第58話 魔導銀の話
高価なものには、理由がある。
希少だから高い。
加工が難しいから高い。
輸送が危険だから高い。
――それを理解してから、買うかどうかを決める。
河床石の採掘が始まって、三日が経った。
ゾルドと弟子一人が、川の上流で作業していた。
初日は、探索だった。
二日目は、使える石の選定だった。
三日目から、実際の採掘が始まった。
ゾルドが最初の石を運んできた。
ガッツが手に取った。
しばらく見た。
「……悪くない」
「ランデルの石と比べてどうですか」
「密度が少し低い。
ただし、基礎より上の部分なら十分使える」
「どのくらいの量が必要ですか」
「月に荷馬車三台分あれば、補填できる」
「ゾルドさんに確認します」
ゾルドが来た。
「今のペースで、月三台分は出せます。
ただし、二人では限界に近いです」
「もう一人、追加できますか」
「カインさんが手伝えると言っていました」
カインが建設現場に入る。
適性の判断は、後でアーヴィンに確認する。
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昼前、コリンが来た。
いつもより、少し顔が固かった。
「内部結界の材料について、話があります」
「どうぞ」
「魔導銀が必要です」
「分かっています。どのくらい必要ですか」
「最低でも、金貨二十五枚分です。
理想は、金貨三十枚分あると安心です」
俺は少し止まった。
金貨二十五枚から三十枚。
今の収支では払えない金額ではない。
ただし、大きな出費だ。
「調達の目処はありますか」
「ここが問題です」
コリンが少し間を置いた。
「魔導銀は、一般流通がほぼありません。
ランデルの商会では、扱っていませんでした」
「どこで手に入りますか」
「王都か、アーゼルタウンの大商会か。
あるいは、錬金術師から直接購入するか」
「アーゼルタウンに、大商会がありますか」
「一軒あります。
ただし、値段が高いと聞いています。
相場より二割から三割増しになることがあります」
「なぜですか」
「辺境への輸送コストと、希少性のためです。
魔導銀は、需要に対して供給が少ない」
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リアが来た。
コリンの話を聞いていたようだった。
「師匠の記録に、魔導銀の代替素材についての記述があります」
コリンがリアを見た。
「代替素材、ですか」
「完全な代替ではありません。
ただし、内部結界の精度を少し落とせば、
使える素材があります」
「何ですか」
「精錬した銀に、中型魔石の魔力を浸透させたものです。
魔導銀の六割から七割の性能が出ます」
「コリンさん、それで内部結界は機能しますか」
コリンは少し考えた。
「機能します。
ただし、外部からの強い干渉には弱くなります。
通常の状態では、問題ありません」
「今の脅威に対して、通常の状態は保てますか」
「セルヴァンの干渉装置レベルなら、持ちます。
ただし、もっと強い干渉が来た場合は、保証できません」
「コスト差はどのくらいですか」
「代替素材なら、金貨十枚前後で済みます。
本来の魔導銀との差は、金貨十五から二十枚です」
俺は少し考えた。
「二段階で考えましょう。
今は代替素材で内部結界を作る。
魔導銀が手に入ったら、後から強化する」
コリンがうなずいた。
「それが、合理的です」
「リアさん、代替素材の調達はどうすればいいですか」
「精錬した銀は、ランデルで手に入ります。
中型魔石は、今も在庫があります。
浸透の工程は、私とコリンさんでできます」
「どのくらいかかりますか」
「一週間あれば、必要量を作れます」
俺は少し考えた。
「将来的には、魔導銀そのものも必要になりますよね」
コリンがうなずいた。
「内部結界を強化するなら、最終的には必要になります」
「……なら、ゴルフさんに一度当たってみます」
リアが少し反応した。
「アーゼルタウンの商人ですか」
「はい。昔、商隊護衛で世話になりました。
アーゼルの流通に強い人です」
コリンが少し考えた。
「確かに、あの人なら大商会との繋がりがあるかもしれません」
「ただし、今すぐは動きません。
まずは代替素材で内部結界を動かします」
「それが安全です」
コリンが短くうなずいた。
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午後、ミルヴァが来た。
「魔導銀の話、聞いた」
「何か情報がありますか」
「ゴルフの名前が出たから、アーゼル側も調べた」
「分かったことがありますか」
「その商会、セレスティア伯爵領と取引がある。
伯爵領御用達の商会だ」
「それは、信頼できるということですか」
「信頼できる、と同時に、情報が伯爵領に流れる可能性がある」
俺は少し考えた。
「セレスティア伯爵は、こちらに対して中立ですか」
「今のところは。
ただし、フォルテス領が大量の魔導銀を買ったという情報が伯爵に届けば、
何かしら反応する可能性がある」
「良い反応ですか、悪い反応ですか」
「分からない。ただし、無視はしないと思う」
俺は整理した。
魔導銀を買う。
その情報がセレスティア伯爵に届く可能性がある。
伯爵が動く。
それが良い方向に働くか、悪い方向に働くか。
「今は、代替素材で進めます。
魔導銀の調達は、もう少し状況を見てから判断します」
「賢明だ」
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夕方、エルドが俺を呼んだ。
「少し話があります」
「どうぞ」
「私たちは、いつまでここにいていいですか」
俺は少し止まった。
「急いで出る必要はありません。
ただし、何か予定がありますか」
「仲間に連絡を入れる必要があります。
南方に戻るか、もう少し留まるか」
「エルドさんはどうしたいですか」
エルドは少し間を置いた。
「正直に言います。
ここに来て、南方に足りないものが分かりました。
情報だけ持って帰っても、使い切れない気がしています」
「何が足りないと思いますか」
「段取りです。
南方には、力はある。
ただし、動きをまとめる形がない」
俺は少し考えた。
「もう少し留まって、何か持って帰りたいということですか」
「……そういうことです」
「分かりました。急かしません。
ただし、一つだけ確認させてください」
「何ですか」
「南方の仲間に、ここのことを話しますか」
エルドは少し考えた。
「話します。ただし、場所は明かしません」
「それで構いません」
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夜、バルドが来た。
「一つ報告がある」
「どうぞ」
「東区画の農地の整備が、ほぼ終わった。
来月から、播種が始められる」
「東区画も動き始めるんですね」
「ああ。ただし、人手が少し足りない」
「農業班に追加が必要ですか」
「エルナが、村人から二名追加したいと言っている」
「お願いしてください。
日当は通常通りで構いません」
バルドがうなずいた。
「もう一つある」
「何ですか」
「ルーカスという名前の人間から、使者が来た。
明日、会いたいということだ」
俺は少し止まった。
ルーカス。
ヴェラの弟子。
手紙を出してから、随分時間が経っていた。
「場所と時間は」
「領地の入口で、昼前に。
一人で来るということだ」
「分かりました。明日、対応します」
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眠る前に、俺は今日を整理した。
河床石の採掘が軌道に乗り始めた。
内部結界の材料を代替素材で進めることにした。
魔導銀の調達は様子を見ることにした。
エルドが留まる意思を示した。
東区画の農地整備がほぼ完了した。
ルーカスが使者を送ってきた。
明日、ルーカスと会う。
南東の装置を先に壊した者。
師匠の記録を持っている可能性がある者。
どんな人間か。
《可視化》で、確認する。
――現場は、また動き始めた。
第58話 魔導銀の話 了
【次回予告】
ルーカスが来た。
リアが、その人物を見た瞬間に、止まった。
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【領地収支】
・所持金 :金貨386枚(+11)
・収入 :冒険者固定給 金貨30枚/勲爵士給与 金貨12枚
・支出 :石材調達費 金貨10枚(月五台)/建設班月給 金貨5枚/ゾルド月給 銀貨5枚/村人月給 概算金貨5枚/精錬銀調達費(代替素材) 金貨10枚
【発展進捗】
・防衛 :100%(変化なし)
・食料 :88%(東区画農地整備ほぼ完了・来月播種開始)
・水 :83%(変化なし)
・住居 :45%(基礎工事継続中)
・インフラ:57%(河床石採掘軌道化・代替魔導銀素材の調達・作製開始)
今日の進捗:河床石採掘が月三台分のペースで軌道に乗る。カインの建設班参加を検討。コリンが内部結界に魔導銀が必要と報告・金貨二十五〜三十枚。リアが代替素材案を提示・金貨十枚前後で対応可能・まず代替で進め後から強化する方針を決定。ミルヴァがアーゼルタウン大商会のセレスティア伯爵との繋がりを確認・情報漏洩リスクを考慮し魔導銀調達は保留。エルドが南方への情報提供と留まる意思を示す。東区画農地整備完了・来月播種開始。ルーカスから使者が届く・明日会談。




