表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/203

 第25話 古い記録

 現場には、前の現場が必ず残っている。

 記録が残っていれば読む。

 記録がなくても、地面が覚えている。


 ――過去を掘れば、現在が速くなる。

 ガッツと設計の打ち合わせをした翌朝だった。


 バルドが地図を持ってきた。


 古い紙だった。

 端が茶色く変色している。

 折り目が何度もついていた。


「村の古い記録が出てきた」


「どこから」


「集会所の床下だ。昨夜、補修で板を外したら出てきた。

 誰かが意図的に隠していたのかもしれない」


 受け取った。

 広げた。


 手描きの地図だった。

 この領地の輪郭が描かれている。


 現在の地図と見比べた。


 似ているが、細部が違う。


 そして、現在の地図にはない印が一つあった。


 北西の方角。

 外堀の外側。


 「旧水源」と書いてあった。


──────────────────────────────────────


「もう一つ、井戸があったんですか」


「記録によれば、四十年以上前にあったらしい。

 俺が子供の頃には、もう使われていなかった」


「なぜ使われなくなったんですか」


「水が出なくなったと聞いた。

 ただ、詳しいことは分からない」


 俺は地図を見た。


 北西。

 外堀の外側、三十メートルほど先。


「サヤさんに聞いてみます。

 地脈を知っているなら、水源のことも分かるかもしれない」


「そうしてくれ」


 バルドは少し間を置いた。


「もう一つ、この記録に書いてある」


「何ですか」


「四十年前の村の人口だ。

 三百八十人いた」


 俺は少し止まった。


「今の二倍以上ですね」


「そうだ。水が出なくなって、農地が減って、魔物が増えた。

 少しずつ、減っていった」


 バルドは地図を見た。


「水が戻って、農地が戻れば。

 また増えるかもしれない」


──────────────────────────────────────


 サヤに地図を見せた。


 サヤは印を見て、少し考えた。


「北西の水源、知っています」


「知っていたんですか」


「地脈の流れを把握しているので。

 ただし、今も水が出るかどうかは分かりません」


「なぜ水が出なくなったんですか」


「四十年前、この地の地脈が一度乱れました。

 魔力の流れが変わり、地下水の流れも変わった」


「意図的な乱れですか」


 サヤは少し間を置いた。


「……分かりません。自然の変動の可能性もあります。

 ただ、施設の記録を読んだ後では、意図的だった可能性もあります」


「施設の管理が途絶えた時期と重なりますか」


「重なります」


 俺は少し考えた。


 施設の管理者がいなくなる。

 地脈が乱れる。

 水源が枯れる。

 村が縮小する。


 全部が、繋がっている。


「今、地脈の状態はどうですか」


「核が安定しているので、流れは正常です。

 ただし、地下水が戻るかどうかは別の話です」


「掘る価値はありますか」


「あります。ただし、場所を間違えれば無駄になります」


「《可視化》で地下水を見ます」


──────────────────────────────────────


 北西エリアに移動した。


 外堀の外側だった。


 ミルヴァが周囲の警戒をする。


 俺は地面に《可視化》を向けた。


 地下を見る。


 深い。

 土の層が続いている。


 さらに下。


 あった。


 水の色。

 暗いが、動いている。


「見えます。地下に水があります」


「深さは」


「十五メートルほどです」


「井戸を掘れば届くか」


「届きます」


 サヤが地面に手を当てた。


「……北西の地下水脈は生きています。

 細くはなっていますが、水は流れている」


「掘れば出る」


「出ます」


──────────────────────────────────────


 ガッツに話した。


「北西に井戸を掘ります。

 地下十五メートルに水脈があります」


 ガッツは少し考えた。


「深いな。掘れないことはないが、時間がかかる」


「どのくらいですか」


「二週間。ただし岩盤に当たれば延びる」


「回避できますか」


「位置が分かればな」


 《可視化》で再確認した。


「八メートルあたりに硬い層があります。

 ただし南に二メートルずれると薄い」


「ずらせば避けられるか」


「可能性は高いです」


 ガッツは地面を見た。


「……面白い現場だ」


「よく言われます」


「スキルの話だ」


「失礼しました」


「謝るな。事実だ」


──────────────────────────────────────


 その日の夕方、全員に報告した。


「北西に追加の井戸を掘ります。

 水源が一つから二つになれば、農地の拡張と、有事の備蓄に使えます」


「外堀の外になるが」


 アーヴィンが言った。


「井戸の周囲に、小さな柵を作ります。

 有事の際は使えなくなりますが、平時の水量が倍になります」


「外堀の内側に引けないか」


「地下水脈の位置が、外堀の外なんです。

 無理に内側に引こうとすれば、水量が落ちます」


「……分かった」


「ミルヴァさんには、その周辺の警戒を強化してもらいます」


「了解した」


──────────────────────────────────────


 夜、バルドが古い記録をもう一度持ってきた。


「もう少し、読んでみた」


「何かありましたか」


