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 第57話 ランデルからの知らせ

 情報には、速度がある。


 早く来る情報は、まだ対処できる。


 遅く来る情報は、すでに手遅れのことがある。


 ――だから、情報を待つのではなく、取りに行く。

 基礎工事が三日目に入った朝、ミルヴァが来た。


 顔が、いつもと少し違った。


「ランデルから、知らせが来た」


「何ですか」


「石材の増量を断られた」


 俺は少し止まった。


「断られた、ですか。理由は」


「採石場の生産量が、急に落ちているそうだ。

 現状の月五台が限界だと」


「急に落ちた理由は」


「採石場が言うには、岩盤の質が変わったと。

 いつも使っていた層が使えなくなったらしい」


 俺は少し考えた。


 岩盤の質が変わった。


 急に。


「ミルヴァさんは、どう見ますか」


「天然の変化かもしれない。

 ただし、タイミングが気になる」


「どういうタイミングですか」


「セルヴァンが北に向かった後だ。

 ランデルはヴァルクの影響圏にある」


──────────────────────────────────────


 ガッツを呼んだ。


「石材の増量が難しくなりました。

 月五台のままになりそうです」


 ガッツは少し間を置いた。


「……工期に影響が出る」


「どのくらいですか」


「領主館と兵舎の上物に入ったとき、

 石材が足りなくなる可能性がある。

 二週間から一ヶ月、着工が後ろにずれる」


「代替の調達先はありますか」


 ガッツが少し考えた。


「ランデル以外で、石材を安定して出せる場所は少ない。

 ただし、一つだけある」


「どこですか」


「アーゼルタウンの北側に、小さな採石場がある。

 量は少ないが、質は悪くない。

 ただし、輸送距離が長くなる」


「コストはどのくらい増えますか」


「ランデルの倍近くなる。

 月金貨二十枚前後だ」


 ランデルの月金貨十二枚に対して、倍近い。


「他に方法はありますか」


「河床石を使う手がある。

 領地の東を流れる川の上流に、使えそうな石がある。

 ただし、自分たちで採掘する必要がある」


「それは、現実的ですか」


「ゾルドと弟子一人を出せば、採掘はできる。

 ただし、建設班の人手が減る分、工期が延びる」


──────────────────────────────────────


 アーヴィンに話した。


「石材の供給が制限される可能性があります。

 工期への影響が出るかもしれません」


 アーヴィンは少し間を置いた。


「ヴァルクの手か」


「確証はありません。ただし、可能性はあります」


「対処は」


「方法は三つあります」


「一つは、アーゼルタウンから買う。

 ただし高い」


「二つ目は、自前で掘る。

 工期は少し落ちます」


「三つ目は、今の五台で回して、

 工期を伸ばす」


「どれが最善だ」


「河床石の採掘を先行させながら、

 アーゼルタウンの採石場と交渉を並行する。

 今の月五台でできる部分を先に進める。

 三つを組み合わせるのが現場の答えだと思います」


 アーヴィンが少し考えた。


「ヴァルクへの対応は」


「今は動きません。

 向こうが動いてきた、という証拠がありません。

 ただし、ミルヴァさんにランデルの情報収集を続けてもらいます」


「分かった」


──────────────────────────────────────


 ゼドが俺を呼んだ。


 タウルスが隣にいた。


「昨夜、記録の照合が終わりました。

 一つ、重要なことが分かりました」


「何ですか」


「フォルテス領の地脈と、南方の地脈乱流の間に、

 繋がりがある可能性があります」


 俺は少し止まった。


「繋がり、というのは」


「地脈は、地下で広域に繋がっています。

 南方の装置が地脈に与えた乱れが、

 地下を通じてここまで届いている可能性があります」


「それは、以前サヤさんが言っていた話ですね」


「はい。ただし、タウルスさんの記録と照合したことで、

 もう少し具体的になりました」


 タウルスが口を開いた。


「南方の装置が地脈を操作すると、

 その影響が上流の地脈まで伝わります。

 ランデルの採石場の岩盤が変化したのも、

 地脈の乱れによる地盤変動の可能性があります」


 俺は整理した。


 南方の地脈乱流が、ランデルの採石場まで影響している。


 石材の供給制限は、自然現象かもしれない。


 ヴァルクの手ではなく。


「ただし」


 タウルスが続けた。


「ヴァルクがその状況を利用している可能性もあります。

