第38話 もう一つ
一つ見つかったとき、もう一つを疑う。
現場では、問題は一人で来ない。
セットで来る。
だから、一つ片付けた後が、一番油断しやすい。
――片付いた後こそ、もう一度確認する。
核が安定を取り戻したのは、翌日の昼前だった。
コリンが施設の前から俺のところに来た。
「核の揺らぎが、ほぼ消えました。
色が、干渉前の状態に近づいています」
「完全に戻りましたか」
「九割以上は戻っています。
残りの一割は、もう少し時間がかかります」
「ヴェルグは」
「落ち着いています。昨夜より、青い光が安定しています」
「よかった」
サヤが隣で聞いていた。
「ありがとうございます、コリンさん」
「お互い様です」
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その日の夕方、ミルヴァが北東の森の広域調査から戻ってきた。
馬から降りて、まっすぐ俺のところに来た。
「もう一つ、あった」
「やはり」
「最初の石から、北に二百メートルほど離れた場所だ。
同じ黒い石。同じ大きさ。地面に半分埋まっていた」
「干渉は続いていますか」
「続いていると思う。まだ触っていない。
サヤさんと一緒でなければ、危険だと判断した」
「正しい判断です。ありがとうございます」
「それだけではない」
ミルヴァは少し間を置いた。
「三つ目の痕跡がある」
ミルヴァはそこで一度、周囲を見た。
「……誰かに、見られていた可能性がある」
空気が、一瞬止まった。
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「三つ目、とは」
「石は見つからなかった。
ただし、地面に、石を置いた痕跡がある。
落ち葉のずれ方と、土の踏み跡が、最初の石と同じパターンだ」
「誰かが、三つ置いた。ただし、一つは撤去された」
「そうなる。撤去したのは最近だ。
踏み跡が、まだ新しかった」
「こちらが最初の石を発見したことに、気づいた可能性がある」
「あるいは、最初から予定していた撤去だった」
俺は少し考えた。
「向こうは、こちらの動きを見ている」
「可能性が高い。森の中で、誰かが観察していた」
「ハンスが情報を送った後から、向こうの動きが変わっていないか」
「確認する」
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全員を集めた。
「北東の森に、干渉装置がもう一つありました。
さらに、撤去された痕跡が一箇所。
向こうは三つ置いていた可能性があります」
「三角形の配置か」
アーヴィンが言った。
「三点で施設を囲む形にして、干渉の効果を高めようとしていた可能性があります。
一つを我々が無力化したことで、配置が崩れた。
だから一つを撤去した」
「残りの一つは」
「明日、サヤさんと一緒に無力化します」
「今日ではないのか」
「今日は、サヤさんが昨日の作業で消耗しています。
無理をさせると、質が落ちます。一日置きます」
アーヴィンは少し間を置いた。
「……分かった」
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ハンスを呼んだ。
ミルヴァも同席した。
「最近、ベルン商会から動きはありますか」
「目印の確認は、変わっていないです。
ただし、一つ、気になることがあります」
「何ですか」
「前回の返答を送ってから、連絡が来ていないです。
通常なら、五日から一週間で次の指示が来ます。
もう八日が経ちます」
ミルヴァが少し眉を動かした。
「向こうが、待っている」
「何かを確認してから、次の手を出そうとしているかもしれないです。
あるいは、送った情報を受けて、方針を変えている」
「施設の情報が、想定外だった可能性がある」
「はい。管理者なしでは扱いにくいという内容は、向こうの計画を複雑にしたはずです」
俺は少し考えた。
「森の中の観察者も、その確認作業の一部だったかもしれない。
送った情報と、実際の現地が一致するか、直接見ようとした」
「そうなれば、こちらが装置を発見したことも、知られた可能性がある」
「はい」
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リアが俺のところに来た。
