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 第137話 セリウスの手紙

 手紙は、書いた人間の顔をしている。


 言葉より先に見えるものがある。


 ――行間を読むのは、相手を知っているからできる。

 凍氷月、一日。


 朝、バルドが執務室に来た。


「手紙が届いている」


「誰からですか」


「セリウスという名前だ」


 俺は少し手を止めた。


 セリウスさんからだった。


「開けてください」


 バルドが封を切った。


 紙を広げた。


 細かい字が、何枚にも渡って続いていた。


──────────────────────────────────────


 読んだ。


 最初は近況だった。


 アーゼルタウンの現状。商業区の動き。依頼の件数。


 以前と大きくは変わっていなかった。


 ただし、少し違うところがあった。


 以前のセリウスさんの手紙は、情報が整理されていた。


 今回は、少し違った。


 情報と一緒に、感情が混じっていた。


 中盤に、王都の動きについての記述があった。


 直接的な言葉はなかった。


 ただし、いくつかの言い回しが引っかかった。


 「王都では、辺境への関心が高まっています」。


 「以前から目をつけていた者がいる、という話を聞きました」。


 「名前は出せないが、動きがあります」。


 セルヴァン・ロウのことだった。


 名前を出さないのは、手紙に残したくないからだった。


 末尾に、一行だけ個人的な文があった。


 「そちらの空気が、気になっています」。


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンに手紙を見せた。


 アーヴィンが読んだ。


 黙っていた。


 少し経ってから言った。


「セリウスさんは、こちらに来る準備をしている」


「そう読みましたか」


「ああ」


 アーヴィンが紙を返した。


「『そちらの空気が気になっている』は、そういう意味だ。セリウスさんは、気になっているだけでは動かない人間だ」


「あの人が、気になると言った」


「そういうことだ」


 俺は少し考えた。


「いつ頃だと思いますか」


「分からない。ただし、準備が整ったときに動く人間だ。準備が整ったとき、ということになる」


──────────────────────────────────────


 昼過ぎ、返書を書いた。


 短くした。


 アーゼルタウンの近況への礼。


 王都の情報への確認。


 最後に一行だけ加えた。


 「こちらは動いています。セリウスさんが来るなら、仕事はあります」。


 それだけだった。


 バルドに渡した。


「次の商人便に乗せてください」


「分かりました」


 バルドが受け取った。


「ヒコさん」


「はい」


「セリウスという人間は、信頼できますか」


「できます」


「なぜですか」


 俺は少し考えた。


「一度も、できないことをできると言わなかった人間です」


 バルドが少し頷いた。


「分かりました」


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 夕方、《可視化》で領地を短時間確認した。


 縦穴の方向。蓄積帯。青みが続いていた。


 北側石壁。工事が続いていた。


 農地。冬の色だった。次の季節を待っていた。


 工房。炉が二基になっていた。


 火が、前より安定して見えた。


 解いた。


 全部が動いていた。


 セリウスさんが来るなら、受け入れられる土台がある。


 今はまだ、その確認だけだった。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 凍氷月一日。セリウスさんから書状。


 内容:アーゼルタウン近況・王都の動き(名指しなし・セルヴァン・ロウへの言及と読む)。


 末尾:「そちらの空気が、気になっている」。


 アーヴィン見立て:来る準備をしている。


 返書送付:「こちらは動いています。来るなら、仕事はあります」。


 ペンを置いた。


 セリウスさんから手紙が来た。


 情報が整理されていた。


 ただし、その中に感情が混じっていた。


 以前とは違った。


 人が動くとき、文章が変わる。


 整理された言葉の中に、整理しきれない何かが混じる。


 それが見えたとき、次が近いと分かる。


 ――行間は、言葉より正直だ。


 窓の外に月があった。


 凍氷月の最初の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第137話 セリウスの手紙 了

【次回・第138話 予告】


 ゴルフが「値段を上げる方法があります」と言いに来た。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨290枚前後(変動なし)


【発展進捗・第137話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :98%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:96%(変化なし)


 今日の進捗:凍氷月一日。セリウスから個人書状(アーゼルタウン近況・王都の動き・セルヴァン・ロウへの匂わせ)。末尾「そちらの空気が気になっている」。アーヴィン評「来る準備をしている」。返書送付。《可視化》で領地全体確認・問題なし。定期討伐:なし(光曜星・休養日)。

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