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 第144話 二通目の手紙

 同じ人間から二度来る手紙は、一度目より重い。


 一度目は、知らせるためだ。


 ――二度目は、動くためだ。

 凍氷月、二十二日。


 朝、バルドが執務室に来た。


「手紙が届いている」


「誰からですか」


「カルヴィン・レイドという名前だ」


 俺は少し手を止めた。


 前回の査察官だった。


 一度、個人的な警告をくれた人間だった。


「開けてください」


 バルドが封を切った。


 紙を広げた。


 一枚だった。


 短かった。


──────────────────────────────────────


 読んだ。


 最初の一行は、前回の査察の記録が問題なく提出済みであることの確認だった。


 次の段落に、本題があった。


 「王都で、フォルテス領への関心が高まっています」。


 「関心を持っているのは、商業関係だけではありません」。


 「具体的なことは書けません。ただし、備えてください」。


 末尾に一行あった。


 「前回と同様に、個人的な書状です。公式の記録ではありません」。


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 バルドとミルヴァを呼んだ。


 手紙を見せた。


 バルドが読んだ。


「商業関係だけではない、というのは」


「軍事か、政治か、どちらかです」


 ミルヴァが短く言った。


「ヴァルク男爵ですか」


「可能性はある。ただし、ヴァルク男爵だけとは限らない。王都側で、直接動いている人間がいる可能性がある」


「セルヴァン・ロウですか」


 ミルヴァが少し間を置いた。


「名前は出さない。ただし、動きとしては一致する」


 バルドが手紙を折った。


「カルヴィン・レイドという人間は、なぜ教えてくれるんだ」


「制度の中にいながら、制度が不当に使われることを嫌う人間だと見ています」


「信用できるか」


「できます。ただし、この人間が動けることには限界がある。これ以上の情報は来ない可能性が高い」


──────────────────────────────────────


 ゴルフに状況を伝えた。


「王都での関心が高まっています。商業系以外の動きもあるようです」


「名前が広がるのは、商売の機会でもあります」


 ゴルフが静かに言った。


「ただし、使い方次第です」


「使い方次第、というのは」


「注目されている間に、信頼を積む。信頼が積み上がった後は、多少の外圧には揺れません。ただし、信頼が薄い段階で大きな注目を受けると、試される」


「今は、試される段階ですか」


「試されています。だから、一つ一つの取引を丁寧にやる必要があります」


 ゴルフが手帳を開いた。


「ヴァン商会への再交渉の準備ができています。今週中に動きます」


──────────────────────────────────────


 夜、返書を書いた。


 短くした。


「書状を受け取りました。備えます。ご配慮に感謝します」


 それだけだった。


 差出人はフォルテス領主の名前にした。


 バルドに渡した。


「次の商人便に乗せてください」


「分かりました」


 バルドが受け取って、少し間を置いた。


「ヒコさん」


「はい」


「この手紙を送ってくる人間は、自分の立場を危うくしているかもしれない」


「そうかもしれません」


「その人間への礼が、一行で十分か」


 俺は少し考えた。


「十分です。余分な言葉を書くことが、その人間を危うくする可能性があります」


 バルドが頷いた。


「それが正しいと思う」


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 凍氷月二十二日。カルヴィン・レイドから二通目の書状。


 内容:査察記録は問題なし。王都でフォルテス領への関心が高まっている。商業系以外の動きもある。備えるよう。


 性質:個人的な書状・公式記録ではない。


 ミルヴァ見立て:セルヴァン・ロウの動きと一致する可能性。


 ゴルフ:注目は商機。ただし、信頼が薄い段階では試される。丁寧な取引を続ける。


 返書送付:短く一行。


 ペンを置いた。


 関心が高まっていた。


 良いことと、悪いことの両方があった。


 注目されている今なら、信頼を積める


 ただし、信頼が積まれる前に大きな動きが来れば、揺れる。


 今は、揺れないために、一つ一つを丁寧にやる時期だった。


 カルヴィン・レイドが、また動いてくれた。


 制度の中にいながら、それでも動いてくれる人間がいた


 ――正直に動いていれば、正直に見てくれる人間がいる。


 窓の外に月があった。


 凍氷月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第144話 二通目の手紙 了

【次回・第145話 予告】


 今週の定期討伐で、様子が変わった。

 アーヴィンが「森の奥が動き始めている」と言った。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨260枚前後(変動なし)


【発展進捗・第144話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:98%(変化なし)


 今日の進捗:カルヴィン・レイドから二通目の個人書状(査察記録問題なし・王都でフォルテス領への関心高まる・商業系以外の動きもある)。ミルヴァ:セルヴァン・ロウの可能性と一致。ゴルフ:注目は商機・信頼が薄い段階では試される・丁寧な取引を続ける。返書送付。定期討伐:なし(光曜星・休養日)。

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