↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
259/499

 第116話 石壁が立つ

 待つ間にも、現場は積み上がる。


 返事を待っている間、石が積まれていた。


 ――気づいたとき、景色が変わっている。

 長影月、第二十日。


 耐魔石は、まだ来ていなかった。


 タウルスの見立てでは、早くてあと五日。


 遅ければ十日以上かかる。


 焦っても仕方がなかった。


 その間も、領地は動いていた。


──────────────────────────────────────


 朝、アーヴィンが来た。


「東側石壁、完成した」


 短かった。


 それだけだった。


「見に行きます」


「ああ」


 二人で東側へ向かった。


 石壁が、そこにあった。


 高さ八メートルだった。


 傾斜がついていた。


 射撃孔が、一定間隔で並んでいた。


 正門側からずっと続いていた。


 見上げた。


 空が、少し狭くなった感じがした。


 守られている、という感覚だった。


 《可視化》を入れた。


 石壁の色を見た。


 均一だった。


 ゾルドが組んだ内壁と、同じ色の密度だった。


 隙間がなかった。


 強かった。


 解いた。


「ガッツさんとゾルドさんに伝えておきます」


「ゾルドは縦穴の拡張中だ。後でいい」


「分かりました」


 アーヴィンが壁の上を見た。


「次は北側だ」


「工期の見通しは」


「二ヶ月。東側と同じペースなら」


「耐魔石が来たら工房建設が始まります。建設班が分散します」


「優先順位は」


「工房を優先します。北側石壁はその後でいいです」


 アーヴィンが少し間を置いた。


「工房が先か」


「生産拠点が整えば、石壁の材料も自前で調達できるようになります。長い目で見れば、その方が速い」


 アーヴィンが頷いた。


「分かった」


 それで終わりだった。


──────────────────────────────────────


 昼、ガデルを縦穴の前で見かけた。


 毎日、来ていた。


 覆いの中に入って、縦穴を覗く。


 そして、出てくる。


 それだけだった。


 触れることはしていなかった。


 見るだけだった。


「今日も来ていたんですか」


「ああ」


「何か分かるんですか」


 ガデルが少し考えた。


「変わっていない」


「それは良いことですか」


「安定している、ということだ。悪くない」


 ガデルが縦穴の方を見た。


「耐魔石が来たら、すぐ動けるか」


「工房の設計はガッツさんと確定しています。材料が来れば、翌日から着工できます」


「分かった」


 ガデルが覆いを出た。


 その背中を見た。


 毎日、来ている。


 耐魔石を待っている間も。


 職人だった。


──────────────────────────────────────


 午後、縦穴の拡張状況を確認した。


 ゾルドが縦穴の中にいた。


 声をかけた。


「進捗はどうですか」


 ゾルドが上を向いた。


「明日、終わる」


「直径は」


「一・五メートルになる。内壁も組み直す」


「お疲れ様です」


 ゾルドが短く頷いた。


 また下を向いた。


 作業に戻った。


 《可視化》で縦穴の内部を確認した。


 壁面が、少し広くなっていた。


 ゾルドの仕事は、丁寧だった。


 一石ずつ、確かめながら積んでいた。


 急いでいなかった。


──────────────────────────────────────


 夕方、《可視化》の練習をした。


 今日は、領地の全体を、順番に確認した。


 東側石壁。完成していた。色が均一だった。


 北側。土塁のままだった。石壁化はこれからだった。


 農地。二期作の苗が育っていた。昨日より、少し大きかった。


 下水網。クリアが巡回していた。スラッジが底にいた。


 施設。地脈が安定していた。


 縦穴。ゾルドが作業を続けていた。


 蓄積帯。呼吸していた。変わらなかった。


 全部を確認した。


 時間は、五分ほどだった。


 以前なら、こうはいかなかった。


 第六段階になってから、確認の速さが変わった。


 一箇所ずつ、絞って確認する。


 それが、今のやり方だった。


 解いた。


 頭に圧力は来なかった。


──────────────────────────────────────


 夜、ガッツが来た。


「タウルスから連絡が来た」


「耐魔石ですか」


「ああ。あと七日で届く」


「予定通りですね」


「品質も問題ない。ガデルが指定した石種だ」


「ガデルさんに伝えましたか」


「これから伝える」


 ガッツが出ていった。


 七日後に、耐魔石が届く。


 それから、工房建設が始まる。


 順番が、見えてきた。


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 東側石壁、完成。


 次は北側。工房建設を優先するため、着工は後回し。


 縦穴拡張、明日完成予定。直径一・五メートル。


 耐魔石、七日後に到着予定。品質確認済み。


 蓄積帯、変化なし・安定継続。


 ペンを置いた。


 今日、石壁が完成した。


 見上げたとき、空が狭くなった感じがした。


 それは、守られているということだった。


 最初にフォルテス領に来たとき、何もなかった。


 今は、石壁が立っている。


 八メートルの石壁が、東側に続いていた。


 変わった。


 フォルテス領は、確かに前に進んでいた。


 ただ、変わったことに、慣れていく。


 慣れていくと、見えなくなる。


 ――だから、記録をつける。


 変わったことを、忘れないために。


 窓の外に月があった。


 長影月の月だった。


 フォルテス領の夜は、静かだった。


 東側には、石壁が立っていた。


 七日後には、耐魔石が来る。


 一つ一つ、積み上がっていた。



 第116話 石壁が立つ 了

【次回・第117話 予告】


 長影月、第二十七日。

 耐魔石が届いた。

 ガデルが荷を開けた。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨354枚(変動なし)


【発展進捗・第116話時点】


・防衛  :100%(東側石壁化・完成)

・食料  :95%(二期作の苗、成長中)

・水   :90%(変化なし)

・住居  :75%(変化なし)

・インフラ:85%(縦穴拡張・明日完成予定/耐魔石・七日後到着予定)


 今日の進捗:東側石壁完成(高さ八メートル)。次の北側石壁は工房建設後に着手方針。縦穴拡張、明日完成予定(直径一・五メートル)。耐魔石、七日後到着予定・品質確認済み。《可視化》で領地全体を五分で確認(第六段階の定着)。蓄積帯、安定継続。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。