表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/206

 第39話 待ち伏せ

 待つことは、動くことだ。

 ただ立っているだけではない。

 来る場所を決める。

 来る時間を読む。

 逃げ道を塞ぐ。

 それが、現場の待ち方だ。


 ――来る場所で待てば、現場の主導権はこちらにある。

 待ち伏せの場所は、ミルヴァとサヤが選んだ。


 二つ目の装置があった場所から、北に五十メートルほど離れた位置だった。


 低い岩が並んでいる場所で、人が隠れやすかった。


 装置の確認に来るなら、必ずこの付近を通る。


 それが、二人の判断だった。


「装置を確認しに来るとすれば、いつ頃ですか」


「三日から五日の間に来ると思います」


 サヤが答えた。


「装置の状態が変わったことに気づいていれば、早く来る。

 気づいていなければ、通常の確認周期で来ます」


「二つの装置が無力化されたことに、気づいているはずですよね」


「そうなれば、すぐ来るはずです」


「では、今夜から始めます」


──────────────────────────────────────


 待ち伏せの体制を組んだ。


 ミルヴァが現地に常駐する。

 アーヴィンが夜間の交代要員として待機する。

 サヤが施設の方向を感知し続ける。

 何かあれば、俺に知らせが来る。


「村の警戒は」


「マユミさんとリクを中心に。

 コリンさんの結界が補助します」


「分かった」


 マユミが俺のところに来た。


「私は、行かなくていいのか」


「村に残ってほしいです。

 外で何かあったとき、村を守れる人間が必要です」


「アーヴィンが外に出るのに、私だけ残るのか」


「アーヴィンさんは夜間の一時間だけです。

 交代でミルヴァさんが戻ります。

 マユミさんには、村全体を見てもらいたい」


 マユミは少し間を置いた。


「……分かった。ただし、何かあればすぐ呼べ」


「呼びます」


──────────────────────────────────────


 一日目の夜。


 何もなかった。


 静かすぎた。


 二日目の夜。


 何もなかった。


 変わらないことが、不気味だった。


 ミルヴァが朝に戻ってきた。


「気配はある。ただし、近づいてこない」


「様子を見ている」


「そう思う。こちらが装置を発見したことは、確実に知っている。

 警戒しているはずだ」


「急がなくていいです」


「分かっている」


──────────────────────────────────────


 三日目の昼間、ガッツと設計の確認をした。


 正門側の石壁化の図面を広げた。


 土塁の内側に、石壁を立てる設計だ。


「土塁を残したまま、内側に石壁を作ります。

 土塁が足場と型枠を兼ねます」


「土塁を壊さなくていいのか」


「壊せば、その間、防衛が弱くなります。

 土塁を残しながら、外側に石壁を立てる方が安全です」


「土塁の上に石壁を乗せる形か」


「土塁の外縁に基礎を作って、そこから立てます。

 土塁と石壁の間は、後で土で埋めます。

 完成すれば、土塁が芯になった石壁になります」


 ガッツは図面を見た。


「……これは、面白い設計だ」


「現場から出た発想です」


「土塁を壊さずに石壁化する手法は、普通は考えない。

 壊す方が手間がないから、みんなそっちを選ぶ」


「壊している間に、何かが来るかもしれない。

 それが嫌でした」


「現場で守りながら、建設する」


「そうです」


 ガッツは鉛筆を手に取った。


「いくつか修正がある。一緒に確認しろ」


「はい」


──────────────────────────────────────


 三日目の夜だった。


 俺は施設の入口の近くで待っていた。


 《可視化》を広げていた。


 北東の森の方向を見ていた。


 何もなかった。


 風が、木の葉を揺らした。


 施設の入口から、ヴェルグの気配が伝わってきた。


 安定していた。


 コリンが隣で結界を維持していた。


 静かだった。


 俺は少し眠くなってきた。


 現場の夜の待ちは、眠気との戦いでもある。


──────────────────────────────────────


 四日目の夜だった。


 夜半を過ぎた頃だった。


 サヤが俺のところに来た。


「感知しました」


「何を」


「魔力の流れが、北東の方向から動いています。

