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 第128話 値段を知る

 価値は、比べることで生まれる。


 比べる前は、全部が感覚だ。


 ――感覚で動いているうちは、相手の土俵で戦っている。

 白雪月、三日。


 ゴルフが机の前に座った。


 書類を広げた。


 昨日から数えて三枚目だった。


「整理ができました」


「聞かせてください」


「ランデルの現在の相場です。品目ごとに並べました」


 紙を見た。


 細かかった。


 ゴルフが指で示しながら説明した。


「まず魔導銀です。現在のランデル相場は一匁(約四グラム)あたり銀貨十二枚から十五枚。品質によって幅があります」


「フォルテス領の生産コストは」


「ガデルさんに確認しました。採掘・精製を合わせて一匁(約四グラム)あたり銀貨三枚ほどです」


 俺は少し計算した。


「採算は取れる」


「ただし」


 ゴルフが続けた。


「これは今の相場です。フォルテス領が出荷を始めれば、価格は下がります」


「どれくらい下がりますか」


「今の月産量なら、影響は軽微です。ただし、増産すれば話が変わる」


「増産の予定はありません。当面は月産二十匁(約八十グラム)が上限です」


「それなら値は崩れません」


──────────────────────────────────────


「次に蒼鋼です」


 ゴルフが別の紙を出した。


「ランデルでの需要は高い。騎士団装備・工業工具に使われます。ただし、生産者が少ない」


「フォルテス領で取れます」


「知っています。ガデルさんから聞きました」


 俺は少し驚いた。


「もう話しましたか」


「昨日の夕方に。礼儀として、先にガデルさんへ話を通しました」


 ゴルフが静かに言った。


「現場を飛ばすと、後で揉める」


 それは正しかった。


「ガデルさんの反応は」


「『急かすな』と言われました」


「それはいい反応です」


「分かっています。急かしていません」


──────────────────────────────────────


「霊銅はまだ相場が動いています」


 ゴルフが三枚目の紙を示した。


「術式系の需要が増えている。ランデルでは品薄です。一匁(約四グラム)あたり金貨二枚(銀貨二十枚)を超えることもあります」


「術式素材は、やはり強いですね」


「地脈接続に使われる素材なので、簡単には手に入らない。フォルテス領が出せるなら、かなり有利に動けます」


「精製が始まったばかりです。安定するまで時間がかかります」


「急ぎません」


 ゴルフが言った。


 俺と同じ言葉だった。


「売れる時期を待ちます。その前に、取引先を温めておきます」


「温める、というのは」


「顔を出す。話す。信頼を積む。値段より先に、関係を作ります」


 ゴルフが書類をまとめた。


「売れる、と高く売れるは違います。高く売るには、相手に先に動いてもらう必要があります」


──────────────────────────────────────


「一つ、報告があります」


 ゴルフの声が少し変わった。


「ベルン商会が動き始めています」


「どういう動きですか」


「ランデルで人を増やしています。それ自体は不審ではない。ただし、増やし方が気になります」


「気になるとは」


「商売のための人員ではなく、情報収集のための人員です。見張りを置く時の動き方です」


 ミルヴァが既に報告していた内容と重なった。


「どこを見張っていると思いますか」


「フォルテス領と取引している商人です。今はまだ接触はない。ただし、次の段階に移る前の準備に見えます」


「次の段階とは」


「取引先を引き剥がすか、情報を流すか、どちらかです」


 ゴルフが静かに言った。


「こちらが先に信頼を固めれば、どちらも難しくなります。時間の問題です」


──────────────────────────────────────


 夕方、《可視化》で領地を短時間確認した。


 絞って。全方向には広げない。


 縦穴の方向に向けた。


 蓄積帯の外縁が見えた。


 青みが続いていた。


 魔導銀の色が安定していた。


 次に農地の方向。


 土の色が落ち着いていた。


 冬の農地だった。


 次の季節を待っていた。


 解いた。


 頭に軽い圧力が来た。


 引いた。


 問題ない。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 ゴルフによる市場調査報告。


 魔導銀:一匁(約四グラム)あたり銀貨十二〜十五枚。生産コストの四〜五倍。月産二十匁(約八十グラム)なら相場への影響軽微。


 蒼鋼:需要高・生産者少・有利に動ける。ガデルと話済み。


 霊銅:品薄・高価格。精製安定後に動く。


 ベルン商会:ランデルで情報収集型の人員を増加中。取引先への接触はまだない。


 対応方針:先に取引先との信頼を固める。値段より関係を先に作る。


 ペンを置いた。


 三日で、ゴルフは全部の数字を並べた。


 三年分の記録があったからだった。


 準備してきた人間は、仕事が早かった。


 値段が分かった。


 コストが分かった。


 敵の動きも、少し見えた。


 ――数字は地図だ。地図がなければ、どこに向かっているか分からない。


 窓の外に月があった。


 白雪月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。



 第128話 値段を知る 了

【次回・第129話 予告】


 コリンが設計図を広げた。

 「準備ができました」と言った。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨320枚(変動なし)

・魔導銀累計:約35匁(約百四十グラム)(目標25匁(約百グラム)達成済み・コリン設計着手可能)


【発展進捗・第128話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :95%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:93%(変化なし)


 今日の進捗:ゴルフが市場調査を報告(魔導銀・蒼鋼・霊銅の相場と生産コスト比較)。ベルン商会がランデルで情報収集型人員を増加中(接触はまだない)。対応方針:先に取引先との信頼を固める。定期討伐:土曜星につき実施・ボア系2頭・全員無傷。

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