↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
273/492

 第130話 北側を固める

 壁は、作っている間は壁ではない。


 立った瞬間から、壁になる。


 ――完成するまで、それはまだ「壁」ではない。

 白雪月、十日。


 朝、ガッツが現場の確認に来た。


 北側石壁の着工について、段取りの最終確認だった。


──────────────────────────────────────


 北側石壁の着工を確認した。


 ガッツが既に基礎の割り出しを終えていた。


「金貨三十枚の見込みで合っていますか」


「二十八枚から三十二枚の間だ。石の質によって変わる」


「了解です。三十五枚まで見ておきます」


「その方がいい」


 ガッツが地面に線を引いた。


「東側と同じ高さで仕上げる。高さ二間(約九メートル)。ただし北側は風の当たりが違う。積み方を変える」


「どう変えますか」


「外面の石を少し斜めに入れる。風を受け流す形だ」


 俺は少し考えた。


「それは東側にはなかった工夫ですね」


「現場で決めた。問題があれば言え」


「問題ありません。お願いします」


 ガッツが頷いた。


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


 ゾルドを呼んだ。


「石壁と採掘の両方をお願いすることになります。無理がありますか」


「ない」


「どう段取りをつけますか」


「午前に採掘。午後に石壁。それで回る」


 ゾルドが短く言った。


「縦穴は今の深さで安定している。一日四時間あれば十分だ」


「体に負担が出たら、すぐ言ってください」


「出たら言う」


 ゾルドが現場に向かった。


 信頼できる人間というのは、こういう人間だった。


 できないことを「できない」と言う。


 できることを、余計な言葉なしに「できる」と言う。


──────────────────────────────────────


 昼、マルティナが食事を出した。


 具だくさんのスープだった。


 厚切りのパンと、卵が添えてあった。


 少し良い日の食事だった。


 工事が始まった日だからかもしれなかった。


「今日は少し肉を増やした」


 マルティナが短く言った。


「石壁工事が忙しい日だから」


「珍しいですね」


「珍しくない。理由があれば増やす」


 アーヴィンがスープを見た。


「切り方も違う」


 マルティナが少し間を置いた。


「……うるさい」


 ルナが首を傾げた。


「顔、赤いよ?」


「火の前にいたから」


 ミルヴァが何も言わなかった。


 ただ、椀を持ち上げた。


 俺はスープを一口飲んだ。


「美味いな」


「……そう」


 マルティナが台所に戻った。


 マユミが小さく笑った。


 俺だけ、理由が分かっていなかった。


──────────────────────────────────────


 昼過ぎ、ゴルフが来た。


「一つ、確認したいことがあります」


「聞かせてください」


「北方産の果実酒の相場ですが、今年は上がっています」


「どれくらい上がっていますか」


「去年比で二割ほどです。寒波で収穫量が落ちた地域があったようです」


 ゴルフが続けた。


「フォルテス領は温暖な気候で、果樹に向いた土地のはずです。試しに植えてみる価値があります」


 マルティナが台所から出てきた。


「余った果実は腐る。だったら残せる形に変える」


 聞こえていたようだった。


「保存食にもなるし、加工すれば持ち運べる。冬の栄養不足対策にもなる」


「ゴルフさんの見立ては」


「売れます」


 ゴルフが短く言った。


「保存できる。軽い。価値が落ちにくい。商売向きです」


──────────────────────────────────────


 夕方、《可視化》で南斜面付近を確認した。


 施設の南側。地脈の流れが安定している区域があった。


 色が落ち着いていた。


 冷え方が安定していた。


 果樹の根が張るのに向いた土地に見えた。


 解いた。


「ここにします」


 地面に線を引いた。


「りんごを先行します。ぶどうは南側石壁の近辺で少量だけ試します」


「石壁の保温を使うわけですか」


「はい。壁際は温度が安定します」


 ゴルフが手帳に何か書いた。


「収穫まで何年ですか」


「りんごは早くて三年。ぶどうは五年前後です」


「急ぎません」


 ゴルフが言った。


 また同じ言葉だった。


「待てる投資が、一番いい投資です」


 俺も同じことを思っていた。


 果樹は、今日植えて今日実るものではなかった。


 数年後を信じて植えるものだった。


 ――今植えるのは、今のためではない。三年後の誰かのためだ。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 白雪月十日。月次給与支払い完了。


 北側石壁着工。高さ二間(約九メートル)・金貨二十八〜三十二枚見込み(上限三十五枚で押さえる)。外面の石を斜めに積む風対策あり。ガッツ指揮・ゾルドが採掘と兼任(午前採掘・午後石壁)。


 果樹試験栽培の方針決定。南斜面の地脈安定区域にりんご先行。ぶどうは南側石壁近辺で少量試験。収穫まで数年。急がない。


 ペンを置いた。


 今日は二つのことが始まった。


 北側石壁と、果樹の計画だった。


 どちらも、終わるまでに時間がかかる。


 石壁は数ヶ月。果樹は数年。


 時間のかかるものほど、残る。


 窓の外に月があった。


 白雪月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第130話 北側を固める 了

【次回・第131話 予告】


 ゴルフが「最初の取引相手を決めました」と言いに来た。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨290枚前後(北側石壁着工費・金貨三十枚概算を支出)

・白雪月給与:聖夜月末に前倒し支払い済みのため今月描写なし


【発展進捗・第130話時点】


・防衛  :100%(北側石壁着工・東側完成維持)

・食料  :95%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:95%(果樹試験栽培方針決定・区画確定)


 今日の進捗:月次給与支払い完了。北側石壁着工(ガッツ指揮・ゾルド兼任)。果樹試験栽培方針決定(りんご先行・ぶどう少量試験)。《可視化》で南斜面地脈安定を確認。定期討伐:なし(光曜星・休養日)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。