第37話 石の干渉装置
現場では、原因を取り除けば、問題は止まる。
原因を取り除かず、症状だけ抑えても、
いつか限界が来る。
――根を断つ。
翌朝、早かった。
まだ日が低いうちに、施設の入口に集まった。
アーヴィン、マユミ、サヤ、俺の四人だ。
リアとコリンは施設の前で待機する。
ミルヴァは村の外周を警戒した。
バルドが見送りに来た。
何も言わなかった。
ただ、頷いた。
それで十分だった。
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東の森に入った。
入口は、外堀の東側の門から出た先だった。
朝の森は静かだった。
鳥の声がした。
風が、木の葉を揺らした。
ただし、奥に進むにつれて、静けさの質が変わった。
生き物の気配が、薄くなった。
鳥の声が聞こえなくなった。
「魔物は」
マユミが聞いた。
「気配はあります。ただし、遠い。
こちらに向かってくる動きはないです」
「施設に干渉している何かが、魔物を引き寄せているんじゃないか」
「逆です。干渉している装置が、特定の方向の魔物を遠ざけている可能性があります。
作業の邪魔をさせないために」
「人間の仕事だ」
アーヴィンが短く言った。
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《可視化》を広げながら進んだ。
北東の方向に、色が見えた。
施設の核の揺らぎと、同じ方向だった。
ただし、地上から来ている色だ。
地下ではなく、地面の上に何かがある。
「この方向です」
サヤが同時に頷いた。
「魔力の流れが、あちらから来ています」
二人の感知が、一致していた。
アーヴィンが先頭を歩いた。
マユミが右側をカバーした。
俺とサヤが中央を歩いた。
森の中を、二時間歩いた。
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サヤが立ち止まった。
「ここです」
地面を見た。
一見、何もなかった。
落ち葉が積もっていた。
木の根が張っていた。
ただ、《可視化》を向けると、地面の色が違った。
落ち葉の下に、何かがあった。
――土の色が、周囲と違った。
湿り気がない。
根が、その場所だけを避けていた。
虫の気配も、なかった。
自然に見えて、不自然だった。
俺は《可視化》を向けた。
地面の色が、明確に違った。
何かが、埋まっている。
「掘ってみます」
アーヴィンが剣の柄で落ち葉を払った。
土が出てきた。
さらに払った。
石が出てきた。
黒い石だった。
直径三十センチほどの、丸い石だった。
――近づいた瞬間、空気が重くなった。
音が、少し遠くなる。
手をかざすと、異様に冷たかった。
ただの石ではない。
見た瞬間に分かる。
地面に半分埋まっていた。
表面に、細かい文字が刻まれていた。
「サヤさん、この文字は」
サヤが石を見た。
少し間を置いた。
「施設の言語です。ただし、読んだことがない種類の文字が混ざっています」
「施設の言語と、別の言語が混ざっている」
「はい。施設の設計者の言語と、別の誰かの言語が組み合わさっています。
施設の仕組みを利用して、干渉するための装置を作った、ということです」
――誰かが、意図して作っている。
自然にできたものではない。
調整されている。
継続して動くように、設計されている。
人間の仕事です。
「施設の知識を持った人間が、悪用した」
「そうなります」
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俺は《可視化》を石に向けた。
石の内部に、色が見えた。
複雑な色だった。
魔力が、複数の層になって組み込まれていた。
一番外側の層が、施設の核に向かって魔力を送り続けていた。
細い。
弱い。
ただし、止まっていない。
「仕組みが見えます。
外側の層が、核に向かって継続的に魔力を送っています。
弱い干渉ですが、止まらない」
「止めるには、どうすればいいですか」
サヤが石を見た。
「装置を破壊すれば、干渉は止まります。
ただし、乱暴に破壊すると、溜まった魔力が一度に放出されます。
それが、核に悪影響を与える可能性があります」
「安全に止める方法はありますか」
「魔力を、少しずつ抜いていく必要があります。
私なら、できます。ただし、時間がかかります」
「どのくらい」
「一時間ほどです」
「やってもらえますか」
「はい」
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サヤが石の前に座った。
目を閉じた。
手を、石の上に置いた。
施設の言語で、何かを言い始めた。
低い声だった。
単調なリズムで、続いた。
俺は《可視化》で石の内部を見続けた。
外側の層の色が、少しずつ薄くなっていった。
サヤが魔力を引き抜いている。
アーヴィンとマユミが周囲を警戒した。
静かだった。
三十分が経った。
外側の層が、さらに薄くなった。
サヤの呼吸が、少し乱れていた。
声のリズムが、わずかに崩れる。
それでも、止めない。
四十分。
指先が、わずかに震えていた。
五十分。
声が一度だけ途切れた。
すぐに、戻した。
――限界ではない。
ただし、余裕でもない。
色が、ほとんど消えかけていた。
「もうすぐです」
サヤは応答しなかった。
集中していた。
一時間後、外側の層の色が消えた。
石が、静かになった。
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サヤが手を離した。
少し疲れた顔をしていた。
「終わりました」
「干渉は止まりましたか」
「止まりました。石の内部の魔力は残っていますが、外に出ていく経路が閉じました」
「核への影響は」
「今すぐは確認できません。
戻って、コリンさんと確認します」
「石は、どうしますか」
サヤが石を見た。
「持ち帰って、調べたいです。
誰が作ったか、何のために作ったか。
文字を全部読めれば、分かるかもしれません」
「持ち帰ります」
