第125話 地下蓄積帯、その後
待つことと、変わることは、同時に起きる。
待っている間に、向こうも変わっている。
――次に会うとき、昨日と同じではない。
聖夜月、第二十日。
査察が来て、帰った。
カルヴィン・レイドが率いる三人組だった。
工房を見た。
農地を見た。
下水網を見た。
騎士団を見た。
縦穴は、覆いを閉じたままだった。
試掘坑と答えた。
それ以上は聞かれなかった。
施設は、立入制限を説明した。
カルヴィン・レイドは、一度だけ施設の方を見た。
それから、何も言わなかった。
査察は、半日で終わった。
拍子抜けするほど、静かに終わった。
帰り際、カルヴィン・レイドが俺に近づいた。
「この領地は、見せるものがある」
それだけだった。
その言葉の意味は、分かった。
記録に残る内容は、問題ない。
そう言っていた。
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査察が終わった翌日、採掘を再開した。
ゾルドが縦穴に入った。
リアが感知を確認した。
「脈動が変わっています」
「どんな変化ですか」
「速くなっています。ただし、昨日と違います」
「どう違いますか」
「採掘再開直後の変化とは違います。もっと、意思がある感じです」
「意思がある感じですか」
「向こうが、こちらを待っていた、という感じです」
俺は少し考えた。
「査察で採掘が止まっていた間、蓄積帯はどうでしたか」
「安定していました。ただし、採掘が再開した瞬間に、脈動が変わりました。止まっていた間も、感知していたのかもしれません」
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ゾルドが上がってきた。
「どうでしたか」
「石の感触が、変わっていた」
「変わった、というのは」
「採掘を止める前と、再開した後で、違う」
「硬さが変わりましたか」
「硬さではない。質だ」
ゾルドが少し考えた。
「石が、待っていたような感触だった」
リアが静かに言った。
「同じ言葉です」
「何がですか」
「ゾルドさんとわたしが、同じことを言いました。向こうが待っていた」
三人で、少し黙った。
石工の手の感触と、魔法使いの感知が、同じものを捉えていた。
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午後、《可視化》を入れた。
縦穴の方向へ、絞って向けた。
蓄積帯の外縁が見えた。
灰色だった。
ただし、今日は違った。
色の縁が、わずかに青みを帯びていた。
ゾルドが初めて触れたときに見た色だった。
あのときは一瞬だけだった。
今日は、続いていた。
核の方向を確認した。
金色が見えた。
以前より、少し広かった。
核そのものは、まだ見えなかった。
深すぎた。
解いた。
頭に圧力が来た。
軽かった。
引いた。
リアに伝えた。
「外縁が青みを帯びています。以前より長く続いています。核の周囲の金色が、少し広がっています」
リアが少し間を置いた。
「成長しているのかもしれません」
「蓄積帯が、ですか」
「採掘が始まってから、外縁が少しずつ変わっています。コリンさんの言葉を借りれば、蓄積帯はもうこの領地の一部です。この領地が変わるにつれて、蓄積帯も変わっているのかもしれません」
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夕方、サヤに会いに行った。
「今日、蓄積帯の色が変わりました」
「知っています」
サヤが静かに言った。
「施設も、感じましたか」
「感じました。地脈の流れが、少し変わりました」
「良い変化でしたか」
「良い変化でした。今日の変化は、初めての感覚ではありませんでした」
「前にも、同じような変化がありましたか」
サヤが少し考えた。
「施設が、この土地に来た人間を“受け入れた”とき。そのときに似た変化です」
「どういう意味ですか」
「蓄積帯が、この領地を認識した。そういう変化だと思います」
俺は少し間を置いた。
「認識した、というのは」
「受け入れた、という方が正確かもしれません。この領地と、蓄積帯が、繋がり始めた」
サヤが少し微笑んだように見えた。
「地上の人たちの色が、また変わりました」
「どう変わりましたか」
「管理者の色が、以前より、地下に近くなっています」
俺は少し考えた。
「俺が、蓄積帯に近づいた、ということですか」
「近づいた、というより、繋がった、という感じです」
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夜、記録をつけた。
査察終了。カルヴィン・レイド「見せるものがある」の言葉。問題なし。
採掘再開。蓄積帯の脈動が変化(待っていたという感触・リアとゾルドが同じ言葉で表現)。
《可視化》確認。外縁の青みが以前より長く続く。核周囲の金色が広がっている。
サヤとの対話。蓄積帯がこの領地を認識・受け入れた可能性。管理者の色が地下に近くなった。
ペンを置いた。
査察が終わった。
採掘が再開した。
蓄積帯が変わった。
全部が、同じ日に起きた。
偶然ではないかもしれなかった。
査察で採掘が止まっていた間、蓄積帯は感知していた。
再開した瞬間に、応えた。
待っていた。
それが、何を意味するのか。
まだ、全部は分からなかった。
ただし、一つだけ分かったことがあった。
蓄積帯は、もうこの領地と無関係ではなかった。
繋がっていた。
――繋がったものは、切れない。
そう思った。
窓の外に月があった。
聖夜月の月だった。
フォルテス領の夜は、静かだった。
縦穴の底では、蓄積帯が今夜も呼吸していた。
色が、少し違っていた。
青みがかっていた。
それが今日から、フォルテス領の色になった。
第125話 地下蓄積帯、その後 了
【次回・第126話 予告】
聖夜月も終わりに近づいた。
マユミが夜、窓の外を見ていた。
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【領地収支】
・所持金 :金貨320枚(変動なし)
・魔導銀精製:累計約三十五匁(目標二十五匁を達成・成果報酬計上予定)
【発展進捗・第125話時点】
・防衛 :100%(査察終了・問題なし)
・食料 :95%(変化なし)
・水 :90%(変化なし)
・住居 :75%(変化なし)
・インフラ:93%(採掘再開・地下連動安定化)
今日の進捗:査察終了(カルヴィン・レイド「見せるものがある」)。採掘再開。蓄積帯の脈動変化(リアとゾルドが「待っていた」と同じ言葉で表現)。《可視化》で外縁の青みが継続・核周囲の金色が拡大。サヤとの対話(蓄積帯がこの領地を受け入れた・管理者の色が地下に近くなった)。




