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 第145話 森の奥

 敵が変わると、自分も変わらなければならない。


 それが実戦だ。


 ――変わった敵に、変わらない戦い方で挑む者は、負ける。

 凍氷月、二十五日。土曜星。


 朝、定期討伐の出発前だった。


 アーヴィンが五人に言った。


「今日は森の奥まで入る」


 リクが少し顔を上げた。


「いつもより深いですか」


「ボア系が減っている。外周に数が少ない。奥に移動した可能性がある」


「奥に入ったことは」


「ない。ただし、入る必要が出た」


 アーヴィンが全員を見た。


「想定外の魔物が出る可能性がある。指示に従え。単独で動くな」


 五人が頷いた。


 マユミが俺の隣に立った。


 今日も定期討伐を視察することにしていた。


──────────────────────────────────────


 森の外周は、いつも通りだった。


 ボア系が少なかった。


 アーヴィンの見立て通りだった。


 奥に進んだ。


 木が密になった。


 光が減った。


 足元が変わった。


 落ち葉が厚かった。


 音が変わった。


 外周より静かだった。


 静かすぎた。


──────────────────────────────────────


 最初に気づいたのはリクだった。


「左、何かいます」


 アーヴィンが即座に手を上げた。


 全員が止まった。


 声はなかった。


 左の茂みが、わずかに動いた。


 モスハウンドだった。


 苔狼型の魔物だった。


 一頭ではなかった。


 三頭いた。


 さらに右側の木陰が動いた。


 シャドウリンクスだった。


 黒い山猫型だった。


 二頭。


 ボア系ではなかった。


 別種同士で行動していた。


 想定外だった。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンが指で指示を出した。


 声はなかった。


 リクが左に動いた。


 カインとドランが前に出た。


 トマが右を固めた。


 ミーナが後方に回った。


 俺とマユミは木の陰で待機した。


 マユミが双刃を構えた。


「出るか」


「アーヴィンさんの指示があるまで待ちます」


 マユミが頷いた。


 戦闘が始まった。


 モスハウンドが動いた。


 リクが先に動いていた。


 カインが前のモスハウンドを抑えた。


 ドランが左を押さえた。


 シャドウリンクスが木陰から飛んだ。


 トマが軌道を読んでいた。


 ミーナが連携した。


 終わるまで、短かった。


 全員無傷だった。


──────────────────────────────────────


 帰り道、アーヴィンが俺の隣を歩いた。


 マユミが少し後ろにいた。


「複数種が混成で出ました」


「ああ。ボア系を追って奥に入ったら、別の縄張りと重なった」


「騎士団は対応できましたか」


「できた」


 アーヴィンが少し間を置いた。


「ただし、次は準備がいる」


「どういう準備ですか」


「装備だ。今の装備は、ボア系に合わせてある。複数種に対応するなら、別の装備がいる」


「具体的には」


「シャドウリンクスは機動が速い。今日はトマが読んでいたから問題なかった。ただし、毎回読めるとは限らない。対応する装備と、隊形が必要だ」


 俺は少し考えた。


「今後、本格的に検討しますか」


「そうだ。ガデルにも相談する」


「分かりました。アーヴィンさんに任せます」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 凍氷月二十五日。土曜星。定期討伐実施。


 森の奥に初めて入った。ボア系減少に伴い、森の奥へ初進入。


 遭遇:モスハウンド三頭・シャドウリンクス二頭。複数種混成。


 結果:全員無傷。アーヴィンが即座に隊形を変えて対処。


 アーヴィン評:対応できた。ただし、次は準備がいる。


 課題:複数種対応の装備と隊形。今後本格検討。ガデルへの相談予定。


 ペンを置いた。


 今日は、いつもと違う敵が出た。


 騎士団は対応した。


 ただし、アーヴィンが「次は準備がいる」と言った。


 対応できた、と準備がいる、は矛盾しなかった。


 今日は対応できた。


 ただし、次も同じとは限らなかった。


 それが分かる人間が、指揮官だった。


 ――できた、と言いながら、次を考えている。それが、続ける人間だ。


 窓の外に月があった。


 凍氷月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第145話 森の奥 了

【次回・第146話 予告】


 蓄積帯の外縁が、変色していた。

 リアが「外縁の色が変わっています」と言った。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨260枚前後(変動なし)


【発展進捗・第145話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(定期討伐・モスハウンド三頭・シャドウリンクス二頭・食料確保)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:98%(変化なし)


 今日の進捗:土曜星定期討伐。森の奥に初進入。モスハウンド三頭・シャドウリンクス二頭の複数種混成と遭遇・全員無傷。アーヴィン「対応できた。ただし、次は準備がいる」。複数種対応の装備と隊形を今後本格検討予定。ガデルへの相談予定。

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