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 第120話 魔導銀の道筋

 作る力が、動き始めた。


 最初の一歩は、小さい。


 ――それでも、一歩は一歩だ。

 聖夜月、第五日。


 三日が経った。


 朝、ガデルが工房から出てきた。


 手に、何かを持っていた。


 親指ほどの大きさだった。


 光っていた。


 銀色だった。


 ただし、普通の銀ではなかった。


 光り方が、違った。


 深かった。


 内側から光っているような色だった。


──────────────────────────────────────


 ガデルが俺に近づいた。


 手を差し出した。


「見ろ」


 掌の上に、小さな塊があった。


 受け取った。


 大きさのわりに、軽かった。


 《可視化》を入れた。


 色が、深かった。


 魔力を含んでいた。


 芯が詰まっているように見えた。


 試作精製の段階で、ここまで出るのか。


 解いた。


「魔導銀ですか」


「そうだ」


「精製は、成功ですか」


「初回にしては上出来だ。純度はまだ足りない。次はもっと高くなる」


「次、というのは」


「手順が分かった。同じことをやればいい。量を増やせば、精製量も増える」


 ガデルが塊を受け取った。


「これは俺が持つ。記録のために、重さを量れ」


「はい」


 重さを量った。


 重さは、五匁程度だった。


 記録した。


──────────────────────────────────────


 コリンを呼んだ。


 リアも呼んだ。


 ガデルも一緒に、執務室へ向かった。


「魔導銀の精製に成功しました。コリンさんに報告したかった」


 コリンが塊を見た。


 目が、少し変わった。


「触れていいですか」


「ガデルさん、よいですか」


「見るだけなら」


 コリンが塊を手に取った。


 両手で持った。


 目を閉じた。


 しばらく、そのままだった。


 目を開けた。


「魔力の伝導が、感じられます」


「触れただけで分かりますか」


「九割以上の確率で、これは本物です」


 ガデルが少し目を細めた。


「九割以上、か」


「残りは、もっと詳しく調べれば分かります」


「残りも本物だ」


 ガデルが短く言った。


 コリンが塊をガデルに返した。


「これで、広域回復補助の設計が現実になります」


 コリンが静かに言った。


「どのくらいの量が必要ですか」


「設計上は、二十五匁程度があれば最初の核材として使えます。量が増えれば、範囲が広がります」


「二十五匁程度」


「急ぎません。ガデルさんのペースで構いません」


 ガデルが少し考えた。


「月に二十匁程度は出せる。最初は少ないかもしれない。慣れれば増える」


「ありがとうございます」


「礼はいい。仕事だ」


 ガデルが出ていった。


──────────────────────────────────────


 リアが残った。


「蓄積帯の状態を確認したい、と思っていました」


「採掘開始前の再接触確認ですね」


「はい。今日はどうですか」


「今日の午後に、お願いできますか」


「分かりました」


──────────────────────────────────────


 午後、縦穴の前に集まった。


 ガデル、リア、ゾルド、俺。


 リアが片膝をついた。


 掌を地面に当てた。


 目を閉じた。


 しばらく経った。


 目を開けた。


「安定しています」


「工房が動き始めた影響は」


「あります。脈動が少し変わっています。乱れではありません。変化です」


「どんな変化ですか」


「周期が、少し長くなっています。落ち着いた、という感じです」


 ガデルが縦穴を見た。


「採掘を始めていいか」


 リアが少し考えた。


「問題ないと思います。ただし、採掘中も定期的に感知を続けます」


「分かった」


 ガデルがゾルドを見た。


「外縁から始める。核に近づくな」


「分かった」


 ゾルドが短く答えた。


 二人が、縦穴の前で向き合った。


 どちらも、多くを語らなかった。


 それでよかった。


──────────────────────────────────────


 夕方、採掘の初日が終わった。


 ゾルドが上がってきた。


「どうでしたか」


「外縁の石が、思ったより硬かった」


「採掘できましたか」


「少しだけ」


 ゾルドが手の中のものを見せた。


 小さな欠片だった。


 灰色だった。


 外縁の色だった。


「これでいいですか」


「ガデルさんに見せてください」


 ガデルが確認した。


「問題ない。これを精製に回す」


 ガデルが欠片を受け取った。


 表面を指でなぞった。


「明日から、少しずつ量を増やす」


「急がなくていいです」


「分かっている」


 ガデルが短く言った。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 魔導銀の初回精製成功。


 重さ:五匁程度。純度:改善余地あり。次回以降向上見込み。


 月産目標:二十匁程度。コリンの設計に必要な量:二十五匁程度。二ヶ月で最初の核材が揃う。


 蓄積帯の再接触確認:安定。脈動の周期が少し長くなった(落ち着きの兆候)。


 採掘初日:外縁の欠片を少量採掘。硬度は想定より高い。


 ペンを置いた。


 今日、魔導銀が生まれた。


 小さかった。


 親指ほどだった。


 それでも、光っていた。


 この領地の地下から、初めて金属が出た。


 掘って、精製して、形になった。


 最初の一歩だった。


 コリンが「これで現実になります」と言った。


 その言葉が、まだ残っていた。


 設計が現実になる。


 そのための材料が、今日生まれた。


 ――作る力が、ここから動き始める。


 窓の外に月があった。


 聖夜月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。


 工房では、炉が今夜も燃えていた。


 縦穴の底では、蓄積帯が落ち着いて呼吸していた。


 地上と地下が、同じ夜の中にあった。



 第120話 魔導銀の道筋 了

【次回・第121話 予告】


 ミルヴァが、執務室に来た。

 「報告がある。少し長くなる」


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨320枚(変動なし)

・成果報酬:魔導銀初回精製(五匁程度)→次回精製成功時に計上予定


【発展進捗・第120話時点】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :95%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:92%(工房稼働・魔導銀初回精製成功・採掘初日完了)


 今日の進捗:魔導銀の初回精製成功(五匁程度・純度改善余地あり)。コリンに報告→広域回復補助の設計が現実へ(必要量二十五匁程度・月産二十匁程度目標で二ヶ月の見込み)。蓄積帯の再接触確認:安定・脈動周期が長くなった。採掘初日:外縁の欠片を少量採掘。


【重量単位・参考】

・1斤=160匁

・1匁=約4グラム

・1斤=約640グラム

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