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 第117話 耐魔石が来た

 材料が来たとき、現場が動き始める。


 それまでの準備が、全部そこに集まる。


 ――待っていた時間が、一気に動く。

 長影月、第二十七日。


 朝、タウルスが来た。


「届いた」


 それだけだった。


 荷車が二台、正門の外にあった。


 布が被せてあった。


 荷車の車輪が、深く地面に沈んでいた。


──────────────────────────────────────


 ガデルを呼んだ。


 ガデルが荷車に近づいた。


 布を自分で外した。


 石が出てきた。


 黒みがかった石だった。


 普通の石より、重かった。


 光の当たり方が、違った。


 吸い込むような質感だった。


 ガデルが一つ手に取った。


 重さを確かめた。


 表面を指でなぞった。


 少し間を置いた。


「問題ない」


 短く言った。


 それだけだった。


 それで、合格だった。


──────────────────────────────────────


「費用を確認させてください」


 タウルスに聞いた。


「耐魔石、二十四個。一個につき金貨一枚。合計金貨二十四枚だ」


「輸送費は」


「別途、金貨三枚」


「合計、金貨二十七枚ですね」


「そうなる」


 大きな支出だった。


 所持金から引けば、三百二十七枚になる。


 ただし、これは投資だった。


 工房が動けば、魔導銀が生まれる。


 魔導銀を一定量精製できれば、元が取れる計算だった。


「ありがとうございます」


「礼はいい。仕事だ」


 タウルスが短く言った。


──────────────────────────────────────


 午前中に、石の搬入が終わった。


 工房予定地に積んだ。


 施設南側だった。


 縦穴から十メートルほどの場所だった。


 ガッツが積み方を指示した。


 ガデルが横で見ていた。


 何も言わなかった。


 積み方に問題がなかった、ということだった。


「着工は今日からですか」


 ガッツに聞いた。


「明日から。今日は地均しだ」


「人手は足りますか」


「足りる。ただし、炉の組み上げはガデルが直接やる。俺たちは補助だ」


「分かりました」


 ガッツが作業に戻った。


 ガデルが工房予定地を歩いていた。


 地面を踏んでいた。


 場所を確かめていた。


 縦穴の方角を見た。


 施設の方角を見た。


 風の向きを確かめるように、少し立ち止まった。


 全部、頭の中に入れているようだった。


──────────────────────────────────────


 昼、リアが来た。


「蓄積帯の報告です」


「どうぞ」


「今朝の感知で、変化がありました」


 俺は少し止まった。


「どんな変化ですか」


「脈動が、少し速くなっています」


「耐魔石が届いた影響ですか」


「分かりません。ただ、タイミングが一致しています」


「拒絶の動きは」


「ありません。速くなっただけです」


 リアが縦穴の方向を見た。


「気づいているのかもしれません。地上で、何かが動いていることに」


「届くんですね、そういうことが」


「届くのか、感じるのか、分かりません。ただ、変わりました」


 俺は少し考えた。


「ガデルさんに伝えた方がいいですか」


「伝えた方がいいと思います。採掘前に、また接触確認をする必要があるかもしれません」


「分かりました」


──────────────────────────────────────


 午後、ガデルに伝えた。


「蓄積帯の脈動が、今朝から速くなっています」


 ガデルが少し目を細めた。


「耐魔石が来たから、か」


「そう思います」


「気づいているな」


「リアさんもそう言っていました」


 ガデルが縦穴の方向を見た。


「採掘を始める前に、もう一度触れる」


「リアさんの感知と合わせて確認します」


「そうしろ」


 ガデルが工房予定地に戻った。


 地均しが進んでいた。


 ガッツの指示で、建設班が動いていた。


 ガデルがその様子を見た。


 何も言わなかった。


 問題ない、ということだった。


──────────────────────────────────────


 夕方、地均しが終わった。


 ガッツが確認した。


「明日、基礎から始める。炉の位置から先に固める」


「工期の見通しは」


「十日から十五日。炉の組み上げに時間がかかる。それ次第だ」


「ガデルさんの作業ペースによりますね」


「そうなる。急かすな」


 ガッツが短く言った。


「急かしません」


「分かってる。念のため言った」


 ガッツらしかった。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 耐魔石到着。


 耐魔石二十四個・金貨二十四枚。


 輸送費・金貨三枚。


 合計支出・金貨二十七枚。


 所持金:金貨三百二十七枚。


 工房建設着工、明日から。


 炉の位置から基礎工事開始。


 工期十日から十五日。


 蓄積帯の変化。


 今朝から脈動が速くなった。


 耐魔石到着のタイミングと一致。


 拒絶の動きなし。


 採掘開始前に再接触確認を実施予定。


 ペンを置いた。


 材料が来た。


 着工が決まった。


 蓄積帯が、また何かを感じた。


 全部が、繋がっていた。


 地上で動けば、地下が反応する。


 地下が反応すれば、地上が確認する。


 その繰り返しだった。


 ――ずっと。


 ――現場は、常に双方向だ。


 与えるだけでも、受け取るだけでもない。


 それが、フォルテス領の地下との関係だった。


 窓の外に月があった。


 長影月の月だった。


 明日から、工房の基礎が始まる。


 フォルテス領の夜は、静かだった。


 縦穴の底では、蓄積帯が少し速く呼吸していた。


 待っているのか。


 警戒しているのか。


 まだ、分からなかった。



 第117話 耐魔石が来た 了

【次回・第118話 予告】


 工房の基礎が固まり始めた。

 ガデルとガッツが、炉の前に立った。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨327枚(-金貨27枚)

・支出 :耐魔石  金貨24枚

      輸送費  金貨 3枚

 合計        金貨27枚


【発展進捗・第117話時点】


・防衛  :100%(東側石壁完成・北側は工房後)

・食料  :95%(変化なし)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:85%(工房建設開始・基礎工事準備完了)


 今日の進捗:耐魔石到着(二十四個・金貨二十七枚支出)。ガデルが品質確認。工房予定地の地均し完了。明日から基礎工事着工。蓄積帯の脈動が今朝から速くなった(耐魔石到着タイミングと一致・拒絶なし)。採掘開始前に再接触確認を実施予定。

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