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 第152話 商隊が来た

 外から人が来るというのは、場所が認められたということだ。


 噂が先に届き、人が後からついてくる。


 ――噂になった場所は、もう静かではいられない。

 芽吹月、七日。光曜星。


 朝、月次給与を支払った。


 バルドが仕切った。


 全員分の袋が並んだ。


 ガデルが受け取った。


「成果報酬の次の基準は」


「二百五十匁ごとです。次は五百匁(約二キログラム)達成時に計上します」


「分かった」


 ガデルが工房に戻った。


──────────────────────────────────────


 昼前、ゴルフが執務室に来た。


「商隊が来ます」


「いつですか」


「今日の午後です。ランデルから三日かけて来ています」


「何人ですか」


「四名です。荷馬車が一台あります」


「目的は」


「魔導銀と農産物の直接買い付けです。刻印の話を聞いて、本物を直接確認したいということです」


 俺は少し考えた。


「ゴルフさんが対応を主導してください。俺は後ろで見ています」


「分かりました」


 ゴルフが手帳を開いた。


「一つ確認です。刻印品の在庫は十分ありますか」


「ガデルさんに確認します」


「お願いします」


──────────────────────────────────────


 午後、商隊が到着した。


 四人だった。


 荷馬車が一台。


 馬が二頭。


 リーダー格の男が前に出た。


 四十代前後だった。


 ゴルフが出迎えた。


「ようこそ、フォルテス領へ」


「ゴルフさんですか。書状でお名前を伺っていました」


「はい。こちらが領主のヒコ・フォルティス様です」


 俺が一歩前に出た。


「遠いところをありがとうございます」


「噂を聞いてきました。本物を見たかったということです」


 リーダーの男が刻印品を受け取った。


 角度を変えて見た。


 光に当てた。


「これが、フォルテス領産の刻印ですか」


「はい。ガデル工房長が設計しました」


 男がしばらく見ていた。


「偽物が出回っているという話も聞きました」


「把握しています。刻印はその対策の一つです」


「分かりました」


 男が刻印品を返した。


「取引させてください」


──────────────────────────────────────


 バルドが村人に伝えた。


「見慣れない顔が増えますが、問題ありません。ゴルフさんが対応しています。余計なことは話さなくていい」


 村人たちは静かだった。


 慌てていなかった。


 以前と違った。


 以前は、外から人が来ると、少し緊張していた。


 今は違った。


 慣れてきていた。


──────────────────────────────────────


 商隊の後ろから、数名がついてきていた。


 商隊の人間ではなかった。


 職人風の男が二人。


 荷運びの人足らしい男が一人。


 バルドが対応した。


「どういう用件ですか」


「働けますか」「住めますか」


 それだけだった。


 バルドが俺に目で確認した。


 俺は《可視化》を向けた。


 短時間。絞って。


 三人の色を確認した。


 問題なかった。


 居住意志があった。


 敵意はなかった。


 解いた。


 バルドに頷いた。


「話を聞きます」


 バルドが三人を別室に案内した。


 領地が、人を引き寄せ始めていた。


 商隊の荷馬車の音を聞いて、来た人間がいた。


 そういうことが、起き始めていた。


──────────────────────────────────────


 商隊の中に、一人だけ違う人間がいた。


 商人ではなかった。


 腰に剣を帯びていた。


 装備が旅慣れていた。


 冒険者だった。


 ゴルフが対応している間、ずっと周囲を見ていた。


 俺も見ていた。


 目が合った。


 相手が少し頭を下げた。


 名前は聞かなかった。


 ただし、見ていた目が、この場所の何かを確認していた。


 それだけ分かった。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 芽吹月七日。光曜星。月次給与支払い完了。


 最初の商隊到着(四名・荷馬車一台)。魔導銀・農産物の直接買い付け。刻印確認後、取引成立。


 新規流入:職人二名・人足一名が「働きたい・住みたい」として到着。《可視化》確認問題なし。バルドが対応中。


 冒険者らしい人物が商隊に同行。名前は聞かなかった。


 ペンを置いた。


 商隊が来た。


 職人と人足が来た。


 冒険者らしい人物も来た。


 全部が、同じ日に起きた。


 偶然ではないかもしれなかった。


 噂が広がっていた。


 噂が人を動かしていた。


 噂になった場所は、もう静かではいられなかった。


 ただし、静かでなくなることを、怖いとは思わなかった。


 準備ができていたからだった。


 ――準備ができた場所が、人を受け入れられる。


 窓の外に月があった。


 芽吹月の月だった。


 フォルテス領の夜は、以前より少し賑やかだった。


 それが、今日から始まった変化だった。



 第152話 商隊が来た 了

【次回・第153話 予告】


 取引は成立した。

 ただし、次の問題が見えてきた。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨245枚前後(変動なし)

・芽吹月給与:支払い完了(月次固定支出に含む)

・商隊取引:成立・収入は次話以降に計上


【発展進捗・第152話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :72%(新規流入三名の対応中)

・インフラ:98%(変化なし)


 今日の進捗:芽吹月第一光曜星・月次給与支払い完了。最初の外部商隊到着(四名・荷馬車一台)・刻印確認後取引成立。新規流入三名(職人二・人足一)「働きたい・住みたい」・《可視化》確認問題なし・バルド対応中。冒険者らしい人物が商隊に同行(名前未確認)。定期討伐:なし(光曜星・給与支払い日)。

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