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 第160話 帰り道

 外を歩くと、自分がいる場所の輪郭が見えてくる。


 輪郭が見えると、次にすべきことが見えてくる。


 ――帰り道は、次の仕事の始まりだ。

 芽吹月、二十九日。


 ランデルを出た。


 帰り道だった。


 マユミが前を行った。


 ミルヴァが後ろについた。


 俺が真ん中だった。


 行きと同じ並びだった。


 道は、来た時と同じだった。


 ただし、見え方が違った。


──────────────────────────────────────


 しばらく、誰も話さなかった。


 マユミが前を向いたまま言った。


「どうだった」


「何がですか」


「ランデルを見て、どう思った」


 俺は少し考えた。


「思っていたより、広かったです」


「それだけか」


「フォルテス領産が動いていました。噂も動いていました」


「それが分かったのか」


「分かりました。ただし」


 俺は少し間を置いた。


「内側から想像していたものより、外はもっと動いていました」


「良いことか、悪いことか」


「両方です。良い噂が広がっている。ただし、警戒すべき情報も混じっている」


 マユミが少し頷いた。


「出て正解だった」


──────────────────────────────────────


 ミルヴァが後ろから言った。


「ベルン商会の件、王都方面に動いた可能性が高い」


「カルヴィン・レイドの手紙と繋がりますか」


「繋がる。商業系以外の動きがある、という話だった。フォルテス領への圧力を、上から加えようとしている」


「上から、というのは具体的には」


「王都の中央商業ギルドか、行政か。どちらかだ。ただし、直接動くには、もう少し時間がかかる」


「なぜそう思いますか」


「ランデルの人員が減っていた。準備中だということだ。準備が終わったら動く」


 マユミが前を向いたまま言った。


「その前に、こちらが固まっていればいい」


「そうです」


 ミルヴァが短く言った。


「だから急ぐ必要はない。ただし、動きを見続ける必要がある」


──────────────────────────────────────


 道の途中で、マユミが馬を止めた。


 振り返った。


「見ろ」


 俺も馬を止めた。


 ランデルの方向を見た。


 町が小さく見えた。


 荷車が動いていた。


 小さかった。


 俺たちがいた場所が、あそこだった。


 次にフォルテス領の方向を見た。


 石壁が見えた。


 東側と北側が、光を受けていた。


「見えますね」


「ああ」


 マユミが少し間を置いた。


「遠くから見ると、でかいな」


「そうですね」


「ヒコが作った」


「皆で作りました」


「そうだな」


 マユミが前を向いた。


「帰るぞ」


──────────────────────────────────────


 フォルテス領に戻った。


 門を通った。


 バルドが出迎えた。


「問題はあったか」


「ありませんでした」


「こちらも問題なかった。定期討伐も通常通り実施した」


「アーヴィンさんは」


「問題なかった、と言っていた」


 バルドが短く言った。


「それだけだった」


 アーヴィンらしかった。


──────────────────────────────────────


 夜、ゴルフに共有した。


「地下の話が噂になり始めています。ランデルで商人が話していました」


「把握していませんでした」


 ゴルフが少し考えた。


「対処が必要ですか」


「必要です。ただし、慌てない。噂を打ち消そうとすると、かえって広がります」


「どうしますか」


「『フォルテス領では良い鉱石と作物が取れる』という事実だけ残します。『地下に何かある』という噂は、否定も肯定もしない。そのうち別の噂に上書きされます」


「分かりました」


 ゴルフが手帳に書いた。


「ベルン商会の動きも伝えてください」


「王都方面に移った可能性があります。ランデルの人員が減っていました」


「準備中ということですね」


「そう読んでいます。対応方針は変えません。信用を積み続けます」


「了解です」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 芽吹月二十九日。ランデルから帰還。


 帰り道:マユミと石壁を遠くから確認。石壁の規模を再認識。


 ゴルフへの報告:地下の噂の件・ベルン商会の動き。


 地下の噂対応:否定も肯定もしない。別の噂に上書きされるのを待つ。


 ペンを置いた。


 外に出て、帰ってきた。


 見えたものがあった。


 フォルテス領産が動いていた。


 噂が広がっていた。


 ベルン商会が方針を変えた可能性があった。


 地下の話が漏れていた。


 全部が、内側にいたら分からなかったことだった。


 外に出たから、分かった。


 マユミが石壁を見て「でかいな」と言った。


 遠くから見ると、でかかった。


 内側から見ると、まだ足りないと思っていた。


 外と内で、見え方が違った。


 どちらも正しかった。


 ただし、両方が見えている方が、正確だった。


 ――内と外を行き来できる人間が、正確に判断できる。


 窓の外に月があった。


 芽吹月の月だった。


 フォルテス領の月だった。


 ランデルの月より、くっきりしていた。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第160話 帰り道 了

【次回・第161話 予告】


 芽吹月が終わる。

 マルティナが、春の食事を用意していた。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨257枚前後(変動なし)


【発展進捗・第160話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :72%(変化なし)

・インフラ:98%(変化なし)


 今日の進捗:ランデルから帰還。帰り道でマユミが石壁を遠くから確認(「遠くから見ると、でかいな」)。ゴルフに地下の噂・ベルン商会の動きを報告。噂対応:否定も肯定もしない方針。対応方針変えず信用を積み続ける。バルド:不在中問題なし。定期討伐:なし(闇曜星・整備日)。

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