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 第159話 外に出る理由

 領地の外に出ることが、領地の内側のためになる。


 内側だけを見ていると、内側の形が分からなくなる。


 ――外から見て、初めて分かることがある。

 芽吹月、二十五日。


 夕方、マユミが執務室に来た。


「少し、出たいな」


 俺は少し手を止めた。


「どこへですか」


「ランデルだ。護衛も兼ねる。情報も集めてくる」


「どれくらい行きますか」


「二泊三日もあれば十分だ」


 マユミが短く言った。


「ゴルフから聞いた。ランデルで、フォルテス領の評判が広がっているらしい」


「聞きましたか」


「直接見たい」


──────────────────────────────────────


 ミルヴァに確認した。


「ランデルへの短期出張を考えています。ミルヴァさんも同行できますか」


「できる」


「三人で行きます。俺・マユミ・ミルヴァさんです」


「日程は」


「二日後に出発。二泊三日でお願いします」


「準備する」


 ミルヴァが短く言った。


「ランデルで確認したいことがある」


「ベルン商会の動きですか」


「それもある。ただし、もう一つある」


「何ですか」


「偽物問題の件だ。ゴルフが記録を積んでいる。現地で補足できることがある」


「一緒に確認しましょう」


──────────────────────────────────────


 出発前に、バルドとアーヴィンに伝えた。


「二泊三日でランデルに行きます。不在時の対応をお願いします」


 バルドが頷いた。


「分かった。問題があれば、アーヴィンさんに」


「不在時はアーヴィンさんが代行です。よろしくお願いします」


 アーヴィンが短く言った。


「了解した。何も起きない」


「起きないことを祈ります」


「祈る必要はない。起きたら対処する」


 アーヴィンが言った。


 それが、アーヴィンだった。


──────────────────────────────────────


 芽吹月、二十七日。


 三人でランデルに向かった。


 フォルテス領から三時間ほどの道だった。


 馬を使った。


 マユミが前を行った。


 ミルヴァが後ろについた。


 俺が真ん中だった。


 道は整っていた。


 以前より人が通った跡があった。


「この道、前より踏み固まっていますね」


「商隊が通ったからだ」


 マユミが短く言った。


「フォルテス領が動き始めた証拠だ」


 踏み固まった道が、証拠だった。


──────────────────────────────────────


 ランデルに着いた。


 物流の中継地点だった。


 人が多かった。


 市場があった。


 荷車の音が絶えなかった。


 呼び込みの声が重なっていた。


 宿が並んでいた。


 ゴルフが何度も行き来した町だった。


 初めて来た。


 思っていたより、広かった。


 市場を歩いた。


 マユミが周囲を確認しながら歩いた。


 ミルヴァが少し離れてついてきた。


 市場の一角に、農産物が並んでいた。


 フォルテス領産と書いた札があった。


 刻印があった。


 本物だった。


 隣に、似たような農産物があった。


 札がなかった。


 ミルヴァが小声で言った。


「偽物じゃない。ただし、品質が落ちる」


「分かりますか」


「色と張りが違う」


──────────────────────────────────────


 宿の食堂で、商人たちの話が聞こえた。


 意図的に聞いていたわけではなかった。


 ただし、聞こえた。


「フォルテス領の刻印物、最近よく見るな」


「そうだな。品質がいい。値は張るが、外れがない」


「あの辺境、なんであんなに品質が良いんだ」


「石壁が立派らしい。あとは地下に何かあるとか」


「地下に何か、というのは」


「知らん。噂だ。ただし、そこの魔導銀は別格らしい」


 俺とマユミは顔を見合わせた。


 マユミが小さく言った。


「地下の話が、噂になり始めているな」


「ゴルフさんに伝えます」


「ミルヴァに先に言え」


「そうでした」


──────────────────────────────────────


 夕方、ミルヴァが戻ってきた。


「ベルン商会の人員は、先月より減っている」


「減りましたか」


「撤収したわけではない。ただし、方針を変えた可能性がある」


「どう変わりましたか」


「ランデルで直接動くのではなく、別のルートを探している可能性がある」


「別のルートとは」


「王都方面だ。フォルテス領への圧力を、ランデルからではなく、上から加えようとしているかもしれない」


「王都から、ということですか」


「可能性だ。断言できない。ただし、注意が必要だ」


 俺は少し考えた。


 カルヴィン・レイドが「商業系以外の動きもある」と言っていた。


 繋がるかもしれなかった。


──────────────────────────────────────


 夜、宿で記録をつけた。


 芽吹月二十七日〜二十九日。ランデル短期外出。


 市場確認:フォルテス領産の農産物・刻印品が流通。本物と粗悪品が並存。


 商人の会話:「品質がいい」「値は張るが外れない」「地下に何かある」という話が出ている。


 地下の話の流出:ミルヴァと確認。対応方針要検討。


 ミルヴァ情報:ベルン商会の動きが変わった可能性。ランデルから王都方面へ。


 ペンを置いた。


 外から見た。


 フォルテス領産が、ランデルで確かに動いていた。


 噂も動いていた。


 良い噂と、警戒すべき情報が混じっていた。


 内側にいるだけでは、見えなかったものがあった。


 外に出たから、見えた。


 ――外から見えたものが、内側をより良くする。


 窓の外に月があった。


 ランデルの月だった。


 フォルテス領の月より少し霞んでいた。



 第159話 外に出る理由 了

【次回・第160話 予告】


 帰り道。ヒコは少し、黙っていた。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨257枚前後(変動なし)

・旅費:銀貨数枚(宿・食事・馬代)


【発展進捗・第159話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :72%(変化なし)

・インフラ:98%(変化なし)


 今日の進捗:マユミの提案でランデルへ短期外出(ヒコ・マユミ・ミルヴァの三名)。市場でフォルテス領産の刻印品が流通しているのを確認。商人の会話で「品質がいい」「地下に何かある」という噂を確認。ミルヴァ情報:ベルン商会の動きが変わった可能性(ランデルから王都方面へ)。定期討伐:なし(アーヴィン不在なし・通常通り実施)。

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