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 第131話 最初の相手

 最初の取引は、値段より関係を作るためにある。


 安く売っても、高く売っても、最初は同じだ。


 ――最初の取引の答えは、次も相手が来るかどうかだ。

 白雪月、十五日。


 ゴルフが執務室に来た。


「最初の取引相手を決めました」


「聞かせてください」


 ゴルフが椅子に座った。


 手帳を開いた。


「ランデルで動いている中小商会です。ヴァン商会といいます」


「知っていますか」


「知っています。三年前から取引記録を追っています」


 ゴルフが手帳を見た。


「堅実な商会です。大きくはない。ただし、約束を守る」


「信頼できますか」


「確認できている範囲では、問題ありません。値崩しもしない。情報を売らない」


「なぜその商会を最初に選びましたか」


「最初の取引相手は、大きな商会より堅実な商会の方がいい」


 ゴルフが静かに言った。


「大きな商会は、最初に値踏みをしてくる。堅実な商会は、最初に関係を確認してくる」


「その違いが重要なんですね」


「重要です。最初の取引で何を測るか。それが、相手の商売の仕方を教えてくれます」


──────────────────────────────────────


 アーヴィンを呼んだ。


「確認したいことがあります」


「聞く」


「最初の取引品目として、農産物の余剰分と魔導銀の少量を考えています。防衛保全面で問題はありますか」


 アーヴィンが少し考えた。


「農産物は問題ない。魔導銀は少し気になる」


「どういう点がですか」


「何を運んでいるかが外に知れる。量が少なくても、種類が知れれば価値が分かる」


「対策はありますか」


「梱包を工夫する。魔導銀とは分からない形で運ぶ」


 ゴルフが頷いた。


「それはこちらで手配できます。ランデルに着いてから中身を確認する形にします」


「取引先のヴァン商会には事前に伝えますか」


「伝えます。ただし、口頭のみです。書面には残さない」


 アーヴィンが短く言った。


「それでいい」


──────────────────────────────────────


 昼過ぎ、ミルヴァが来た。


「ベルン商会の動向を報告する」


「お願いします」


「今のところ、具体的な動きはない。ランデルでの人員は変わっていない。ただし」


 ミルヴァが少し間を置いた。


「フォルテス領と取引しようとしている商会の情報を集めている痕跡がある」


「ヴァン商会への接触はありますか」


「今のところない。ただし、名前は把握されている可能性がある」


「把握されているとしたら、どう動いてくると思いますか」


「二通りある。取引が成立する前に妨害するか。成立した後に取引先を引き剥がすか。

ベルン商会は、潰す前に測る」


 ミルヴァが続けた。


「今の段階では、様子を見ていると思う。フォルテス領がどう動くかを確認している」


「こちらの対応は変えますか」


「変えません」


 ゴルフが答えた。


「動きを変えると、警戒していることが伝わる。今は普通に進める。その方が向こうも動きにくい」


 ミルヴァが少し頷いた。


「同意見だ」


──────────────────────────────────────


 夕方、方針をまとめた。


 取引相手:ヴァン商会(ランデル経由・中小規模・信頼性確認済み)。


 取引品目:農産物の余剰分(麦・根菜)・魔導銀少量(梱包で中身を隠す)。


 取引規模:最初は小さく。関係を確認してから広げる。


 ゴルフがまとめた内容を確認した。


「これでいいですか」


「問題ありません」


「一点だけ付け加えます」


 ゴルフが手帳を閉じた。


「最初の取引は、利益を優先しません」


「どういう意味ですか」


「相手が次も来たいと思う取引にします。値段より、印象を残す」


「具体的には」


「約束の日に、約束の量を、約束の品質で届ける。それだけです」


 ゴルフが静かに言った。


「当たり前のことを当たり前にやる。それが、最初の取引で一番難しい」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 白雪月十五日。最初の外部取引先決定。


 相手:ヴァン商会(ランデル・中小・信頼性確認済み)。


 品目:農産物余剰分・魔導銀少量(梱包対策あり)。


 方針:利益より関係。約束通りに届ける。


 ベルン商会:動きなし・監視継続。対応方針変更なし。


 ペンを置いた。


 ゴルフが言った言葉が、頭に残った。


 当たり前のことを当たり前にやる。それが最初の取引で一番難しい。


 建設現場と同じだった。


 工程通りに、品質通りに、期日通りに。


 それが守れる現場と守れない現場があった。


 守れる現場だけが、信頼を積んだ。


 商売も同じだった。


 ――約束を守ることが、最初の財産だ。


 窓の外に月があった。


 白雪月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第131話 最初の相手 了

【次回・第132話 予告】


 農地が二期作の収穫を迎えた。

 エルナが報告に来た。顔が少し明るかった。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨290枚前後(変動なし)


【発展進捗・第131話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :95%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:95%(変化なし)


 今日の進捗:最初の外部取引先確定(ヴァン商会・ランデル経由)。取引品目:農産物余剰分・魔導銀少量。ベルン商会の動き:監視継続・具体的接触なし。対応方針変更なし。定期討伐:土曜星につき実施・ボア系3頭・全員無傷。

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