第150話 ドガンの書状
動き始めた人間は、止まらない。
止まらないから、手紙の文章が変わる。
――重くなった言葉は、決意の重さだ。
芽吹月、三日。
朝、バルドが執務室に来た。
「手紙が届いている」
「誰からですか」
「ドガンという名前だ」
俺は少し手を止めた。
ドガン。
アーゼルタウンの商業ギルド関係者だった。
セリウスさんと同じ町にいた人間だった。
「開けてください」
バルドが封を切った。
紙を広げた。
二枚あった。
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読んだ。
最初の一枚は、アーゼルタウンの近況だった。
商業ギルドの動き。物価の変化。依頼の傾向。
整理されていた。
ただし、セリウスさんの手紙と少し違った。
セリウスさんは情報の中に感情が混じっていた。
ドガンの手紙は、感情が少なかった。
整理されすぎていた。
二枚目に、本題があった。
「中央商業ギルドの方針が、変わりつつあります」。
「辺境への関与を縮小する動きがあります」。
「詳細は書けません。ただし、自分の立場が変わる可能性があります」。
末尾に、一行あった。
「そちらに、仕事がありますか」。
それだけだった。
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アーヴィンに見せた。
アーヴィンが読んだ。
黙っていた。
「来るなら、歓迎だ」
短く言った。
「ドガンさんを知っていますか」
「少しだけだ。ただし、信頼できる人間だと聞いている」
「セリウスさんから」
「ああ」
アーヴィンが紙を返した。
「セリウスさんとドガンさんが両方来るなら、フォルテス領が変わる」
「良い方向にですか」
「戦える領地になる」
アーヴィンが短く言った。
それ以上は言わなかった。
ただし、それで十分だった。
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返書を書いた。
短くした。
アーゼルタウンの近況への礼。
中央商業ギルドの動きへの確認。
最後に一行加えた。
「仕事はあります。いつでも待っています」。
それだけだった。
バルドに渡した。
「次の商人便に乗せてください」
「分かりました」
バルドが受け取った。
「ヒコさん」
「はい」
「ドガンという人間は、何をする人間ですか」
俺は少し考えた。
「商業ギルドの幹部です。物流と交渉と、市場の動きを読む人間です」
「ゴルフさんと似ていますか」
「似ています。ただし、規模が違います。ドガンさんは、もっと大きな場所で動いてきた人間です」
バルドが少し頷いた。
「大きな場所で動いてきた人間が、ここに来るということは」
「ここが、大きくなってきたということかもしれません」
バルドが短く言った。
「それは、良いことだ」
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昼過ぎ、ゴルフにドガンの書状のことを話した。
「ドガンという人間を知っていますか」
「知っています」
ゴルフが少し表情を変えた。
「中央商業ギルドの幹部の方ですね」
「はい。フォルテス領に来る可能性があります」
ゴルフが少し間を置いた。
「それは、良い話です」
「良い話ですか」
「ドガンさんが来るなら、フォルテス領の物流が一段階変わります。私が外を担当できる範囲には限界があります。ドガンさんは、もっと広い場所での経験があります」
「ゴルフさんと役割が重なりませんか」
「重なりません」
ゴルフが静かに言った。
「私は外の窓口です。ドガンさんは、市場全体の設計ができる人間です。同じ場所には立ちません」
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夜、記録をつけた。
芽吹月三日。ドガンから書状。
内容:アーゼルタウン近況・中央商業ギルドの方針変化(辺境への関与縮小)・自分の立場が変わる可能性。
末尾:「そちらに、仕事がありますか」。
アーヴィン:「来るなら、歓迎だ」。
返書送付:「仕事はあります。いつでも待っています」。
ゴルフ:ドガンが来れば物流が一段階変わる。役割は重ならない。
ペンを置いた。
セリウスさんから手紙が来た。
ドガンさんから手紙が来た。
二人とも、動き始めていた。
動き始めた人間は、止まらない。
止まらないから、手紙の文章が重くなる。
重くなった言葉は、決意の重さだった。
フォルテス領に、外から人が引き寄せられ始めていた。
それは、何かが変わったということだった。
――場所が人を呼ぶようになったとき、その場所は本物になる。
窓の外に月があった。
芽吹月の月だった。
フォルテス領の夜は、静かだった。
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エピローグ
アーヴィンは、夜の見回りの途中で立ち止まった。
北側石壁の上だった。
月明かりがあった。
東の方角を見た。
アーゼルタウンの方向だった。
セリウスさんが来る準備をしている。
ドガンさんも来ようとしている。
二人とも、アーゼルタウンにいた人間だった。
アーヴィンも、アーゼルタウンにいた。
レインも、いた。
今はいない。
アーヴィンは外套の内側を軽く押さえた。
青白い石があった。
レインの遺留品だった。
ずっと持ち歩いていた。
手放す理由がなかった。
セリウスさんが来る。
ドガンさんが来る。
仲間が増える。
増えるたびに、少し思う。
お前が来ていたら、どう思っただろうか。
答えは出なかった。
ただし、問い続けることをやめる理由もなかった。
アーヴィンは歩き始めた。
見回りの続きだった。
フォルテス領の夜は、静かだった。
静かな中に、生きている音があった。
それが、今のこの場所だった。
第150話 ドガンの書状 了
【次回・第151話 予告】
凍氷月の収支を、夜にまとめた。
初めて、外部からの収入が数字になった。
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【領地収支】
・所持金 :金貨260枚前後(変動なし)
【発展進捗・第150話時点】
・防衛 :100%(変化なし)
・食料 :98%(変化なし)
・水 :90%(変化なし)
・住居 :75%(変化なし)
・インフラ:98%(変化なし)
今日の進捗:ドガンから個人書状(中央商業ギルドの方針変化・自分の立場が変わる可能性・「仕事はありますか」)。アーヴィン「来るなら、歓迎だ」。返書送付「仕事はあります。いつでも待っています」。ゴルフ「ドガンが来れば物流が一段階変わる・役割は重ならない」。エピローグ:アーヴィン視点収録。定期討伐:なし(雷曜星)。