「ルーカスへの手紙、書きました」
「見せてもらえますか」
受け取った。
読んだ。
師匠ヴェラの教え子同士として、近況を伝える形式だった。
古い本に、特定の文字の記録がないか確認してほしいという依頼が、さりげなく入っていた。
危険な内容は、一切書かれていなかった。
「上手く書きましたね」
「師匠から、文章で人を動かす方法を教わりました」
「この手紙を読んで、ルーカスさんは意図を理解しますか」
「理解します。師匠の教え方は、行間を読ませるものでした。
ルーカスなら、分かります」
「送りましょう。ミルヴァさんに頼んで、信頼できる商人経由で届けてもらいます」
「……師匠が繋いでくれた縁が、役に立てばいいです」
リアの声は、静かだった。
感情を抑えていたが、隠していなかった。
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翌朝、サヤと二人で北東の森に入った。
今日はアーヴィンとマユミは村の警戒に残した。
ミルヴァが先行して、石の場所まで案内した。
最初の石より、少し深い場所にあった。
木が密になっていた。
見つけにくい場所だった。
「これが二つ目です」
地面の落ち葉を払った。
黒い石が出てきた。
最初のものと、ほぼ同じ形だった。
ただし、文字の配置が少し違った。
「別の役割ですか」
サヤが石を見た。
「施設の言語の部分を読むと、最初の石とは違います。
最初の石は『継続的な圧を加えよ』でした。
この石は……」
サヤが少し止まった。
「『守護者の認識を乱せ』と書いてあります」
「ヴェルグを、混乱させる装置だ」
「守護者が正常に機能しなくなれば、核への接近が容易になります」
「二つが同時に機能していれば、核を奪いやすい状況を作れた」
「そうなります」
俺は少し止まった。
「三つ目は、撤去された。
三つ目は何の役割でしたか。分かりますか」
「踏み跡の位置から、施設の入口に最も近い場所に置かれていたと思います。
おそらく……」
サヤは少し間を置いた。
「入口を封鎖する、あるいは管理者を弾く装置だったかもしれません」
「管理者を、施設から遠ざける」
「三つが揃えば、管理者なしで施設に入れる状態を作れた。
三角形の干渉網です」
俺は少し間を置いた。
「……圧をかける。
守護者を乱す。
管理者を近づけない」
順番に言葉にした。
「三つで、一つの仕組みですね」
サヤが小さく頷いた。
そして、石を見たまま言った。
「つまり、私を排除する前提の設計です」
静かな声だったが、意味は重かった。
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サヤが作業を始めた。
昨日と同じように、石の前に座った。
目を閉じた。
施設の言語で、声を出した。
俺は《可視化》で石を見続けた。
昨日より、石の内部の色が複雑だった。
層が、多い。
「時間がかかりますか」
「少し長くなります」
「急がなくていいです」
サヤは頷かなかった。
集中していた。
俺は周囲を警戒しながら、石を見続けた。
ミルヴァが森の奥を見ていた。
静かだった。
一時間半が経った。
石の色が、消えた。
サヤが手を離した。
「終わりました」
今日は、昨日より疲れた顔をしていた。
「お疲れ様でした。
戻りましょう」
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村に戻った。
コリンが核を確認した。
「ヴェルグの青い光が、さらに安定しました。
守護者への干渉も、止まったようです」
「二つ止めた効果が出ている」
「はい。ただし、三つ目が撤去されただけで、どこかにまだある可能性があります」
「引き続き、監視をお願いします」
サヤが俺の隣に来た。
「三つ目の石を持ち去った者が、撤去した。
それは、まだ近くにいるということです」
「東の森か、その周辺に」
「おそらく」
「ミルヴァさんに、広域の人間の気配を調べてもらいます」
「ただし」
サヤは少し間を置いた。
「石を作れる者は、魔力の扱いに長けています。
気配を消す技術も持っているかもしれない」
「見つけにくい」
