表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

155/203

 第12話 決戦前夜

 現場に、余分な変数は要らない。


 だが、現場は余分な変数を拒まない。


 ――予定外を、戦力に変える。それが現場だ。

 夕暮れ時だった。


 コリンが結界の展開テストを始めていた。


 村の中心部を覆う、戦闘用の結界。

 警報用より密度が高い。

 薄く光る膜が、村の輪郭に沿って広がっていく。


 《可視化》で確認した。


 均一だ。

 隙間がない。


 コリンの集中力が、色に出ている。


 そのとき、ミルヴァが走ってきた。


 三度目だ。


──────────────────────────────────────


「西側の障害物が動いた」


「魔物ですか」


「違う。人だ。複数。……逃げてきている」


 人が、西から来た。


 ルナと同じ方角だ。


「何人ですか」


「四人。大人三人、子供一人。全員、消耗している」


「武装は」


「なし。逃げるだけで精一杯の状態」


 ――敵は数だけじゃない。情報と人の流れも使ってくる。


 俺はコリンを見た。


「テストを一時停止できますか」


「できます。ただし、再展開に少し時間がかかります」


「構いません。保護を優先します」


──────────────────────────────────────


 四人を村に入れた。


 大人三人は、三十代から四十代。

 男二人、女一人。

 子供は八歳前後の男の子だった。


 全員、土と血で汚れていた。


 《可視化》を展開した。


 色は、くすんでいる。

 恐怖。疲労。混乱。


 ただし、カインのときのような複雑な色はない。


 純粋に、逃げてきた人間の色だ。


 コリンがすぐに動いた。

 声をかけながら、状態を確認していく。


 子供の右腕に深い傷があった。


「これ、魔物ですか」


 コリンが静かに聞いた。


「……シャドウリンクスです。逃げる途中で」


 男の一人が答えた。


 声が震えていた。


──────────────────────────────────────


 話を聞いたのは、一時間後だった。


 名前はドレン。四十代の男。

 隣の区画の、さらに西の村から来たという。


「村が、三日前から魔物に囲まれ始めました。

 昨夜、囲みが崩れた隙に逃げました」


「囲まれていた、というのは」


「村の外に出られなくなっていました。

 食料が尽きかけていて――」


 ドレンは言葉を切った。


「残った人は」


「……分かりません。逃げるとき、全員は動けなかった」


 俺は少し間を置いた。


「今、あなた方は安全な場所にいます。

 落ち着いてから、また話を聞かせてください」


──────────────────────────────────────


 ミルヴァと話した。


「西の村が三日前から包囲されていた。

 東の森の集結と時期が重なります」


「計画的に動いている」


「ええ。一点ではなく、複数地点を同時に動かしている」


「指揮している何かが、いる」


「サヤが言っていた通りです。

 ただ、想定より規模が大きいかもしれない」


 ミルヴァは少し考えた。


「西の村の包囲が昨夜崩れた理由が気になる」


「俺も同じことを考えていました。

 こちらに戦力を集中させるために、包囲を解いた可能性がある」


「……逃げてきた人間を、こちらに流した」


「あるいは、逃げてきた人間の後を追ってくる」


 ミルヴァの目が細くなった。


「追跡、か」


「可能性の一つです。今夜は西側の監視を強化してください」


「了解。ただし――」


「ただし?」


「今夜来るかもしれない。明日の夜を待たずに」


──────────────────────────────────────


 全員を集めた。


「状況が変わりました。

 西から逃げてきた人間がいます。

 その背後に、追跡してくる群れがいる可能性があります。

 今夜、来るかもしれない」


「予定より早い」


 アーヴィンが短く言う。


「はい。ただし、準備は整っています。

 南側外堀、完成済み。西側障害物、設置済み。

 コリンさん、結界の切り替えを今夜に前倒しできますか」


「できます。テストは途中ですが、実戦で確認します」


「お願いします。ただし、無理はしないでください」


「大丈夫です。……たぶん」


 コリンらしい答えだった。


「リアさんは上空索敵を継続。

 異常があれば、すぐに全員に」


「はい」


「ミルヴァさんは西側の監視を」


「もうやってる」


──────────────────────────────────────


