第7章 物流支配 第127話 ゴルフが来た
外を動く人間は、外を知っている。
そういう人間が来るということは、領地の外側が動き始めたということだ。
――必要なものは、必要なときに来る。
白雪月、一日。
朝、バルドが執務室の扉を叩いた。
「ゴルフという男が来ている」
「ゴルフさんですか」
「ああ。たくさん荷物を持っている」
俺は少し考えた。
ゴルフ。
アーゼルタウンで世話になった商人だった。
最初は依頼の仲介だった。
それがいつの頃からか、固定の依頼を流してくるようになった。
値段が適正だった。
情報が正確だった。
一度も嘘をつかなかった。
「通してください」
──────────────────────────────────────
ゴルフは四十代後半。
体格は中程度。
目が細く、笑っているのかどうかが分かりにくい顔だ。
荷物は革袋が三つ。それと小さな木箱。
執務室の椅子に座ると、すぐ本題に入った。
「店をたたんで来ました」
「そうですか」
「損はさせません」
「続けてください」
「雇ってほしいです」
それだけだった。
俺は少し間を置いた。
「理由を聞いてもいいですか」
「フォルテス領が伸びると確信したからです」
「根拠は」
「石壁が増えていた。農地が増えていた。人の顔が変わっていた」
ゴルフが静かに言った。
「最後にここを通ったのは半年前です。半年で、これだけ変わる領地はない」
「買いかぶりです」
「買いかぶりなら、損をするのはこっちです」
俺は少し笑った。
「ゴルフさんは、正直ですね」
「嘘をつくと、後で面倒です」
──────────────────────────────────────
条件の確認をした。
「役割を聞かせてください」
「外の仕事を全部やります」
「全部とは」
「物流。価格交渉。情報収集。都市との窓口」
ゴルフが指を折った。
「要するに、ここと外を繋ぐ人間がいないでしょう。それをやります」
「給与は」
「固定給はいりません」
俺は少し驚いた。
「取引の純利益から一割もらえれば十分です」
「一割ですか」
「最初は少ない。ただし、伸びれば、こっちも儲かる。それで十分です」
理屈は通っていた。
「居住は」
「どこでも構いません。物置の隅でも」
「そこまでしなくていいです」
バルドが短く言った。
「空き部屋ならある」
ゴルフが少し頭を下げた。
「ありがとうございます」
──────────────────────────────────────
アーヴィンを呼んだ。
ゴルフを一度見た。
何も言わなかった。
三分ほど経ってから、短く言った。
「使える人間だ」
それだけだった。
ゴルフが「光栄です」と答えた。
アーヴィンはもう別の方を向いていた。
──────────────────────────────────────
昼過ぎ、ゴルフが木箱を開けた。
中には書類が入っていた。
ランデルの物価記録だった。
月ごとに整理されていた。
三年分あった。
「商人時代につけていたものです」
「全部ですか」
「全部です。ここの生産品と突き合わせれば、何がいくらで売れるか分かります」
俺は一枚手に取った。
数字が細かかった。
品目ごとに、季節ごとに、書いてあった。
「これを持ってきたんですか」
「資料がなければ、判断できない。判断できなければ、損をする」
ゴルフが当たり前のように言った。
「情報が命です」
──────────────────────────────────────
夕方、《可視化》をゴルフに向けてみた。
短時間。絞って。
色が見えた。
落ち着いた色だった。
焦りがなかった。
欲はあった。
ただ、濁ってはいなかった。
人を騙す色ではなかった。
解いた。
問題ない。
そう判断した。
──────────────────────────────────────
夜、記録をつけた。
白雪月一日。ゴルフ合流。
役割:物流・価格交渉・情報収集・都市との窓口。
報酬:固定給なし・取引純利益の一割。
居住:空き部屋(バルド手配)。
持参資料:ランデル物価記録三年分。
《可視化》確認:問題なし。
ペンを置いた。
年が明けた最初の日に、商人が来た。
荷物は三つの革袋と木箱一つ。
持ち込んだ物は、多くなかった。
しかし三年分の記録を持ってきた人間は、準備ができている人間だった。
フォルテス領が伸びると確信した、と言った。
ただし、嘘をついてここまで来る理由もなかった。
――信じてみることと、確認することは、同時にできる。
それでいいと思った。
窓の外に月があった。
白雪月の月だった。
冬の月は、静かだった。
フォルテス領に、今年最初の人間が加わった。
商人だった。
領地に、外へ繋ぐ役目が加わった。
第127話 ゴルフが来た 了
【次回・第128話 予告】
ゴルフが最初にした仕事は、市場の値段を調べることだった。
「売れる」と「高く売れる」は、違う。
──────────────────────────────────────
【領地収支】
・所持金 :金貨320枚(変動なし)
・ゴルフ報酬:固定なし・初月は取引実績ゼロのため計上なし
【発展進捗・第127話時点】
・防衛 :100%(変化なし)
・食料 :95%(変化なし)
・水 :90%(変化なし)
・住居 :75%(変化なし)
・インフラ:93%(変化なし)
今日の進捗:ゴルフ合流(固定給なし・純利益一割・物流担当)。ランデル物価記録三年分を持参。アーヴィンが『使える人間だ』と評価。《可視化》確認問題なし。定期討伐なし(光曜星)。




