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 第123話 コリンの設計

 設計とは、未来を紙の上に置くことだ。


 置いた未来が、現実になるまで。


 ――待つ間も、設計は生きている。

 聖夜月、第十二日。


 朝、コリンが執務室に来た。


 図面を持っていた。


 前回と同じように、丁寧に巻いてあった。


「少し変えました」


「見せてください」


 机の上に広げた。


 前回の図面とほぼ同じだった。


 ただし、一か所だけ、書き加えがあった。


──────────────────────────────────────


「どこを変えましたか」


「ここです」


 コリンが図面の一点を指した。


 施設と縦穴の間の領域だった。


「蓄積帯との連動ポイントを追加しました」


「蓄積帯と、広域回復補助を繋げる、ということですか」


「繋げるのではありません。影響を受けやすい場所を特定して、そこに調整用の結界石を置きます」


「どういう効果がありますか」


「蓄積帯の脈動が広域回復補助に干渉した場合、その影響を吸収します。逆に、蓄積帯の安定した脈動を補助の強化に使える可能性もあります」


「プラスに使う、ということですか」


「可能性の話です。リアさんと確認しながら進めます」


 コリンが図面をなぞった。


「蓄積帯のことが分かる前と、後では、設計の意味が変わりました」


「どう変わりましたか」


「前は、施設の地脈だけを使う設計でした。今は、蓄積帯という別の要素があります。それを無視するより、組み込む方が自然だと思いました。蓄積帯は、もうこの領地の一部です」


──────────────────────────────────────


「魔導銀の量は変わりますか」


「変わりません。基本の核材は同じです。調整用の結界石が追加になりますが、こちらは霊銅で代用できます」


「霊銅は、ガデルさんが精製できますか」


「確認しています。できると言っていました。魔導銀より早く出せるそうです」


「それは良かった」


 コリンが図面を一度見た。


「魔導銀が二十五匁集まった後、まず基本設置をします。その後、霊銅が揃ったタイミングで調整用を追加します。二段階になります」


「工期は」


「基本設置で三日。調整用の追加でさらに二日。合わせて五日です」


「施設への負荷は、前回の計算から変わりますか」


「変わりません。リアさんが再計算しました。許容範囲内です」


「リアさんと一緒に設計を詰めているんですね」


「お互い様です」


 コリンが静かに言った。


──────────────────────────────────────


 午後、リアを呼んだ。


 コリンも残った。


 三人で図面を確認した。


「蓄積帯との連動ポイントについて、感知の観点から問題はありますか」


「問題はありません」


 リアが図面を見た。


「ただし、一点だけ確認させてください」


「どうぞ」


「この調整用結界石の位置は、縦穴から五間(約二十二メートル)ほどです。採掘が進んで縦穴が深くなった場合、結界石と蓄積帯の距離が変わります。その影響を見ておく必要があります」


「距離が近くなると、どうなりますか」


「強くなる可能性もあります。乱れる可能性もあります。今は分かりません」


「採掘の進捗に合わせて調整する、という方針でいいですか」


「それが一番現実的です」


 コリンが図面に小さく注記を加えた。


「採掘進捗に合わせて再確認」


 几帳面な字だった。


「完璧ですね」


「九割以上は、です」


 コリンが真顔で言った。


 リアが小さく笑った。


 また珍しかった。


──────────────────────────────────────


 夕方、ガデルに確認した。


「霊銅の精製について、お聞きしたいことがあります」


「何だ」


「魔導銀と並行して精製できますか」


「できる。炉は一つだが、作業の順番を変えればいい」


「魔導銀の精製に影響しますか」


「少し遅くなる。月に二十匁が、十五匁になるかもしれない」


「どちらを優先しますか」


「魔導銀だ。コリンの設計には魔導銀が先に要る」


「では、魔導銀が目標量に達してから、霊銅を始めてもらえますか」


「それでいい」


 ガデルが短く言った。


「霊銅はどのくらい出せますか」


「魔導銀より歩留まりがいい。月に五十匁は出せると思う」


「ありがとうございます」


「礼はいい」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 コリンの設計、二度目の確認完了。


 変更点:蓄積帯との連動ポイントを追加。調整用結界石(霊銅で代用可能)。


 施設への負荷:変化なし。


 工期:基本設置三日・調整用追加二日、計五日。


 ガデルの精製計画。


 魔導銀:月産二十匁(霊銅並行時は十五匁)。


 霊銅:魔導銀目標達成後に開始・月産五十匁見込み。


 採掘進捗に合わせた再確認:注記済み。


 ペンを置いた。


 コリンが設計を変えた。


 蓄積帯を、無視するのではなく、組み込んだ。


 それが、正しいと思った。


 知らないものを排除するのではなく、理解して使う。


 それが、現場上がりの考え方と同じだった。


 コリンは現場上がりではなかった。


 僧侶だった。


 それでも、同じ結論に至った。


 ――良い設計は、現場を知っている。


 そう思った。


 窓の外に月があった。


 聖夜月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。


 図面が、机の上にあった。


 未来が、紙の上に置かれていた。


 あとは、現実にするだけだった。



 第123話 コリンの設計 了

【次回・第124話 予告】


 カルヴィン・レイドから、書状が届いた。

 封を開けると、一行だけ書いてあった。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨320枚(変動なし)


【発展進捗・第123話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :95%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:92%(広域回復補助設計・二度目確認完了)


 今日の進捗:コリンの広域回復補助設計、蓄積帯連動ポイントを追加した改定版を確認。霊銅での調整用結界石追加が決定。工期合計五日。ガデルに霊銅精製の相談(魔導銀目標達成後に開始・月産五十匁見込み)。リアと三者で設計を最終確認・採掘進捗に合わせた再確認を注記。

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