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 第148話 刻印

 名前をつけることは、責任を背負うことだ。


 刻んだ名前は、消えない。


 ――消えないから、信用になる。

 凍氷月、最終日。


 朝、ガデルが執務室に来た。


 工房から自分で来ることは、滅多になかった。


 まして、朝一番に来ることはない。


 手に、小さな金属片を持っていた。


「刻印ができた」


 それだけだった。


 俺は受け取った。


 小さかった。


 親指の爪ほどの大きさだった。


 ただし、細工が細かかった。


 フォルテス領の紋様が刻まれていた。


 中心に、小さな星があった。


 外側に、五角形が重なっていた。


 線は細く、均一だった。


──────────────────────────────────────


「これが、刻印の型ですか」


「ああ。精製品の底面に押す。熱を入れれば、消えない」


「偽造は難しいですか」


「難しい。線が細すぎる。大雑把な型では再現できない」


 ガデルが金属片を受け取った。


「もう一つ、作った」


 もう一つ出した。


 同じ大きさだった。


 同じ紋様だった。


「二つ作りましたか」


「一つは予備だ。型は消耗する」


 ガデルが短く言った。


「最初の刻印品を作る。今日中に仕上げる」


──────────────────────────────────────


 昼前、工房に行った。


 マユミがついてきた。


 ガデルが作業をしていた。


 魔導銀の成形品だった。


 小さな棒状のものだった。


 底面に、型を当てた。


 熱を入れた。


 一瞬だった。


 型を外した。


 底面に、刻印が入っていた。


 細かかった。


 くっきりしていた。


 マユミが近づいて見た。


「きれいだな」


「きれいですね」


 ガデルが刻印品を持ち上げた。


 光に当てた。


 刻印が、光の当たり方で見え方が変わった。


「角度で見え方が変わる。それも再現しにくい」


「光の反射も計算していたんですか」


「計算ではない。そうなった」


 ガデルが短く言った。


 マユミが小さく笑った。


──────────────────────────────────────


 午後、ゴルフに刻印品を見せた。


「これが完成品です」


「見せてください」


 ゴルフが受け取った。


 じっくり見た。


「角度を変えてみていいですか」


「どうぞ」


 ゴルフが光に当てた。


 少し間を置いた。


「これは、通ります」


 ゴルフが静かに言った。


「これを持っていけば、本物かどうかが一目で分かります。取引先が自分で確認できる」


「ヴァン商会にも早めに共有しますか」


「今週中に送ります。刻印の形状の記録と一緒に」


 ゴルフが刻印品を返した。


「ガデルさんに、礼を言っておいてください」


「伝えます」


「ただし」


 ゴルフが少し笑った。


「礼はいらないと言われそうですね」


「そうなります」


──────────────────────────────────────


 夕方、ガデルに伝えた。


「ゴルフさんが礼を言っていました」


「いらない」


 ガデルが短く言った。


 予想通りだった。


「一つ聞いてもいいですか」


「何だ」


「刻印を設計するとき、何を一番考えましたか」


 ガデルが少し間を置いた。


「消えないこと。それだけだ」


「消えないことが、一番大事だったんですか」


「刻印は、残るためにある。見えなくなったら意味がない」


 ガデルが炉に向き直った。


「品質が落ちれば、刻印が恥になる。それだけだ」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 凍氷月最終日。刻印完成。


 型:親指の爪ほどの大きさ。フォルテス領紋様(中心に星・外側に五角形)。二つ製作(一つは予備)。


 特徴:線が細く偽造困難。光の反射で角度による見え方の変化あり。


 最初の刻印品:魔導銀棒状成形品。ガデルが今日中に仕上げた。


 ゴルフ確認:「これは、いい」。ヴァン商会への形状共有を今週中に実施予定。


 ガデル:「消えないこと。それだけだ」。


 ペンを置いた。


 刻印ができた。


 ガデルが「消えないこと、それだけだ」と言った。


 消えないから、信用になる。


 信用は、見えなくなったら意味がない。


 その通りだった。


 品質が変わらない限り、刻印は意味を持ち続ける。


 品質が落ちた瞬間に、刻印が恥になる。


 刻印は、品質の約束だった。


 ――約束は、守り続けることで、初めて約束になる。


 窓の外に月があった。


 凍氷月最後の月だった。


 明日から、芽吹月になる。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第148話 刻印 了

【次回・第149話 予告】


 ランデルから、不穏な話が届いた。

 ゴルフが「偽物問題が、まだ続いています」と言った。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨260枚前後(変動なし)


【発展進捗・第148話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:98%(刻印完成・フォルテス領産品質証明体制確立)


 今日の進捗:凍氷月最終日。刻印完成(ガデル設計・フォルテス領紋様・偽造困難)。最初の刻印品を今日中に仕上げ。ゴルフ確認「これは、いい」。ヴァン商会への刻印形状共有を今週中に実施予定。ガデル「消えないこと、それだけだ」。定期討伐:土曜星につき実施・ボア系2頭・全員無傷。

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