第140話 商会が動く
静かな敵は、動き出す前が一番怖い。
動き出した瞬間、対処できる脅威となる。
――見えない脅威より、見える脅威の方が、対処しやすい。
凍氷月、十日。
夕方、ミルヴァが執務室に来た。
「ベルン商会の動きを報告する」
「お願いします」
「ランデルの人員がまた増えた。今度は五人だ」
「先月より更に増えましたか」
「増えた。ただし、人員の種類が前と違う」
「どう違いますか」
「前は見張り向きの人間だった。今回は、接触向きの人間が混じっている」
俺は少し考えた。
「接触向き、というのは」
「交渉が得意な人間だ。情報を集める側じゃない。条件を変えさせる側だ」
「フォルテス領の取引先に接触するつもりですか」
「ほぼ確実だ」
ミルヴァが短く言った。
「時期は」
「分からない。ただし、刻印が完成する前に動く可能性がある」
「刻印の話が、向こうに伝わっていますか」
「断言はできない。ただし、可能性はある」
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ゴルフを呼んだ。
ミルヴァの報告を伝えた。
「先手を打てます」
ゴルフが言った。
「どういう手ですか」
「ヴァン商会への再交渉を、今週中に動かします。刻印はまだ完成していない。ただし、完成予定と刻印の意味を先に伝えます」
「完成前に伝えることに意味がありますか」
「あります。向こうが接触してくる前に、こちらが動く。先に動いた方が、関係の主導権を持ちます」
俺は少し考えた。
「ヴァン商会は、向こうを断れますか」
「断れるかどうかは、ヴァン商会次第です。ただし、こちらとの関係が深ければ、断りやすくなります」
「だから先に固める」
「そういうことです」
ゴルフが手帳を開いた。
「一つ確認です。刻印の形状は、ガデルさんの設計が終わり次第、取引先に共有します。これはヴァン商会だけでなく、今後の取引先全員に共有する方針でいいですか」
「問題ありません」
「本物を全員が知っている状態が、一番強い」
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アーヴィンに状況を伝えた。
「ベルン商会が動き始めました。接触向きの人員がランデルに入っています」
アーヴィンが少し間を置いた。
「騎士団は関係あるか」
「今のところ、商業的な動きです。ただし、将来的に物理的な圧力になる可能性はゼロではありません」
「その場合は言え」
「分かりました」
アーヴィンが短く言った。
「今は、ゴルフとミルヴァに任せる。ただし、情報は共有してくれ」
「了解です」
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夜、記録をつけた。
凍氷月十日。ミルヴァ報告。
ベルン商会:ランデルに接触向きの人員を追加。フォルテス領の取引先への接触が近い可能性。
ゴルフ対応:今週中にヴァン商会への再交渉を動かす。刻印の完成予定を先に伝える。
方針:正面から対抗しない。取引先との信頼を先に固める。刻印の形状を取引先全員に共有する。
アーヴィン:情報共有を要請。物理的な圧力になった場合は騎士団で対応。
ペンを置いた。
ベルン商会が動き始めた。
静かだった敵が、動き出した。
怖さの種類が変わった。
見えない脅威から、見える脅威になった。
見える方が、対処できる。
今の段階は、まだ商業的な動きだった。
まだ、価格と信用で戦う段階だった。
先に信頼を固める。
それだけを、着実にやる。
――動く敵には、動かない信頼で対抗する。
窓の外に月があった。
凍氷月の月だった。
フォルテス領の夜は、静かだった。
第140話 商会が動く 了
【次回・第141話 予告】
南斜面に、苗木を植えた。
風の音が、少し変わった。
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【領地収支】
・所持金 :金貨260枚前後(変動なし)
【発展進捗・第140話時点】
・防衛 :100%(変化なし)
・食料 :98%(変化なし)
・水 :90%(変化なし)
・住居 :75%(変化なし)
・インフラ:96%(変化なし)
今日の進捗:ミルヴァ報告(ベルン商会がランデルに接触向き人員を追加)。ゴルフが今週中にヴァン商会再交渉を動かす方針。刻印完成予定を先に伝える作戦。方針:正面対抗せず・信頼を先に固める。アーヴィンに情報共有。定期討伐:土曜星につき実施・ボア系2頭・全員無傷。




