第24話 管理者以外は立ち入るな
立入禁止の場所には、理由がある。
危険だから禁じた場合と、知られたくないから禁じた場合がある。
どちらかは、入ってみなければ分からない。
――現場では、禁止の理由を確かめることも仕事だ。
施設の第二層に入ったのは、第一層の地図が完成して三日後だった。
アーヴィン、マユミ、リア、コリン、俺、サヤ。
構成は第一層と同じだ。
ミルヴァは外で警戒。
入口から縄梯子で下り、第一層の通路を進んだ。
奥の方に、下へ続く階段があった。
石造りの、幅の広い階段だ。
松明を持って、下りた。
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第二層は、第一層より天井が高かった。
通路も広い。
壁の石の積み方が、第一層と少し違った。
より精緻だ。
音が、やけに反響しなかった。
「丁寧な仕事だ」
アーヴィンが言った。
「第一層より古いかもしれません。
地下が深いほど、最初に作られた区画の可能性がある」
サヤが壁を触った。
「魔力の流れが、ここの方が濃い。
第一層は表面に近いので、薄れていた」
「核に近いから、濃い」
「そうだと思います」
《可視化》を向けた。
壁の色が、第一層より深かった。
長い時間が染み込んでいる色だ。
三百年以上、ここにあった色だ。
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五十メートルほど進んだところで、マユミが止まった。
「気配がある」
リアが索敵魔法を展開した。
「います。前方、三十メートル。
二体。動いています」
「種類は」
「ストーンハウンドです。第一層にいたものより、大きい」
アーヴィンが剣に手をかけた。
「行く」
「待ってください」
俺は《可視化》を前方に向けた。
二体の色が見えた。
攻撃的な色ではなかった。
警戒している色だ。
こちらに向かってくる気配がない。
「向こうから来ません。こちらが近づかなければ、動かないと思います」
「確認か」
「そうです。施設の守護者として配置されている可能性がある。
サヤさん、心当たりはありますか」
サヤが少し考えた。
「地上の林にも、似たような存在がいました。
入ってくる魔物を排除する役割の生き物です。
ただし、管理者には従う」
「管理者とは」
「私です。おそらく」
「試してみますか」
サヤは少し間を置いた。
「……やってみます」
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サヤが前に出た。
俺たちは後ろで待った。
サヤが通路の先に向かって、何かを言った。
この世界の言語ではなかった。
壁の文字と同じ言語だった。
しばらく、静かだった。
それから、通路の奥から音が聞こえた。
重い足音。
石を踏む音。
サヤの隣に、二体が現れた。
石の色をした、犬に近い形の生き物だった。
高さが一メートルほどある。
目が、青く光っていた。
サヤの横に並んで、止まった。
ストーンハウンドが、サヤの前で頭を下げた。
「従いました」
「言葉が通じたんですか」
「言語というより、魔力の信号です。
管理者の魔力を持っている相手に、従う仕組みになっています」
「この施設全体に、同じ仕組みが」
「おそらく」
俺は少し考えた。
「では、管理者であるサヤさんと一緒であれば、内部は安全に動ける」
「深層に行くほど、強い守護者がいます。
今の私の魔力では、従わせられない可能性があります」
「段階がある」
「はい」
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さらに奥に進んだ。
三十メートルほど進んだところで、壁に文字があった。
サヤが立ち止まった。
「読めますか」
「はい」
サヤが壁を読んだ。
声が、少し変わった。
「……『この先、管理者以外は立ち入るな。
資格なき者が核に触れれば、施設全体が暴走する。
管理者は、信頼できる者のみを伴うこと』」
全員が静かになった。
「暴走、とは」
コリンが聞いた。
「施設が制御を失うことです。
地脈の魔力が、無秩序に放出される」
「どのくらいの規模で」
サヤは少し間を置いた。
「この地全体が、魔力の嵐に飲まれます。
生き残る人間はいません。
領地どころか、周辺一帯が影響を受ける規模です」
リアが静かに言った。
「つまり、核を守ることが最優先」
「はい。核が奪われるより、暴走の方が被害が大きい。
魔族がそれを知っていれば、核を奪うより暴走させることを選ぶかもしれない」
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俺は少し考えた。
問題は、整理できる。
核を守らなければならない。
暴走を防がなければならない。
魔族がどちらを狙っているか、まだ分からない。
「サヤさん、核の現状は」
「安定しています。今のところ、異常はありません」
「魔族が干渉を始めた場合、どこから察知できますか」
「第三層の守護者が、異常を察知します。
私に伝わる仕組みになっています」
「第三層には、まだ入っていない」
「今日は入らない方がいいです。
私の現在の魔力では、第三層の守護者を完全には従わせられない。
準備が必要です」
「分かりました。今日はここまでにします」
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地上に戻った。
ミルヴァが待っていた。
「どうだった」
「施設の構造が、少し分かりました。
核を守ることが最優先課題です」
「魔族の動きは」
「今すぐではない。ただし、備えが必要です」
ミルヴァは少し考えた。
「ベルン商会の動きと、連動しているかもしれない」
「同じことを考えていました」
「貴族が施設の存在を知っていて、魔族と情報を共有している可能性がある」
「あるいは、別々に動いていて、結果的に同じ方向を向いている」
「どちらにしても」
「こちらが先に動く必要はないです。
ただし、何かが起きたとき、すぐに対応できる準備を」
「了解した」
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夕方、コリンが俺のところに来た。
「一つ、相談があります」
「どうぞ」
「施設の核を守るために、外側から結界を張ることは可能です。
ただし、施設の魔力と私の結界魔法が干渉する可能性があります。
試してみたいのですが、許可をもらえますか」
「サヤさんと相談した上でやりますか」
「はい。サヤさんには話を通してあります。
問題ない、と言ってもらいました」
「では、試してください。
ただし、異常があればすぐに止めること」
「九割以上は、大丈夫だと思います。
残りの一割が、問題になることが多いです」
「残りの一割を、気をつけてください」
「はい」
コリンは少し笑った。
「……怖いですが、やります」
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夜、ガッツが俺のところに来た。
「水路の最終確認が終わった。
明日、全ての工事が完了する」
「お疲れ様でした」
「それで、一つ確認したい」
「何ですか」
ガッツは少し間を置いた。
「前に、残留の打診をされた」
「はい」
「まだ、その話は有効か」
俺は少し止まった。
「もちろんです」
「条件を聞いていい」
「ガッツさんの仕事は、この領地の建設全般です。
今は土塁と水路ですが、本格的な石壁が必要になります。
領主館、兵舎、工房も作ります。
最終的には、この領地全体を要塞にしたい」
ガッツは少し黙った。
「全部、石でやるのか」
「段階的に。最初は木と土で形を作って、石に置き換えていきます」
「設計はあるか」
「頭の中にあります。図面を引けますか」
「引ける」
「では、一緒に引きましょう。
俺が全体の設計を出して、ガッツさんが施工可能な形に落とし込んでもらいたい」
ガッツはしばらく黙っていた。
「……弟子の二人も、連れていいか」
「歓迎します」
「弟子には、ここで修行させる。
俺は、建設総責任者として動く」
「その通りです」
ガッツは短く頷いた。
「分かった。
……こんな現場は、初めてだ。
残る」
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――また、一人増えた。
ガッツが残ることを決めた。
アーゼルタウンから来た職人が、この領地に根を張ることにした。
水路が完成した。
土塁が全周を覆った。
民兵の訓練が始まった。
施設の構造が見え始めた。
全部、同時に動いている。
現場が、現場らしくなってきた。
――段取りとは、人を集めることだ。
――一人では守れないものを、守るために。
道具を集めるより、人を集める方が難しい。
人が集まれば、道具はいつか揃う。
次の段取りを組んだ。
ガッツと設計の打ち合わせ。施設第三層の調査準備(サヤと協議)。コリンの結界実験。民兵訓練の継続。ベルン商会の動向監視。
現場の骨格が、見えてきた。
第24話 管理者以外は立ち入るな 了
【次回】
ガッツと設計の打ち合わせをした翌朝。
バルドが地図を持ってきた。
「村の古い記録が出てきた。この領地に、もう一つ井戸があったらしい」
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【領地収支】
・所持金 :金貨36枚(-8枚)
・収入 :なし
・支出 :ガッツへの最終支払い 金貨8枚
※報奨金 金貨100枚(王都より後日支払い予定)
【発展進捗】
・防衛 :93%(土塁・全周完成。施設守護者がサヤの管理下に入った)
・食料 :42%(農地の芽が順調に成長中)
・水 :72%(水路完成・通水安定。追加水源の調査が次の課題)
・住居 :40%(変化なし)
・インフラ:25%(水路完成。ガッツ残留決定・本格建設に向けた設計打ち合わせ開始予定)
今日の進捗:施設第二層の調査完了。守護者がサヤの管理下に入ることを確認。核の暴走リスクを把握。コリンが外部結界の実験を開始。ガッツの残留が決定・建設総責任者として正式に着任。




