第135話 次の素材
次の素材は、前の素材と全部違う。
それが当たり前だ。
――同じやり方が通じないことが、次に進んだ証拠だ。
白雪月、二十七日。
朝、ガデルが珍しく執務室に来た。
工房から出てくることは、滅多になかった。
「霊銅が取れ始めた」
「いつからですか」
「昨日の午後から。ゾルドが外縁の別の層に当たった」
「量は」
「まだ少ない。ただし、質は悪くない」
ガデルが短く言った。
「精製を始める。ただし、魔導銀とは別の炉を使う」
「別の炉が必要ですか」
「霊銅は地脈反応性が高い。魔導銀と同じ炉で扱うと、干渉が起きる」
「炉を増設しますか」
「必要ない。今の炉を二基に分けて使う。設計はできている」
ガデルが図面を出した。
俺は受け取って確認した。
炉の内部を仕切る形だった。
「これはガッツさんに頼めますか」
「頼んだ。今日から取りかかると言っていた」
既に話が通っていた。
──────────────────────────────────────
昼、コリンが工房に来た。
ガデルの作業を少し見た。
「霊銅が取れたと聞きました」
「ああ」
「広域回復補助の第二段階に使えます。調整用の結界石に混ぜると、地脈への接続精度が上がります」
「どれくらい必要ですか」
「五十匁(約二百グラム)あれば第二段階に入れます」
ガデルが少し間を置いた。
「月産はまだ読めない。ただし、五十匁なら二ヶ月から三ヶ月で出る」
「急ぎません」
コリンが言った。
「準備はできています。素材が揃ったときに動きます」
ガデルがコリンを少し見た。
「魔導銀の使い方は丁寧だった」
「ありがとうございます」
「霊銅は扱いが難しい。精製品を渡すときに、注意点を伝える」
「よろしくお願いします」
ガデルが炉に向き直った。
それで会話は終わりだった。
──────────────────────────────────────
午後、リアが縦穴の傍にいた。
感知を続けていた。
「変化はありますか」
「あります」
リアが目を開けた。
「霊銅の採掘が始まってから、蓄積帯の脈動が少し変わりました」
「どう変わりましたか」
「速くなっています。ただし、魔導銀の採掘を始めたときとは違います」
「どう違いますか」
「魔導銀のときは、驚いた感触でした。今回は、違います」
リアが少し考えた。
「期待しているような感触です」
「蓄積帯が、霊銅の採掘を期待していた、ということですか」
「そう感じます。確証はありません。ただし、脈動の質が前向きです」
俺は少し考えた。
「霊銅は地脈反応性が高いと、ガデルさんが言っていました。蓄積帯が地脈に近いとすれば、反応するのは自然かもしれません」
「合理的です」
リアが記録を続けた。
──────────────────────────────────────
夕方、《可視化》で縦穴の方向を確認した。
絞って。短時間。
蓄積帯の外縁が見えた。
青みが続いていた。
その中に、新しい色があった。
細い。
ただし、確かにあった。
魔導銀の青とは違った。
もっと脈打つような色だった
霊銅の採掘が始まった層の方向だった。
解いた。
「リアさん」
「はい」
「外縁に緑に近い色が見えました。細いですが、新しい色です」
「霊銅の層と同じ方向ですか」
「同じ方向です」
リアが手帳に記録した。
「観察を続けます」
──────────────────────────────────────
夜、記録をつけた。
白雪月二十七日。霊銅の採掘開始。ゾルドが外縁の別層に当たった。
ガデル:炉を二基に分けて使う設計済み・ガッツに依頼済み。地脈反応性が高いため魔導銀と分離。
コリン:第二段階に五十匁(約二百グラム)必要・二〜三ヶ月で出る見込み。
リア感知:蓄積帯の脈動が変化(期待しているような感触)。
《可視化》確認:外縁に緑に近い新しい色を確認。
ペンを置いた。
魔導銀が安定した頃に、霊銅が出た。
一つ落ち着くと、次が動き始めた。
この領地は、そういうリズムで動いていた。
全部が同時に動くわけではなかった。
順番があった。
順番を、焦って崩さない。
それが、ここのやり方だった。
――次が来るのは、今が整ったからだ。
だから、急がない
窓の外に月があった。
白雪月の月だった。
フォルテス領の夜は、静かだった。
第135話 次の素材 了
【次回・第136話 予告】
白雪月が終わりに近づいた。
北側石壁が、半分まで立ち上がっていた。
──────────────────────────────────────
【領地収支】
・所持金 :金貨290枚前後(変動なし)
・霊銅:採掘開始・精製準備中(月産量未確定)
【発展進捗・第135話時点】
・防衛 :100%(変化なし)
・食料 :98%(変化なし)
・水 :90%(変化なし)
・住居 :75%(変化なし)
・インフラ:96%(霊銅採掘開始・炉の分離設計完了)
今日の進捗:霊銅採掘開始(ゾルド・外縁の別層)。ガデルが炉を二基分離設計・ガッツに依頼済み。コリンが第二段階に五十匁必要と確認。リア感知:蓄積帯の脈動が前向きに変化。《可視化》で外縁に緑色の新しい色を確認。定期討伐:なし(光曜星・休養日)。




