第118話 工房を建てる
建てる、というのは、積み上げることだ。
一日一日、積み上げる。
――それしかない。
長影月、第二十八日。
朝一番から、工房の基礎工事が始まった。
ガッツが指揮を取った。
建設班が動いた。
縦穴の拡張を終えたゾルドも、加わった。
班は三つに分かれた。
一班が基礎の掘削。
二班が石材の運搬。
三班が炉の設置位置の整地。
ガデルは、整地の班の横に立っていた。
指示はしなかった。
見ていた。
何かあれば、言う。
何もなければ、黙っている。
それが、ガデルのやり方だった。
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午前中に、炉の基礎部分が固まった。
ガッツが確認した。
「ガデル、見てくれ」
ガデルが近づいた。
地面に膝をついた。
基礎を手で触れた。
角を確かめた。
水平を確かめた。
立ち上がった。
「水平が、わずかに死んでいる」
「どこだ」
「南の角。爪の先ほどだ」
ガッツが確認した。
少し黙った。
「直す」
「今日中に直せるか」
「直せる」
ガッツが班に指示を出した。
手直しが始まった。
ガデルが少し離れて見ていた。
「ガデルさん、爪の先ほどのずれは分かるものですか」
俺が聞いた。
「炉は、ずれが積み重なる。最初の爪の先ほどが、最後に指の厚さ程度になる」
「だから、最初に直す」
「そういうことだ」
ガデルが短く言った。
現場上がりと、同じ考え方だった。
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昼、手直しが終わった。
ガッツが再確認した。
ガデルも確認した。
「問題ない」
ガデルが言った。
「今日中に、耐魔石の一段目を組む」
「炉の外壁からですか」
「外壁から始める。内側は後だ」
「順番がありますか」
「外が決まらないと、内が死ぬ。だから外が先だ」
ガッツが頷いた。
「俺も組む。教えろ」
ガデルが少し目を細めた。
「見ながら覚えろ」
「分かった」
二人が、耐魔石の前に並んだ。
ガデルが石を一つ持った。
ガッツが横で見ていた。
言葉は少なかった。
ガデルが置いた。
ガッツが次の石を持った。
ガデルが頷いた。
それだけで進んだ。
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午後、俺は《可視化》で工房の建設状況を確認した。
耐魔石の色が、普通の石と違った。
黒みがかっていた。
密度が高かった。
光を吸い込んでいた。
ただし、重なり始めると、色が変わった。
一段積まれるごとに、少し温かみが出た。
積み上がっていくにつれ、色が深くなった。
まだ炉ではない。ただ、炉になろうとしていた。
《可視化》を解いた。
ガデルに近づいた。
「耐魔石を積み上げると、色が変わります」
ガデルが手を止めた。
「《可視化》で見えるのか」
「はい。一段ごとに、少し温かみが出ます」
「それが正しい」
「正しい、というのは」
「耐魔石は、重なることで魔力を蓄える。色が変わるのは、蓄積が始まったということだ」
「炉として機能し始めている、ということですか」
「まだだ。形が整ってからだ。ただし、兆候はある」
ガデルが石を置いた。
「そのスキル、役に立つな」
「役に立てています」
「精製が始まったら、また教えろ。色で、状態が分かるかもしれない」
「分かりました」
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夕方、一日の作業が終わった。
炉の外壁、三段まで積み上がっていた。
ガッツが今日の進捗を確認した。
「予定通りだ」
「明日も同じペースで進めますか」
「明日は内壁の組み始めだ。ガデルが時間をかける。遅くなるかもしれない」
「遅くなっても構いません」
「分かってる」
ガデルが工房の骨格を見ていた。
まだ、炉の外壁三段だけだった。
工房と呼べる形ではなかった。
それでも、ガデルの目が違った。
もう、完成した形が見えているのかもしれなかった。
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夜、リアが来た。
「蓄積帯の報告です」
「どうぞ」
「脈動は、昨日より少し落ち着いています」
「耐魔石への反応が、収まってきた」
「そう見ています。慣れたのかもしれません」
「採掘前の再接触確認は、いつ頃が良いですか」
「工房が完成してから、でいいと思います。今は安定しています」
「分かりました」
リアが出ていった。
蓄積帯が落ち着いた。
工房が積み上がっている。
縦穴が広がった。
全部が、同じ方向に動いていた。
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夜、記録をつけた。
工房基礎工事開始。
炉の基礎:水平修正後、確定。
耐魔石外壁:三段完了。
明日:内壁組み始め。
《可視化》確認:耐魔石が積み重なるごとに色が変化・蓄積開始の兆候。
蓄積帯:脈動が昨日より落ち着いた。慣れた可能性あり。
ペンを置いた。
今日、工房が少し立ち上がった。
三段だった。
低かった。
まだ、炉とは呼べなかった。
それでも、昨日よりは高くなっていた。
現場は、そういうものだった。
毎日、少しずつ。
気づいたとき、形になっている。
――積み上げることを、信じる。
それが、現場上がりのやり方だった。
窓の外に月があった。
長影月の月だった。
フォルテス領の夜は、静かだった。
工房予定地では、耐魔石が三段、静かに積み上がっていた。
明日も、高くなる。
第118話 工房を建てる 了
【次回・第119話 予告】
炉が、形になった。
ガデルが、初めて火を入れた。
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【領地収支】
・所持金 :金貨327枚(変動なし)
【発展進捗・第118話時点】
・防衛 :100%(変化なし)
・食料 :95%(変化なし)
・水 :90%(変化なし)
・住居 :75%(変化なし)
・インフラ:85%(工房建設中・炉外壁三段完了)
今日の進捗:工房基礎工事開始。炉の基礎水平修正・確定。耐魔石外壁三段完了。ガデルとガッツが並んで石を組む。《可視化》で耐魔石の色変化を確認(蓄積開始の兆候)。ガデルから「精製が始まったら教えろ」の依頼。蓄積帯の脈動、昨日より落ち着いた。




