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 第158話 形になる

 形になるのは、一瞬ではない。


 ある日気づいたら、形になっている。


 ――気づいたとき、すでに積み上がっていた。

 芽吹月、二十三日。


 ゴルフが月間の取引ルートをまとめた資料を持ってきた。


「整理ができました」


「見せてください」


 ゴルフが紙を広げた。


 図だった。


 ランデルを中心に、フォルテス領からの矢印が伸びていた。


 取引先の名前が書いてあった。


 ヴァン商会。小商人三名。新規の商隊一組。


「これが今月の取引ルートです」


「増えましたね」


「増えました。先月は一組でした。今月は五組です」


──────────────────────────────────────


「取引の内容も変わってきています」


 ゴルフが続けた。


「最初は農産物が中心でした。今は魔導銀の刻印品への問い合わせが増えています」


「刻印が機能しているということですか」


「機能しています。ヴァン商会が『フォルテス領の刻印は本物だ』と、他の商会に伝えてくれています」


「ヴァン商会が広めてくれているんですか」


「取引先が広めてくれるのが、一番強い。自分たちで宣伝するより信用になります」


 ゴルフが手帳を開いた。


「問い合わせが来ている商会が、ランデル外からも二組来ています」


「ランデル外からですか」


「はい。噂が届き始めています」


──────────────────────────────────────


 バルドが来た。


「報告がある」


「どうぞ」


「村人の方から、倉庫の拡張を提案された」


「村人から、ですか」


「ああ。荷物が増えてきたから、今の倉庫では足りなくなる、と言っていた」


「自発的に言ってきたということですか」


「そうだ。こちらから指示したわけではない」


 俺は少し考えた。


 村人が、領地の次を考え始めていた。


「止めましたか」


「止めない。正しいことだと思った」


「ガッツさんに相談してみてください。来月着工を目標に」


「分かった」


 バルドが出ていった。


 村人が「自分たちの領地」として考え始めていた。


 それが今日、分かった。


──────────────────────────────────────


 昼過ぎ、ゴルフが戻ってきた。


「ランデルで聞いた話を、もう一つ報告します」


「聞かせてください」


「フォルテス領についての噂です」


「どういう噂ですか」


「いくつかあります」


 ゴルフが手帳を見た。


「辺境なのに妙に安定している、という話。石壁の建設が、普通ではない速さだ、という話。治安が良い、という話。そして、刻印物は本物だ、という話です」


「悪い噂ではないですね」


「悪くありません。ただし」


 ゴルフが少し間を置いた。


「噂は、次の取引先が自分で来るようになります。良い噂ほど、人が来ます。人が来るほど、守る問題が大きくなります」


「アーヴィンさんが言っていたことと繋がりますね」


「繋がります。良い噂は商機です。ただし、商機には準備が必要です」


──────────────────────────────────────


 夕方、南斜面に行った。


 果樹の棚を見に行った。


 マユミがついてきた。


 棚に、小さな芽が出ていた。


 りんごだった。


 凍氷月に植えた苗木が、芽吹月に応えていた。


「育ってますね」


 マユミが棚を見た。


「そうだな」


「急いでいないのに、育つ」


「植えれば育つ」


 マユミが短く言った。


「急がなかったから、育つんだろう」


 俺は《可視化》を入れた。


 絞って。棚の根元方向。


 根が地脈に沿って伸びていた。


 青い筋に絡むように、細く広がっていた。


 色が安定していた。


 青みがかった土の色だった。


 解いた。


 マルティナが来た。


「育つね」


 それだけだった。


 台所に戻っていった。


 ゴルフが棚を見た。


「収穫まで何年ですか」


「急ぎません」


 ゴルフが少し笑った。


「そうですね」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 芽吹月二十三日。ゴルフが月間取引ルートをまとめた。


 取引先:五組(先月比五倍)。ランデル外からも問い合わせあり。


 ヴァン商会が刻印品の信用を他商会に広めてくれている。


 バルド報告:村人が倉庫拡張を自発的に提案。来月着工検討。


 フォルテス領の噂:「安定している」「石壁が異常」「治安良い」「刻印は本物」。


 果樹:棚に芽が出た。《可視化》で根が地脈に沿って安定して伸びているを確認。


 ペンを置いた。


 形になっていた。


 一瞬でなっていなかった。


 少しずつ、積み上がっていた。


 取引先が増えた。


 噂が広がった。


 村人が、自分たちから倉庫の話をした。


 果樹が芽吹いた。


 全部が別々の出来事だった。


 ただし、全部が同じ方向を向いていた。


 フォルテス領が、形になり始めていた。


 窓の外に月があった。


 芽吹月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第158話 形になる 了

【次回・第159話 予告】


 マユミが「少し、出たいな」と言った。

 ランデルへの短期外出が決まった。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨257枚前後(変動なし)

・取引件数:今月五組(先月比五倍)・ランデル外からも問い合わせあり


【発展進捗・第158話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(果樹棚に芽・りんご)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :72%(村人が倉庫拡張を自発的に提案・来月着工検討)

・インフラ:98%(変化なし)


 今日の進捗:ゴルフが月間取引ルートをまとめた(五組・ランデル外からも問い合わせ)。ヴァン商会が刻印品の信用を広めてくれている。バルド報告:村人が倉庫拡張を自発的に提案。フォルテス領の噂が広がっている。果樹棚に芽が出た(《可視化》で根の安定確認)。定期討伐:土曜星につき実施・ボア系2頭・全員無傷。

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