで、俺の背中を見せてきた。これからは、後ろで背中を見る仕事になる」


 誰も何も言わなかった。


「それが嫌なら、今言え」


 沈黙が続いた。


 カインが先に口を開いた。


「嫌じゃない」


 リクが続いた。


「やります」


 ドランが頷いた。


 トマが「承知しました」と言った。


 ミーナが「面白そう」と言った。


 アーヴィンが短く言った。


「よし」


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 その日の昼、ヒコはアーヴィンから報告を受けた。


「五人は受け入れた」


「はい」


「あの五人は、もう分かっている。俺が何を求めているか」


 アーヴィンが静かに言った。


「それが、ここでで積み上げてきたものだ」


 五人は、もうアーヴィンの言葉だけで動ける。


 それだけ積み上げてきたということだった。


「新人の配属は、いつ頃になりますか」


「ゴルフのルートで声をかけている。今月末から来月頭には揃う」


「訓練はどこでやりますか」


 アーヴィンが少し間を置いた。


「訓練場が狭い」


「ですね」


「今の訓練場では、二十五人を同時に回せない。拡張が必要だ」


「ガッツさんに相談しますか」


「頼む」


──────────────────────────────────────


 午後、ヒコはガッツのところに行った。


「訓練場の拡張をお願いしたいんですが」


 ガッツが腕を組んだ。


「どのくらい広げる」


「二十五名が同時に動けるスペースです。模擬壁も欲しいです」


「模擬壁というのは」


「石壁の突破と防衛の訓練に使います。実際の石壁に近い構造で」


 ガッツが少し考えた。


「今の訓練場の東側に余地がある。あそこを使えば広げられる。模擬壁は、廃材で作れる」


「費用はどのくらいになりますか」


「廃材使うからな。人件費込みで銀貨三十枚あれば足りる」


「助かります。夜戦訓練用のスペースも取れますか」


「夜戦か」


 ガッツが少し目を細めた。


「篝火を置く場所を作れば可能だ。ただし、村人の迷惑にならない場所を選ぶ必要がある」


「配置はガッツさんに任せます」


「分かった。来週から取り掛かる」


──────────────────────────────────────


 夕方、アーヴィンに伝えた。


「訓練場の拡張、来週から着工です。模擬壁と夜戦スペースも取ります」


「早いな」


「ガッツさんに頼めば、早いです」


 アーヴィンが短く頷いた。


「新人が来るまでに間に合うか」


「来月頭なら、ちょうど間に合いそうです」


「丁度いい」


 アーヴィンが空を見た。


「新人が来る前に、五人に一つだけ伝えたいことがある」


「何を伝えるんですか」


「後ろを守るというのは、前に出ないということじゃない。前に出る者が安心して出られるように動くということだ」


 アーヴィンが静かに言った。


「それを分かっていれば、二十五名でも回せる」


 ヒコは少し考えた。


「アーヴィンさんが、レインさんにそうしてもらっていたんですか」


 アーヴィンが少し間を置いた。


「逆だ」


「逆?」


「俺が、レインの後ろを守っていた」


 それだけ言って、アーヴィンは歩いていった。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 花灯月四日。騎士団再編・アーヴィンから五人への通達完了。


 五個分隊制確定。カイン(正面制圧)・リク(索敵機動)・ドラン(防衛護衛)・トマ(後方輸送)・ミーナ(遊撃連携)。


 新人二十名:今月末〜来月頭に配属予定。ゴルフルートで募集中。


 訓練場拡張:ガッツに依頼済み。模擬壁・夜戦スペース込みで来月頭完成予定。銀貨三十枚。


 アーヴィンの言葉:後ろを守るのは、前に出る者が安心して出られるように動くことだ。


 ペンを置いた。


 アーヴィンとレインの話は、いつも短かった。


 短い分だけ、重かった。


 後ろを守るということが、何なのか。


 レインという人間が、どういう人間だったのか。


 それを少しだけ、分かった気がした。



 第163話 背中を預ける 了

【次回予告】

 新人二十名の最初の一日。


──────────────────────────────────────


【領地収支・花灯月四日時点】


・所持金:金貨259枚(変動なし)

 支出見込み:訓練場拡張 銀貨三十枚(来月着工)


【発展進捗・第163話時点】


・防衛:100%(騎士団再編通達完了・五個分隊制確定)

・食料:98%(継続)

・水 :90%(継続)

・住居:72%(継続)

・インフラ:98%(継続)


 今日の進捗:アーヴィンが五人に五個分隊制を通達。カイン・リク・ドラン・トマ・ミーナの役割確定。訓練場拡張をガッツに依頼(模擬壁・夜戦スペース・銀貨三十枚・来月頭完成予定)。アーヴィンとレインの過去が短く示唆される。

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