「四十年前の村長の日記が混じっていた。

 断片的だが、面白いことが書いてあった」


 バルドが紙を開いた。


「『今年の春、南の林に見慣れない者が現れた。

 人ではないかもしれない。ただし、害意はない。

 村には近づかないが、時々こちらを見ている』」


 俺は少し止まった。


「四十年前にも、サヤさんがいた」


「そうなるな」


「四十年前から、この地にいたんですか」


 バルドは首を振った。


「十年前から、と言っていた。

 四十年前にいた者と、同じ存在かどうかは分からない」


「サヤさんに聞いてみます」


──────────────────────────────────────


 サヤに日記の内容を伝えた。


 サヤは少し間を置いた。


「四十年前に、この地にいた者がいたとすれば。

 私の前任者です」


「同じ種族の」


「おそらく。私たちは、役割を引き継ぎます。

 前任者が去った後、この地が十年以上、管理者なしになっていた。

 それが、地脈の乱れと水源の枯渇に繋がったかもしれません」


「前任者は、なぜ去ったんですか」


 サヤは少し間を置いた。


「……分かりません。

 ただ、この地の状態を見れば、急に去ったことは分かります。

 引き継ぎがなかったので」


「急に去らなければならない理由があった」


「可能性があります」


 俺は少し考えた。


「四十年前に、何かが起きた」


「施設の記録に、四十年前の記述があるかもしれません。

 第三層以降を調査すれば、分かるかもしれない」


「引き続き、調査を進めます」


──────────────────────────────────────


 集会所に戻る途中、バルドが並んで歩いた。


「四十年前のことを、少し覚えている」


「何ですか」


「その頃、俺は子供だった。

 村に、旅の人間が来た。

 商人でも冒険者でもない。

 何かを調べていた」


「この地を調べていた」


「そうだと思う。今から考えれば」


「何日いましたか」


「三日か四日だ。

 それから、急に去った。

 村長が、顔色を変えていたのを覚えている」


 俺は少し考えた。


「バルドさんが子供の頃。

 四十年前に、旅の調査者が来て、急に去った。

 その年に、水源が枯れた」


「……繋がっているかもしれないな」


「分かりません。ただ、記録しておきます」


──────────────────────────────────────


 夜、ガッツと設計の続きをした。


 現在の土塁の位置を確認した。

 全周の外堀の深さと幅を測った。

 石壁に置き換えた場合の必要石材量を計算した。


「全周を石壁にするには、相当な量が必要だ」


「鉱山が見つかれば、採掘できます」


「鉱山は」


「この地の地下に、可能性があります。

 施設の調査が進めば、分かるかもしれない」


「つまり、今は分からない」


「はい。ただし、当面は土塁で十分です。

 石壁は、段階的に作っていきます」


「段階的に、か」


「まず、重要な区画から。

 正門側と、北東エリアを優先したい」


「北東は、施設の入口があるからか」


「そうです」


 ガッツは図面に書き込んだ。


「分かった。明日から、石の調達ルートを確認する。

 近隣の採石場を把握しておく」


「お願いします」


 ガッツは少し間を置いた。


「ヒコ」


「はい」


「この領地、どこまで作るつもりだ」


 俺は少し考えた。


「落ちない領地です」


「落ちない、か」


「攻めても取れない。

 攻める気にもならない。

 そういう構造にします」


 ガッツは図面を見た。


「……やりがいのある現場だ」


──────────────────────────────────────


 ――過去が、また一つ浮き上がった。


 四十年前の前任管理者。

 枯れた水源。

 急に去った調査者。


 三百年前の施設。

 十年前に来たサヤ。

 十五年前に水路を埋めた領主。


 この地には、積み重なった歴史がある。


 全部を解明する必要はない。


 ただ、知れば知るほど、守る理由が増える。


 ――現場を知ることは、現場を好きになることだ。

 好きになれば、守りたくなる。

 守りたくなれば、段取りが変わる。


 次の段取りを組んだ。


 北西の井戸掘削開始ガッツ。施設第三層の調査準備サヤ。四十年前の調査者の聞き取り継続バルド。石材調達ルートの確認ガッツ。民兵訓練の継続。


 現場の過去と現在が、少しずつ繋がってきた。



 第25話 古い記録 了

【次回】


 井戸の掘削が始まって四日目。

 ガッツが地面から上がってきた。

 「おい。出た」


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨36枚(変化なし)

・収入  :なし

・支出  :なし(井戸掘削費用は今後発生予定)


※報奨金 金貨100枚(王都より後日支払い予定)


【発展進捗】


・防衛  :93%(変化なし)

・食料  :44%(農地の芽が順調・南区画の整備が六割完了)

・水   :73%(北西に追加水源の存在確認・掘削準備中)

・住居  :40%(変化なし)

・インフラ:26%(追加井戸の掘削計画確定・石材調達ルートの確認開始)


 今日の進捗:バルドが古い村の記録を発見。北西に追加水源の存在を確認・掘削計画確定。四十年前の前任管理者と急に去った調査者の存在が判明。施設の歴史と領地の歴史が繋がり始める。ガッツと石壁設計の打ち合わせ開始。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