 二人分です」


 俺は《可視化》を北東に向けた。


 遠い。


 ただし、色が見えた。


 二つ。


 動いている。


 こちらに向かっていた。


「ミルヴァさんに知らせます」


──────────────────────────────────────


 少しして、ミルヴァが戻ってきた。


「来た。ただし、一人じゃない」


「二人ですか」


「そうだ。一人は、魔力を持っている。

 もう一人は、護衛だと思う。

 武器を持って、前を歩いていた」


「装置の製作者と、護衛」


「そう見た。

 今は、最初の装置があった場所に向かっている。

 装置が無力化されていることを確認してから、次に動く」


「次に動くとすれば、新しい装置を置くか、逃げるか」


「その前に、抑えたい」


 アーヴィンが立った。


「行く」


「待ってください。場所を確認してからです。

 サヤさん、二人の位置が分かりますか」


「分かります。最初の装置の場所にいます。

 止まっています」


「確認している」


「はい。少し、動揺している気配があります」


「装置が消えていることを知った。

 予想外だった」


──────────────────────────────────────


 方針を決めた。


「ミルヴァさんとアーヴィンさんが、包囲します。

 逃げ道を塞いでから、話しかけます」


「話しかける?」


 アーヴィンが言った。


「まず、話を聞きます。

 相手が誰で、何を目的としているか。

 戦闘は、最後の手段です」


「向こうが武器を向けたら」


「そのときは、アーヴィンさんに任せます」


「分かった」


 ミルヴァが短く頷いた。


「俺とサヤさんは、後方から支援します。

 リアさんは施設の前で待機。

 コリンさんは結界を維持してください」


「了解です」


──────────────────────────────────────


 北東の森に入った。


 暗かった。


 月明かりだけだった。


 サヤが方向を示した。


 ミルヴァが音もなく先行した。


 アーヴィンが右側から回った。


 俺はサヤと中央を進んだ。


 《可視化》で二つの色を追った。


 まだ、止まっていた。


 動揺している色が、続いていた。


 五十メートル。

 足音が消えた。


 三十メートル。

 呼吸を抑えた。


 十メートル。

 相手の気配が、はっきりした。


 ミルヴァが左側から出た。


 アーヴィンが右側から出た。


 二人の前に、二つの人影があった。


──────────────────────────────────────


 一人は、四十代の男だった。


 細身。

 外套を羽織っていた。

 手に、小さな石を持っていた。

 指先だけが、異様に汚れていた。


 もう一人は、三十代の男だった。


 がっしりした体格。

 剣を腰に差していた。


 二人がこちらを見た。


 護衛の男が剣に手をかけた。


 アーヴィンが一歩前に出た。


 剣は抜かなかった。


 ただ、立った。


 それだけで、護衛の男が止まった。


 俺が前に出た。


「夜分に失礼します。

 少し、話を聞かせてもらえますか」


 細身の男が、俺を見た。


 《可視化》で色を見た。


 驚きと、警戒と、何か別のものが混ざっていた。


 敵意だけではなかった。


 迷っている色だ。


──────────────────────────────────────


「あなたが、装置を作った人ですか」


 細身の男は答えなかった。


「石の干渉装置です。二つ、無力化しました。

 三つ目は、あなたが撤去した」


 男は少し間を置いた。


「……なぜ、無力化できた」


「管理者がいるからです」


「管理者が、いる」


「十年間、この地の施設を守ってきた人がいます」


 男はサヤを見た。


 サヤと目が合った。


 男の色が、大きく動いた。


 驚きではなかった。


 安堵に近い色だった。


「……まだ、いたのですか」


 サヤが、静かに答えた。


「いました」


──────────────────────────────────────


 男が、剣を持った護衛に目配せした。


 護衛が、剣から手を離した。


「話を、聞いてもらえますか」


 男が俺に言った。


「聞きます」


 男は、一度だけ目を伏せた。


「私は、ゼドといいます。

 施設の記録を持つ一族の末裔です」


「一族、とは」