 天然の変化であっても、都合よく使える者は使う」


 どちらであっても、現場の対処は変わらない。


 石材が減ったなら、別の手を考える。


 それだけだ。


──────────────────────────────────────


 午後、エルドが来た。


「タウルス翁から聞きました。

 地脈の乱れが、ここまで届いているかもしれないと」


「はい。確証はまだありませんが」


「南方では、もっと直接的な影響が出ています。

 岩盤の変動だけではありません。

 川の流れが変わった場所があります。

 地下水が枯れた村があります」


 俺は少し止まった。


「それは、いつ頃から起きていますか」


「三年前から、急速に増えています。

 五年前の地脈乱れ開始から、少し遅れて出てきました」


「地脈の乱れが、地表に出てくるまで、時間差がある」


「そうです。

 今ここで起きている変化は、

 三年前に南方で起きたことの影響かもしれません」


 俺は考えた。


 南方の乱れが、三年かけてここまで届いた。


 では、今の南方の乱れは、三年後にここまで届く。


 今の対処が、三年後の現場を決める。


──────────────────────────────────────


 夕方、ミルヴァが追加の情報を持ってきた。


「ランデルの採石場の件、もう少し調べた」


「分かったことがありますか」


「採石場の責任者が、最近変わっている。

 三ヶ月前に、前の責任者が急に辞めて、

 新しい責任者が来た」


「新しい責任者は、誰が連れてきましたか」


「ベルン商会経由だ」


 俺は少し止まった。


「確定しましたね」


「ああ。天然の変化に、乗っかっている。

 あるいは、変化を利用して生産量を落とした」


「どちらでも、結果は同じです」


「ヒコ、どう動く」


 俺は少し考えた。


「今は動きません。

 ただし、二つ手を打ちます」


「何だ」


「一つは、河床石の採掘を始めます。

 もう一つは、ハンスへの情報提供ルートを使って、

 こちらが石材不足を解決したという情報を流します」


「向こうに、効いていないと知らせる」


「効いている素振りを見せると、次の手が来ます。

 効いていないと思わせれば、別の手を探す時間が生まれます」


 ミルヴァが少し間を置いた。


「……なるほど。やってみる」


──────────────────────────────────────


 夜、ゾルドを呼んだ。


「明日から、東の川の上流で河床石の採掘を始めてほしいです。

 ガッツさんに場所を確認してから、動いてください」


「分かりました。弟子と一緒に行きます」


「無理はしないでください。

 採掘量より、安全を優先します」


「分かりました」


 ゾルドが短くうなずいた。


 二ヶ月前まで農地にいた男が、今は採掘の段取りをしている。


 現場は、人を作る。


──────────────────────────────────────


 眠る前に、俺は今日を整理した。


 石材の増量が断られた。

 採石場の責任者がベルン商会経由で変わっていた。

 南方の地脈乱れがランデルの地盤に影響している可能性がある。

 河床石の採掘を始める。

 向こうに効いていないという情報を流す。


 一つ問題が来たとき、現場は二つの手を打つ。


 問題に対応しながら、次の手を考える。


 それが、現場の動き方だ。


 ――止まった瞬間に、相手の時間になる。


 動いている限り、現場はこちらのものだ。



 第57話 ランデルからの知らせ 了

【次回予告】


 河床石の採掘が始まった。

 コリンが、内部結界の材料について話があると来た。

 魔導銀の調達が、簡単ではなかった。


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨373枚(−10)

・収入  :なし

・支出  :石材調達費 金貨10枚(月六台分を発注済みだったが五台に戻る・差額調整)


【発展進捗】


・防衛  :100%(変化なし)

・食料  :85%(変化なし)

・水   :83%(変化なし)

・住居  :45%(基礎工事継続中)

・インフラ:55%(河床石採掘開始・石材代替調達ルート検討中)


 今日の進捗:ランデルの採石場から石材増量を断られる。採石場責任者がベルン商会経由で三ヶ月前に交代していたことが判明。南方地脈乱れによる地盤変動の可能性をゼド・タウルスが指摘。ヴァルクが状況を利用している可能性も。河床石採掘をゾルドに指示。ハンスルートで「問題を解決した」という情報を流す情報戦を開始。

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