 バルドを呼んだ。


「今夜、来るかもしれません。

 村人の移動を、今すぐ始めてください」


「分かった」


 バルドは迷わなかった。


 三歩で動き始めた。


 現場の人間だ。


 ルナが集会所の隅で、新しく来た子供の隣に座っていた。


 名前はまだ聞いていない。


 ルナが何か言った。

 子供が少しだけ顔を上げた。


 言葉より先に、体が繋がっていた。


──────────────────────────────────────


 夜半過ぎ。


 リアの声が落ちてきた。


「来ます。西から。数は……三十以上。

 東からも、動き始めました」


 同時だ。


「コリンさん、結界展開」


「展開します」


 薄い光が村を覆った。


 《可視化》を絞る。


 仲間の色が変わる。


 集中。

 迷いなし。


「アーヴィンさんは東。マユミさんは西。

 リアさんは西側優先で支援を。東はアーヴィンさんが抑えます」


「了解した」

「行く」

「分かりました」


「ミルヴァさん、西の側面を」


「もういる」


──────────────────────────────────────


 西側から来た群れは、障害物で速度が落ちた。


 落ちた隙に、マユミが入った。


 緋閃の双刃が、闇の中で赤く光る。


 一体、二体、三体。


 止まらない。


 東側は、数が多かった。


 アーヴィンが正面で受けた。


 押される。


 だが、外堀が機能した。


 飛び越えようとした群れの半分が、堀に落ちた。


「リアさん、東側に一発」


「はい」


 火属性の魔法が、東の群れの中心を貫いた。


 群れが、一瞬止まった。


 その隙に、アーヴィンが前に出た。


──────────────────────────────────────


 一時間かかった。


 昨夜の五分とは、違う。


 数が多かった。

 二方向からの同時攻撃だった。


 それでも、終わった。


 被害を確認した。


 コリンが全員を見て回る。


「……全員、無事です。

 ただし、アーヴィンさんの左肩に深めの傷があります」


「処置できますか」


「はい。今すぐ」


 アーヴィンは何も言わなかった。


 ただ、コリンの前に座った。


──────────────────────────────────────


 夜明け前、バルドが来た。


 酒は持っていなかった。


 ただ、立っていた。


「……守ったな」


「今夜は、です」


「今夜は、で十分だ」


 俺は少し考えた。


「バルドさん。明日から、農地の話をしましょう」


 バルドが少し目を細めた。


「……魔物が来た翌朝に、農地の話か」


「防衛の目処が立ちました。

 次は食料です。

 段取り通りです」


 バルドは少し黙った。


 それから、短く笑った。


 初めて見た笑顔だった。


「……あんたは、ぶれないな」


「現場がぶれると、人が死ぬので」


──────────────────────────────────────


 現場は、変数を受け止めた。


 予定外の人間が来た。

 予定より早く敵が来た。

 アーヴィンが傷を負った。


 それでも、誰も死ななかった。


 ――段取りとは、変数を潰すことじゃない。


 変数が来ても崩れない現場を作ることだ。


 俺は地図を見た。


 今夜の戦闘範囲を書き込んだ。


 東と西。

 二方向からの同時攻撃。


 まだ、南からは来ていない。


 《可視化》を林に向けた。


 サヤの色が見えた。


 今夜も、見ていた。


 ――明日の夜が、本番かもしれない。


 期限まで、あと一日。



 第12話 決戦前夜 了

【次回】


 翌朝、サヤが来た。


 いつもより早い時間に。


 「今夜です。そして――南からも来ます。

 林の中から」


──────────────────────────────────────


【領地収支】


・所持金 :金貨87枚(変動なし)

・収入  :魔物素材(追加分・換金は後日)

・支出  :なし


※報奨金 金貨100枚(王都より後日支払い予定)


【発展進捗 第2フェーズ】


・防衛  :65%(二方向同時攻撃を撃退・結界実戦稼働確認・外堀有効性再確認)

・食料  :10%(変化なし・明日から農地着手予定)

・水   :50%(変化なし)

・住居  :40%(避難者が増加・集会所が手狭)

・インフラ:0%(変化なし)


 今日の進捗:西からの避難民四人を保護。予定前倒しで今夜の戦闘発生。東西同時攻撃を撃退。アーヴィン左肩に深めの傷。期限まであと一日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