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 第143話 大きな話

 大きな話は、大きなリスクと一緒に来る。


 話だけ大きくて、リスクが見えない話は、信用しない。


 ――リスクを正直に言える相手が、信頼できる相手だ。

 凍氷月、二十日。


 ゴルフが執務室に来た。


 手帳を持っていた。


 いつもと少し違う顔だった。


「大きな話があります」


「聞かせてください」


 ゴルフが椅子に座った。


「王都系の中規模商会から、接触がありました」


「どういう商会ですか」


「ヴォルト商会といいます。王都に本拠を置いています。取り扱い品目は広い。魔導銀への需要があります」


「信頼できる商会ですか」


「調べました。問題はありません。ただし、規模が大きい分、要求も大きい」


「どういう要求ですか」


「魔導銀の安定供給契約です。月産五十匁(約二百グラム)を六ヶ月間、安定して供給する。その条件で、相場より二割高で買い取るという話です」


──────────────────────────────────────


 俺は少し考えた。


 月産五十匁。


 今の月産量は二十匁前後だった。


 倍以上だった。


「今の月産量では、対応できませんね」


「できません」


 ゴルフが静かに言った。


「それが、最初に伝えるべきことです」


「断りますか」


「断る前に、選択肢を整理します」


 ゴルフが手帳を開いた。


「一つ。断る。縁を切る。この話は終わる」


「二つ目は」


「条件を変えて保留にする。月産二十匁を上限として、半年後に再交渉の余地を残す」


「三つ目は」


「増産を約束して受ける。ただし、これは今の状況では無理です」


 ゴルフが手帳を閉じた。


「私の推薦は二つ目です」


──────────────────────────────────────


「断り方が大事ですか」


「大事です」


 ゴルフが続けた。


「縁を切る断り方と、縁を残す断り方は、全く違います。今は断るとしても、六ヶ月後、一年後に話ができる状態を保つ方がいい」


「どう断りますか」


「正直に言います。今の月産量では安定供給は難しい。ただし、増産の見通しがある。半年後に再交渉させてほしい」


「それで相手は納得しますか」


「納得する商会なら、付き合う価値がある。納得しない商会なら、今は付き合わなくていい」


 ゴルフが静かに言った。


「条件を偽って受けるより、正直に断る方が、長く続く関係を作れます」


 俺は少し頷いた。


 現場でも同じだった。


 無理な工期を受けて品質を落とすより、正直に言って工期を延ばす方が、最終的に信頼を積んだ。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンに話した。


「王都系の商会から大口の話が来ました。今は断る方向で考えています」


 アーヴィンが少し間を置いた。


「断るのが正しいか」


「今の生産量では対応できません。ただし、縁は残します」


「王都の商会が来た、ということは、フォルテス領の名前が広がっているということだ」


「ゴルフさんも同じことを言っていました」


「良いことと、悪いことがある」


 アーヴィンが短く言った。


「規模が大きくなれば、目立つ。目立てば、狙われる」


「ベルン商会との関係が複雑になりますか」


「可能性はある。ミルヴァに伝えておく」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 凍氷月二十日。ヴォルト商会から接触。


 内容:魔導銀の安定供給契約(月産五十匁・六ヶ月・相場比二割増)。


 判断:今の月産量二十匁では対応不可。


 方針:条件付き保留(月産二十匁上限を正直に伝え、半年後に再交渉の余地を残す)。


 アーヴィン:フォルテス領の名前が広がっている。目立てば狙われる。ミルヴァに情報共有。


 ペンを置いた。


 大きな話が来た。


 今は受けられなかった。


 ただし、来たことは意味があった。


 フォルテス領の名前が、王都まで届いていた。


 ゴルフが動き始めて、まだ二ヶ月も経っていなかった


 早かった。

 

 ただし、早いことは良いことばかりでもなかった。


 ただし、アーヴィンが言った通りだった。


 目立てば、狙われる。


 大きくなることと、守れることは、別の話だった。


 ――背伸びをするのではない。足元を固めながら、伸びる。


 窓の外に月があった。


 凍氷月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第143話 大きな話 了

【次回・第144話 予告】


 カルヴィン・レイドから、また手紙が来た。

 今回は、少し重かった。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨260枚前後(変動なし)

・ヴォルト商会:条件付き保留・成立前のため収入計上なし


【発展進捗・第143話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:98%(変化なし)


 今日の進捗:ヴォルト商会から大口取引の話(魔導銀月産五十匁・六ヶ月安定供給・相場比二割増)。今の月産量では対応不可。方針:条件付き保留・正直に月産量を伝え半年後に再交渉の余地を残す。アーヴィンに情報共有(名前が広がっている・目立てば狙われる)。定期討伐:なし(闇曜星・装備整備日)。

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