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 第149話 偽物

 名前を守ることは、刻印を打つことより難しい。


 刻印は一度打てばいい。


 ――名前は、毎日守り続けなければならない。

 芽吹月、一日。


 朝、ゴルフが執務室に来た。


「ランデルから、追加の報告があります」


「聞かせてください」


「偽物農産物の件です。先月、小商人が消えたと報告しました」


「ええ」


「別の者が、また出ています」


 俺は少し手を止めた。


「別の者、というのは」


「別の人間が、同じことを始めました。フォルテス領産を名乗る農産物です。今回は品質が前よりも低い」


「ミルヴァさんは把握していますか」


「把握しています。昨日、連絡が来ました」


──────────────────────────────────────


 ミルヴァを呼んだ。


「追跡状況を聞かせてください」


「している」


 ミルヴァが短く言った。


「先月の小商人とは別の人間だ。ただし、動き方が似ている。同じ情報源を元に動いている可能性がある」


「情報の出所は」


「ベルン商会の周辺だ。直接ではない。ただし、フォルテス領産が価値を持っているという情報が漏れている」


「漏れた、というのは」


「意図的に流したか、自然に広まったかは分からない。ただし、狙われている状態だ」


 ゴルフが続けた。


「今回は、刻印があります。ランデルの取引先に刻印の形状を伝えてあります。向こうが、自分で本物か確認できる」


「それは機能していますか」


「機能しています。ヴァン商会が今回の偽物を早期に確認し、購入しませんでした」


──────────────────────────────────────


「対策を整理します」


 俺が言った。


「現状の対策は」


 ゴルフが手帳を開いた。


「一つ。刻印の形状を取引先に事前共有する。これは実施済みです」


「二つ目は」


「取引先への定期確認。本物かどうか、定期的に確認する仕組みを作ります」


「三つ目は」


「記録の蓄積です。偽物が出た日時・場所・品目・数量を記録する。パターンが見えれば、出所が絞れます」


 ミルヴァが頷いた。


「記録は私が引き受ける。ゴルフと共有する」


「急ぎますか」


 ゴルフが少し間を置いた。


「急ぎません。ただし、放置もしません」


 俺も同じことを思っていた。


 急いで動けば、相手が警戒して消える。


 放置すれば、広がる。


 記録を積んで、パターンを掴む。


 それが正しい動き方だった。


──────────────────────────────────────


「ミルヴァさん、一つ聞いていいですか」


「何だ」


「この件は、今後も続きますか」


 ミルヴァが少し考えた。


「続く。ただし、形が変わる」


「どういう意味ですか」


「今は小商人が便乗している。次は、もう少し資金を持った連中が動く可能性がある」


「ベルン商会が直接動くということですか」


「可能性はある。ただし、今は断言できない」


 ミルヴァが短く言った。


「今は記録を積む。動きが変わったとき、対応できる準備をしておく」


「分かりました。引き続きお願いします」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 芽吹月一日。偽物問題・継続。


 先月の小商人とは別の人間が、同じ手口で偽物農産物を販売。


 情報源:ベルン商会周辺の可能性。断定はできない。


 刻印の機能:ヴァン商会が早期に偽物を確認・購入せず。刻印が機能した。


 今後の対策:取引先への定期確認・記録の蓄積(ミルヴァとゴルフが担当)。


 方針:急がない。ただし、放置もしない。


 ペンを置いた。


 偽物が続いていた。


 ただし、刻印があった。


 刻印があるから、取引先が見分けられた。


 見分けられたから、信頼が守られた。


 名前を守ることは、刻印を打つことより難しいと思っていた。


 ただし、刻印が名前を守っていた。


 刻印は、打った後も働き続けていた。


 ――仕組みは、守るために作る。ただし、仕組みも守り続けなければ、意味がない。


 窓の外に月があった。


 芽吹月の最初の月だった。


 凍氷月が終わっていた。


 春が始まっていた。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第149話 偽物 了

【次回・第150話 予告】


 ドガンからの書状が届いた。

 動き始めた人間の文章は、重かった。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨260枚前後(変動なし)


【発展進捗・第149話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:98%(偽物対策・刻印共有・記録体制確立)


 今日の進捗:芽吹月一日。偽物農産物問題が継続(別の人間が同じ手口)。情報源はベルン商会周辺の可能性。刻印がヴァン商会の早期確認に機能。対策:取引先への定期確認・記録の蓄積(ミルヴァ・ゴルフ担当)。方針:急がない・放置もしない。ミルヴァ「今後、形が変わる可能性がある」。定期討伐:なし(光曜星・休養日)。

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