第138話 価格戦略
安く売るのは簡単だ。
高く売るには、理由が要る。
――理由は、品質が作る。品質は、時間が作る。
凍氷月、三日。
ゴルフが執務室に来た。
手帳を持っていた。
「値段を上げる方法があります」
「聞かせてください」
ゴルフが椅子に座った。
「刻印です」
「刻印というのは」
「魔導銀の精製品に、フォルテス領産であることを示す刻印を入れます。産地を明示する」
俺は少し考えた。
「それで値段が上がりますか」
「上がります。条件があります」
「どういう条件ですか」
「刻印がある品が、必ず品質を保っていること。一度でも粗悪品が出れば、刻印は信用を失います」
「品質を保てれば、刻印が価格を作る」
「そういうことです」
ゴルフが手帳を開いた。
「ランデルの魔導銀は、出所が曖昧な品が多い。フォルテス領が産地を明示すれば、それだけで差別化になります」
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ガデルに話を持っていった。
工房だった。
炉の前にいた。
「刻印を入れてほしいという相談があります」
ガデルが手を止めた。
「刻印」
「はい。フォルテス領産であることを示す刻印です」
ガデルが少し黙った。
「やったことがない」
「難しいですか」
「難しくない」
ガデルが炉に向き直った。
「ただし、刻印は責任を取るということだ」
「どういう意味ですか」
「名前を入れた品が粗悪だったとき、名前ごと終わる。それが分かった上でやるなら、できる」
「分かっています」
「本当に分かっているか」
ガデルが振り返った。
目が少し鋭かった。
「この工房の品に、フォルテス領の名前を入れる。それはこの工房の品がフォルテス領の顔になる、ということだ」
「品質は落としません」
ガデルが少し間を置いた。
「分かった。設計する」
それだけだった。
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夕方、ゴルフに結果を伝えた。
「ガデルさんが引き受けてくれました」
「それは良かった」
「設計する、と言っていました。どんな刻印を想定していますか」
「小さくて、偽造しにくいもの。ただし、見れば分かるもの」
ゴルフが手帳に何か書いた。
「品質証明として機能させるには、取引先に刻印の形を事前に共有する必要があります。正規品かどうかを、取引先自身が確認できるようにする」
「ヴァン商会にも伝えますか」
「伝えます。再交渉の場で見せます。刻印がある品を持っていくことで、こちらの本気が伝わります」
俺は少し考えた。
「今は量より信頼を積む時期です」
「そうです」
ゴルフが静かに言った。
「量は後からついてきます。信頼は後からは作れない」
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夜、記録をつけた。
凍氷月三日。価格戦略の方針確定。
刻印導入:フォルテス領産を示す刻印を魔導銀精製品に入れる。ガデルが設計を引き受けた。
目的:産地の差別化・品質証明・価格の正当化。
条件:品質を保ち続けること。一度の粗悪品で刻印の価値が消える。
次のステップ:刻印完成後にヴァン商会への再交渉で実物を見せる。
ペンを置いた。
ガデルが「刻印は責任を取るということだ」と言った。
現場の言葉だった。
図面に名前を入れるのと同じだった。
名前を入れた瞬間から、その図面はその人間のものになる。
良くても悪くても、名前がついてくる。
だから、名前を入れる前に、品質を確認する。
それが現場のやり方だった。
商売も同じだった。
――名前を入れるということは、逃げないということだ。
窓の外に月があった。
凍氷月の月だった。
フォルテス領の夜は、静かだった。
第138話 価格戦略 了
【次回・第139話 予告】
北側石壁が完成した。
アーヴィンが壁の上に立って、一言だけ言った。
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【領地収支】
・所持金 :金貨290枚前後(変動なし)
【発展進捗・第138話時点】
・防衛 :100%(変化なし)
・食料 :98%(変化なし)
・水 :90%(変化なし)
・住居 :75%(変化なし)
・インフラ:96%(刻印設計着手・価格戦略確定)
今日の進捗:ゴルフが刻印による価格戦略を提案。ガデルが刻印設計を引き受けた(「刻印は責任を取るということだ」)。ヴァン商会再交渉で実物を見せる方針確定。今は量より信頼を積む時期と確認。定期討伐:なし(雷曜星)。




