第133話 五十頭目
数は、気づいたときに意味を持つ。
積み上がっている間は、ただの数だ。
――振り返ったとき、初めて道になる。
白雪月、二十二日。土曜星。
朝、アーヴィンが騎士団を集めた。
カイン、リク、ドラン、トマ、ミーナ。
五人が並んだ。
定期討伐の出発前だった。
「今日の討伐で、累計五十頭になる」
アーヴィンが言った。
それだけだった。
五人が少し顔を見合わせた。
カインが小声で言った。
「五十か」
リクが黙っていた。
ドランが前を向いた。
トマとミーナが短く頷いた。
アーヴィンが先に歩き始めた。
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俺は少し離れてついていった。
マユミが隣にいた。
毎回ではなかった。
ただし、今日は行くことにした。
「五十頭目だから」
マユミが短く言った。
「そうですね」
理由は、それで十分だった。
森の入口まで来た。
アーヴィンが手で合図した。
隊形が変わった。
声はなかった。
合図だけで動いた。
半年前とは違った。
最初の頃は、声で確認していた。
今は違う。
見るだけで、動く。
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ブレードボアが三頭いた。
森の中ほどで見つけた。
アーヴィンが指で方向を示した。
リクが右に動いた。
カインが前に出た。
ドランが左を固めた。
トマとミーナが後方で待機した。
俺は木の陰から見ていた。
リクの動きが目に入った。
速かった。
最初の頃のリクは、速いが荒かった。
今日は違った。
速いが、無駄がなかった。
一頭目が動いた。
だが、リクの方が早かった。
ボアの突進を、正面で受けなかった。
半歩、横にずれた。
それだけだった。
ボアが空を突いた。
リクが横から入った。
一合で終わった。
アーヴィンが二頭目を抑えていた。
カインが三頭目に入った。
終わるまで、長くはかからなかった。
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血抜きが終わった。
その場で少し休んだ。
五人と俺と、アーヴィンがいた。
カインが水筒を飲みながら言った。
「五十頭か。最初の一頭、覚えてるか」
リクが少し考えた。
「覚えてる。あの時は三人がかりだった」
「今日は一人だった」
「……そうか」
リクが森の方を見た。
「そうだな」
ドランが静かに言った。
「変わったな」
トマが頷いた。
「全員、変わったよ」
ミーナが短く言った。
「まだまだです」
誰も反論しなかった。
アーヴィンが立ち上がった。
「戻る」
全員が動いた。
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帰り道、アーヴィンが俺の隣を歩いた。
マユミが少し後ろにいた。
「リクはどうでしたか」
俺が先に聞いた。
アーヴィンが少し間を置いた。
「実戦でしか伸びない、と言ったことがある」
「言っていましたね」
「伸びた」
それだけだった。
俺は《可視化》をリクに向けた。
短時間。絞って。
色が見えた。
以前より層が厚かった。
資質の色が、一段、深くなっていた。
解いた。
「伸びましたね」
「ああ」
アーヴィンが前を向いた。
「ただし、まだ入口だ」
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夜、記録をつけた。
白雪月二十二日。土曜星。定期討伐実施。
ボア系三頭・全員無傷。
累計五十頭達成。
リクの動き:速さは変わらず、無駄が消えた。半歩の読みができるようになっている。
アーヴィン評:「伸びた」。
《可視化》確認:リクの資質の層が一段深くなっている。
ペンを置いた。
五十頭。
一頭ずつ積み上げた数だった。
一度に五十頭倒したわけではなかった。
毎週、土曜星に、少しずつ積み上げた。
気づいたら五十になっていた。
騎士団も同じだった。
一度に強くなったわけではなかった。
毎週、実戦で、少しずつ変わった。
気づいたら、別の隊になっていた。
――積み上げるというのは、そういうことだ。
窓の外に月があった。
白雪月の月だった。
フォルテス領の夜は、静かだった。
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エピローグ
リクは、自分の手を見た。
帰り道の途中だった。
今日の一頭目を思い返した。
突進が来た。
体が動いていた。
考える前に、動いていた。
半歩、横にずれた。
それだけだった。
最初の頃は、考えてから動いた。
考えている間に、間に合わなかった。
アーヴィンに何度も言われた。
「考えるな」ではなかった。
「体に覚えさせろ」だった。
違いが、最初は分からなかった。
今日、少し分かった気がした。
体が先に動いていた。
自分の動きを、初めて信じられた気がした。
領地に戻ってから、隣にカインが来た。
「どうした」
「なんでもないよ」
「顔に出てるぞ」
リクは少し黙った。
「今日、うまく行ったよ」
「そうだな」
「最初の頃は、上手くいかなかった」
「ああ」
カインが小さく頷いた。
「お前は遅かった。動きじゃなくて、判断が」
「分かってるよ」
「今日は早かったな」
リクが少し、息を吐いた。
アーヴィンが遠くで立っていた。
こちらを見ていなかった。
それでよかった。
見られていたら、崩れていたかもしれなかった。
リクは手を閉じた。
まだ入口だ、と自分に言った。
アーヴィンが言いそうな言葉だった。
それで、十分だった。
第133話 五十頭目 了
【次回・第134話 予告】
ゴルフがランデルから帰ってきた。
顔が少し険しかった。
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【領地収支】
・所持金 :金貨290枚前後(変動なし)
【発展進捗・第133話時点】
・防衛 :100%(変化なし)
・食料 :98%(定期討伐・ボア系三頭・食料確保)
・水 :90%(変化なし)
・住居 :75%(変化なし)
・インフラ:95%(変化なし)
今日の進捗:土曜星定期討伐。ボア系三頭・全員無傷。累計五十頭達成。リクの動きが変化(速さに加え無駄が消えた・半歩の読みが出た)。アーヴィン評「伸びた」。《可視化》でリクの資質深化を確認。エピローグ:リク視点収録。