「三百年前、この施設を作った者たちの子孫です。

 記録を守り、施設の状態を観察し続けてきました」


 俺は少し止まった。


「施設を作った側の人間が、干渉装置を置いたんですか」


「違います」


 ゼドは少し間を置いた。


「干渉装置を置いたのは、私ではありません。

 私は、干渉装置を探しに来ていました」


──────────────────────────────────────


 全員が静かになった。


「干渉装置を、探していた」


「はい。一ヶ月前から、施設の核に異常を感知していました。

 外部からの干渉です。

 発生源を探して、除去しようとしていました」


「あなたが除去しようとしていた」


「はい。ただし、最初の一つを発見したとき、すでに無力化されていた。

 誰かが先に動いていた。

 三つ目は、私が撤去しました。

 位置からして、管理者を弾く装置だと分かったので」


「管理者を守るために、撤去した」


「そうです」


 俺はゼドを見た。


 《可視化》の色は、変わっていなかった。


 嘘をついている色ではなかった。


「では、あなたは敵ではない」


「敵ではありません。

 ただし、信じてもらえる根拠が、今すぐはないです」


「一つ、聞かせてください」


「何ですか」


「四十年前に、この地に来た調査者がいました。

 あなたの一族ですか」


 ゼドは少し間を置いた。


「……私の父です」


──────────────────────────────────────


 森の中で、立ったまま話した。


 ゼドが続けた。


「父は、四十年前にこの地を調査しました。

 施設の状態を確認するために来ました。

 ただし、調査の途中で、何かに気づいた」


「何に」


「施設の情報を、外部の組織が探っていました。

 父が気づいたことで、その組織に追われた。

 急いでこの地を離れた。

 それが、地脈の乱れを引き起こした一因です」


「追われた状態で去れば、施設の安定化ができなかった」


「はい。父は、生涯悔いていました。

 私は、父の悔いを引き継いで、施設の監視を続けてきました」


「その組織が、今の干渉装置を置いた」


「そう思っています。

 ただし、直接の証拠は、まだありません」


──────────────────────────────────────


 俺はゼドを見た。


「今夜は、村に来てもらえますか。

 話の続きを、全員で聞きたいです」


「……村に、入っていいんですか」


「来てください。

 ただし、護衛の方の武器は、預かりますか」


 ゼドが護衛を見た。


 護衛が頷いた。


 剣をアーヴィンに渡した。


 アーヴィンが受け取った。


 それだけで、場が動いた。


──────────────────────────────────────


 一行で村に戻った。


 全員が広場に集まった。


 ゼドが全員の前に立った。


 俺は《可視化》で全員の色を見た。


 バルドが、腕を組んで見ていた。


 リアが、石の文字の写しを持っていた。


 コリンが、少し緊張していた。


 サヤが、落ち着いていた。


 ゼドの色は、複雑だった。


 ただし、安定していた。


 ここに来ることを、決めた色だった。


 ――また、一人、来た。


 自分で来た人間を、追い返す理由はない。


 話を聞く。


 それが、現場のやり方だ。



 第39話 待ち伏せ 了

【次回】


 ゼドが、一族の記録を広げた。

 その中に、師匠の名前があった。

 リアが、静かに言った。

 「師匠を、知っていますか」


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨244枚(変化なし)

・収入  :なし

・支出  :なし


【発展進捗】


・防衛  :98%(変化なし)

・食料  :66%(農地順調・収穫が近い)

・水   :83%(変化なし)

・住居  :40%(変化なし)

・インフラ:35%(石壁化設計の修正確認・来月から石材搬入開始)


 今日の進捗:四日目の夜、ゼドと護衛が装置の確認に来たところを待ち伏せ。ゼドは施設の設計者一族の末裔で、干渉装置を除去しようとしていたことが判明。三つ目の石を撤去したのもゼドだった。四十年前の調査者はゼドの父親と確認。ゼドを村に招き入れ、全員での話し合いへ。ガッツと石壁化設計の修正を確認。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