前編最終話「出発」
翌朝だった。
全員が早くに起きた。
朝食を食べた。
見慣れない料理だった。
でも、うまかった。
食べ終わってから、荷物を持った。
全員が揃った。
宿の扉を出た。
馬車が門の前で待っていた。
王都側が用意した馬車だった。
星見の地まで、送ってもらえることになっていた。
御者が頭を下げた。
「準備ができております」
「ありがとうございます」
全員が乗り込んだ。
馬車が動き始めた。
王都の街を抜けた。
門をくぐった。
外に出た。
道が続いた。
南に向かった。
しばらく走った。
王都が見えなくなった。
マユミが窓の外を見ていた。
「アーゼルタウンから離れるな」
「はい」
「戻るのはいつだ」
「わかりません。落ち着いたら、街に顔を出したいです」
「マルティナさんのところか」
「はい。カゲツさんとも約束がありました」
「そうだったな」
マユミが少し前を向いた。
「父さん、ちゃんとやってるかな」
「セリウスさんがいます。大丈夫だと思います」
「そうか」
コリンが言った。
「星見の地まで、どのくらいかかりますか」
「ミルヴァさん」
「五日ほどだ。道の後半は整備されていない」
「整備されていない道ですか」
「そうだ。辺境だから当然だ」
「馬車で通れますか」
「途中までだ。最後は歩く」
「わかりました」
リアが言った。
「道中で地形を確認しておきます。索敵の範囲を把握しておいた方がいい」
「お願いします」
アーヴィンさんが窓の外を見ていた。
静かだった。
俺は羅針盤を確認した。
針が、南を向いていた。
まっすぐだった。
揺れていなかった。
進んでいた。
一日目が終わった。
宿場町で泊まった。
小さな宿だった。
でも、清潔だった。
夕食が出た。
シンプルな料理だった。
干し肉のスープだった。
黒パンがついていた。
マユミが食べた。
「これだ」
「何がですか」
「この味だ。王都の料理も悪くなかったが、これが落ち着く」
「そうですか」
「お前は」
「俺も、こちらの方が落ち着きます」
コリンが言った。
「マルティナさんの料理に似ていますね」
「似ていますね」
「早く食べたいです」
「俺もです」
全員が食べた。
うまかった。
二日目だった。
道が細くなった。
人通りが減った。
街道から外れた。
森が増えた。
リアが索敵を続けていた。
「反応があります」
「何ですか」
「魔物です。ただし、道から離れています。今は問題ありません」
「種類は」
「わかりません。ただ、大きくはないです」
「わかりました。引き続きお願いします」
「はい」
ミルヴァが言った。
「このあたりから、魔物の頻度が上がる」
「南方辺境の影響ですか」
「そうだ。星見の地に近づくほど、多くなる」
「村人が限界に近い理由がわかります」
「そうだ。普通の村人では、対処が難しい」
俺は少し間を置いた。
「だから、俺たちが呼ばれた」
「そういうことだ」
マユミが言った。
「やることが見えてきたな」
「はい。まず防衛の段取りを組みます。村の状況を確認して、魔物の頻度と種類を把握して、対処できる体制を作ります」
「時間がかかるか」
「かかります。でも、一つずつやれば形になります」
「そうだな」
馬車が進んだ。
道がさらに細くなった。
三日目だった。
馬車が止まった。
御者が言った。
「ここから先は、馬車では厳しいです」
「わかりました。ありがとうございます」
全員が降りた。
荷物を持った。
道があった。
細かった。
でも、続いていた。
「歩きます」
全員が頷いた。
歩き始めた。
二日歩いた。
四日目の夜は野営だった。
コリンが結界を張った。
火を起こした。
ミルヴァが周囲を確認した。
「異常なし」
「ありがとうございます」
全員が火の周りに座った。
空を見た。
星が多かった。
マユミが空を見上げた。
「綺麗だな」
「はい」
「星見の地、というのはこういう空のことか」
「近づいているからかもしれません」
コリンが言った。
「こんなに星が見えるのは久しぶりです」
「街では見えませんからね」
「はい。綺麗です」
リアが静かに空を見ていた。
何も言わなかった。
でも、色が柔らかかった。
アーヴィンさんが火を見ていた。
ミルヴァがアーヴィンさんの隣に座っていた。
静かだった。
全員が少し間を置いた。
マユミが言った。
「ヒコ」
「はい」
「前の世界でも、こういう空を見たことがあったか」
俺は少し間を置いた。
「ありました。現場が山の中のとき、夜に空を見ることがありました」
「どんな空だったか」
「似ていました。でも、今の方が綺麗な気がします」
「そうか」
マユミが空を見た。
「こうゆう感じも、悪くないな」
「はい」
「お前はどう思う」
俺は少し間を置いた。
「こっちで叩き上げでいける、と思っています」
マユミが少し笑った。
「そうだな」
火が静かに燃えていた。
星が多かった。
全員が揃っていた。
誰も、欠けていなかった。
五日目の朝だった。
歩き始めた。
二時間ほどして、開けた場所に出た。
盆地だった。
緩やかな丘が続いていた。
その中に、村があった。
小さかった。
二十軒ほどの家が並んでいた。
煙が上がっていた。
人の気配があった。
俺は羅針盤を確認した。
針が、村を指していた。
まっすぐだった。
「着きました」
全員が村を見た。
マユミが言った。
「小さいな」
「はい」
「でも、ある」
「はい」
「人がいる」
「います」
マユミが少し前を向いた。
「やれるな」
「やれます」
全員で、村に向かって歩き始めた。
六人だった。
全員、揃っていた。
誰も、欠けていなかった。
空が広かった。
南の空だった。
星見の地が、そこにあった。
新しい現場だった。
段取りは、これから組む。
急がない。
止まらない。
叩き上げで、行く。
―― 前編 完 ――
見える世界で、俺は死なないことにした
――辺境領主編 最弱スキル《可視化》持ちの50歳元ゼネコン課長、無敵の要塞を築く――へ続く