アーヴィンが石を持ち上げた。
重かった。
両手で抱えて、立った。
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帰り道、マユミが俺の隣を歩いた。
「これで、核は安定するか」
「干渉が止まったので、第一段階から戻る可能性があります。
ただし、すでに混ざった色が消えるかどうかは、サヤさんに聞かないと分からないです」
「また来る可能性は」
「あります。同じ装置を、別の場所に置かれる可能性があります」
「いたちごっこか」
「今回の装置を調べれば、同じものを先に探せるかもしれないです。
ミルヴァさんに、北東の森の広い範囲を確認してもらいます」
「一つだけとは限らない」
「そうです。今回見つけたのは一つですが、複数置いてあるかもしれない」
マユミは少し間を置いた。
「……厄介だな」
「そうですね」
「ただし、見つけられた」
「見つけられました」
「それは、良かった」
マユミはそれ以上言わなかった。
俺も、それ以上言わなかった。
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村に戻った。
コリンが待っていた。
「核の状態を確認します」
施設の入口から、コリンが結界を通じて核の状態を読んだ。
しばらく待った。
「……揺らぎが、小さくなっています」
「干渉が止まった効果が、出ていますか」
「出ています。完全には戻っていませんが、安定しています」
「戻るまでの時間は」
「一日か二日だと思います。ただし、確証はないです」
「引き続き、監視をお願いします」
「はい。それと、石の内部に残っている魔力を調べさせてもらえますか。
結界魔法と共通する部分があるかもしれないので」
「サヤさんと一緒に調べてください」
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夕方、リアが石の文字を写し取った。
紙に、細かく書き写した。
「施設の言語と、別の言語が混ざっています。
施設の言語はサヤさんが読めます。
別の言語は、以前に見たことがある気がします」
「どこで」
リアは少し考えた。
「師匠の本です。
師匠が持っていた古い本に、似た文字があったと思います」
「師匠の本は、今もありますか」
「手元にはないです。
師匠が死んだ後、本は弟子たちで分けました。
私が持ったのは、別の本でした」
「残りの本は、誰が持っていますか」
「師匠のもう一人の弟子です。
アーゼルタウンにいます」
俺は少し考えた。
「コリンさんの師匠のシグレさんと、リアさんの師匠は別の人ですか」
「はい。リアの師匠はヴェラという人です。
ベルン商会の前身組織に関わって、消された可能性があります」
「ヴェラさんの別の弟子が、本を持っている」
「はい。名前はルーカスといいます」
「アーゼルタウンにいるなら、手紙を出せますか」
リアは少し間を置いた。
「出せます。ただし、危険に巻き込む可能性があります」
「伝え方を工夫します。
一緒に考えましょう」
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夜、サヤが石の文字の解読を続けていた。
俺が隣に座った。
「分かることはありますか」
「施設の言語の部分は、読めます。
『核に対して継続的な圧を加えよ。管理者の防護を削れ』と書いてあります」
「施設を不安定化させるために作られた装置だ」
「はい。そして、この装置を作った者は、施設の仕組みを深く知っています。
表面的な知識では、こういう装置は作れません」
「四十年前の調査者が持ち帰った情報が、元になっている」
「あるいは、もっと古い情報です。
別の言語の部分が、鍵かもしれません」
「リアさんが、師匠の弟子に手紙を出す話をしています。
師匠の本に似た文字があったかもしれない、と」
サヤは少し間を置いた。
「……繋がりますか」
「繋がるかもしれません。まだ分からないです」
「急がなくていいですか」
「核の状態が安定しているなら、急がなくていいです。
ただし、また別の装置が置かれる前に、できるだけ調べたい」
サヤは石を見た。
「この石を作った者が、まだどこかにいます」
「そうです」
「また来ます」
「来たとき、対応できるように準備します」
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――根を断った。
ただし、根を張っていた者は、まだいる。
今日やったことは、症状を止めただけかもしれない。
原因の人間が、まだ動いている。
ただし、今日は今日でやれることをやった。
現場では、一日でできることに限りがある。
限りがある中で、できることをやった。
それが、積み重なる。
――根を断つには、根がどこにあるか知らなければならない。
知るために、動く。
動きながら、根を追う。
次の段取りを組んだ。
北東の森の広域調査。石の文字の解読継続。ルーカスへの手紙を作成(リアと一緒に)。核の回復状況を定期確認。農地の収穫まで、秋を待つ。
現場は、根を追い始めた。
第37話 石の干渉装置 了
【次回】
核が安定を取り戻した翌日。
ミルヴァが北東の森の広域調査から戻った。
「もう一つ、あった」
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【領地収支】
・所持金 :金貨254枚(変化なし)
・収入 :なし
・支出 :なし
【発展進捗】
・防衛 :98%(干渉装置を発見・無力化。核の揺らぎが安定化に向かっている)
・食料 :62%(変化なし)
・水 :83%(変化なし)
・住居 :40%(変化なし)
・インフラ:33%(変化なし)
今日の進捗:東の森で干渉装置(黒い石)を発見。サヤが一時間かけて安全に無力化。核の揺らぎが安定化に向かっていることをコリンが確認。石の文字に施設の言語と別の言語が混在していることを確認。リアの師匠ヴェラの別の弟子・ルーカスへの手紙を計画。四十年前の調査者との繋がりが濃くなる。