「はい。ただし、石を使うためには、定期的に確認に来るはずです。
装置の状態を確認しなければ、効果が落ちます。
根気よく観察すれば、現れます」
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夕方、ガッツが俺のところに来た。
石材の件だった。
「ランデルの採石場と話をつけた。
来月から、定期的に石材を運んでもらえる」
「量はどのくらいですか」
「月に荷馬車五台分。
正門側の石壁化に着手するには、三ヶ月分あれば足りる」
「費用は」
「荷馬車一台につき、金貨二枚。月に金貨十枚だ」
「予算に収まります。進めてください」
「それと、設計を最終確認したい。
今週中に、時間をもらえるか」
「明後日の午前中はどうですか」
「それで構わない」
ガッツは少し間を置いた。
「最近、森の方で何かあったか。
弟子たちが気にしていた」
「施設に絡む問題がありました。
今は、一段落しています」
「そうか。
現場は、落ち着いているか」
「落ち着いています」
「なら、建設を進める」
「お願いします」
ガッツは短く頷いた。
それだけで、戻っていった。
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夜、全員で状況を整理した。
「二つの装置を無力化しました。
三つ目は撤去済み。
核とヴェルグは、安定を取り戻しています」
「敵は、まだ近くにいる」
「そうです。ミルヴァさんに継続して探してもらいます。
ただし、焦って追うより、向こうが動いたとき対応できる準備をします」
「防御を固める」
「はい。それと、来月から石材の調達が始まります。
石壁化の第一フェーズを、ガッツさんと確認します」
「防衛と建設を、同時に進める」
「そうです。どちらも止めない」
バルドが腕を組んだ。
「農地の収穫は、いつごろだ」
「エルナさんに確認します。秋の初めには、北区画から始まると聞いています」
「収穫が始まれば、食料の問題が一段落する」
「はい。そうなれば、次の課題に集中できます」
バルドは少し間を置いた。
「……随分、遠くまで来たな」
「まだ、途中です」
「そうだな。ただし、来た道のりは本物だ」
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――二つ目の装置を止めた。
ただし、敵はまだいる。
三つ目の石を持ち去った者が、どこかにいる。
石を作れる者。施設の知識を持つ者。気配を消せる者。
まだ、顔が見えていない。
ただし、装置を使う限り、定期的に確認に来る。
来たとき、捕まえる。
それが次の手だ。
――敵を追うより、敵が来る場所を待つ。
来る場所が分かれば、待てる。
待てれば、現場の主導権はこちらにある。
――来た瞬間に、捕まえる。
一度だけ、言葉にした。
次の段取りを組んだ。
三つ目の石の持ち主を待ち伏せる場所の選定。石壁化第一フェーズの設計確認(ガッツと明後日)。ルーカスへの手紙を商人経由で送付(ミルヴァに依頼)。核の回復状況の最終確認。農地収穫の準備。
現場は、守りから攻めへ、少しずつ移り始めた。
第38話 もう一つ 了
【次回】
待ち伏せを始めて四日目の夜だった。
ミルヴァが戻ってきた。
「来た。ただし、一人じゃない」
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【領地収支】
・所持金 :金貨244枚(-10枚)
・収入 :なし
・支出 :石材の手付け金 金貨10枚
【発展進捗】
・防衛 :98%(二つ目の干渉装置を無力化。核・ヴェルグが安定。石材調達開始・石壁化第一フェーズ着手準備)
・食料 :64%(農地順調・北区画の収穫が秋の初めに迫っている)
・水 :83%(変化なし)
・住居 :40%(変化なし)
・インフラ:35%(石材の定期調達契約成立・月金貨10枚・来月から搬入開始)
今日の進捗:二つ目の干渉装置を発見・無力化。装置が三角形の配置で施設を包囲しようとしていたことが判明。三つ目は撤去済み・製作者が近くにいる可能性。ガッツがランデルの採石場と石材調達の契約を成立。リアがルーカスへの手紙を作成。待ち伏せ作戦の準備を開始。




