第百四十一話「叙勲」
翌日だった。
朝食が出た。
食べ終わってから、正装が届いた。
王都側が用意したものだった。
全員分あった。
マユミが鏡を見た。
「似合わないな」
「似合っています」
「お世辞はいい」
「事実です」
マユミが少し間を置いた。
「お前は慣れているな、こういうのに」
「慣れていません。ただ、着れば終わりです」
「そうか」
アーヴィンさんが正装を着ていた。
静かに立っていた。
様になっていた。
ミルヴァが言った。
「アーヴィンは正装が似合うな」
アーヴィンさんが何も言わなかった。
でも、少し前を向いた。
コリンが言った。
「緊張します」
「昨日も言っていました」
「昨日より緊張します」
「そうですか」
リアが全員を見た。
「式典の流れを確認します。名前を呼ばれたら前に出る。国王から勲章を受け取る。頭を下げる。戻る。それだけです」
「わかりました」
「余計なことは言わない方がいいです」
「はい」
「ただし、国王が話しかけてきたら答える」
「わかりました」
「以上です」
リアらしかった。
全員が揃った。
迎えが来た。
王宮に向かった。
式典の場だった。
昨日より人が多かった。
貴族が並んでいた。
軍の関係者がいた。
ギルドの代表がいた。
見慣れない顔ばかりだった。
でも、俺は羅針盤を確認した。
全員の反応があった。
五人、揃っていた。
ミルヴァは外だった。
国王が玉座に座っていた。
昨日と同じ、静かな目をしていた。
色を確認した。
落ち着いていた。
昨日より、少し違った。
風格の色だった。
式典が始まった。
進行役が前に出た。
長い言葉があった。
魔族の作戦を止めたこと。
王国の安全に貢献したこと。
パーティの功績。
全部が読み上げられた。
俺は静かに聞いた。
長かった。
でも、大事なことだった。
読み上げが終わった。
名前が呼ばれた。
「ヒコ・フォルティス」
前に出た。
国王の前に立った。
頭を下げた。
勲章が、肩に当てられた。
国王が言った。
「顔を上げい」
顔を上げた。
国王が静かに言った。
「其方に、王国勲爵士の称号を与える。姓はフォルティスとする。領地の授与権を認める」
「ありがとうございます」
「期待している」
「段取りを組んで、動きます」
国王が少し頷いた。
勲章が渡された。
重かった。
金属製だった。
紋章が刻まれていた。
俺はそれを受け取った。
戻った。
次の名前が呼ばれた。
マユミが前に出た。
背筋が真っすぐだった。
普段と変わらなかった。
でも、色が少し違った。
いつものオレンジに近い赤より、少し落ち着いていた。
緊張していた。
でも、揺れていなかった。
勲章を受け取った。
戻ってきた。
俺の隣に立った。
小声で言った。
「心臓が速い」
「そうですか」
「お前は」
「俺もです」
マユミが少し笑った。
「そうか」
アーヴィンさんが呼ばれた。
静かに前に出た。
勲章を受け取った。
戻った。
それだけだった。
でも、様になっていた。
リアが呼ばれた。
真っすぐに前に出た。
勲章を受け取った。
頭を下げた。
戻った。
コリンが呼ばれた。
少し緊張した顔だった。
でも、ちゃんと前に出た。
勲章を受け取った。
戻ってきた。
小声で言った。
「緊張しました」
「よく動けました」
「ありがとうございます」
五人分が終わった。
進行役が言った。
「以上をもちまして、叙勲式典を終了いたします」
場が動いた。
人が動き始めた。
俺は勲章を見た。
重かった。
手のひらに乗っていた。
現場仕込みの男が、爵位を持った。
やることは、同じだ。
そう思った。
マユミが隣に立った。
「ヒコ」
「はい」
「どんな気持ちだ」
俺は少し間を置いた。
「次の段取りを考えています」
マユミが少し笑った。
「そうか」
「変ですか」
「変じゃない。お前らしい」
俺は少し前を向いた。
「やることは同じです。場所が変わるだけです」
「そうだな」
式典が終わった後だった。
国王が近づいてきた。
周囲の貴族が少し下がった。
国王が俺を見た。
「先ほどの答え、気に入った」
「段取りを組んで動きます、ですか」
「そうだ。朕に対して怯まなかった」
「怯んでいましたが、動けました」
国王が少し笑った。
「正直だな」
「現場仕込みなので」
「その言葉、何度も聞いた」
「口癖です」
国王が少し間を置いた。
「領地のことだが」
「はい」
「急がなくていい。ただし」
「止まるな、ですか」
国王が少し間を置いた。
「其方も同じことを言うのだな」
「誰かから聞きましたか」
「ギルドマスターから、報告書で読んだ」
セリウスさんだった。
俺は少し間を置いた。
「急ぎません。ただ、止まりません」
「そうしてくれ」
国王が全員を見た。
「良いパーティだ」
「全員のおかげです」
国王が頷いた。
それから、離れた。
周囲の貴族が戻ってきた。
俺は羅針盤を確認した。
針が、静かに北を向いていた。
揺れていなかった。
まっすぐだった。
式典が、終わった。
新しい段取りが、始まった。
宿に戻った。
ミルヴァが待っていた。
「終わったか」
「終わりました」
「勲章か」
「はい」
ミルヴァが少し見た。
「似合わないな」
「そうですか」
「ただし、持っていた方が動きやすくなる。悪くない」
「ありがとうございます」
全員が食卓に集まった。
夕食が出た。
見慣れた料理ではなかった。
でも、うまかった。
全員が食べた。
コリンが言った。
「これで、次に進めますね」
「はい」
「領地は、どんな場所なんでしょう」
「行けばわかります」
「怖いですか」
「怖いです。でも、行けばわかります」
コリンが少し笑った。
「そうですね」
リアが言った。
「現地の情報を事前に集めることはできますか」
「ミルヴァさんにお願いします」
「既に動いている」
ミルヴァが言った。
「王都にいる間に、北方の情報を集める。出発前にある程度は出る」
「ありがとうございます」
「当然だ」
アーヴィンさんが静かに食べていた。
マユミが言った。
「なあ、アーヴィン」
「何だ」
「勲章、どこに置く」
「わからない」
「俺も」
二人が少し間を置いた。
コリンが言った。
「大切にしまっておけばいいんじゃないでしょうか」
「そうだな」
全員が食べた。
うまかった。
今日という日が、静かに終わろうとしていた。
次が来る。
でも、今日は食う。
うまかった。
第百四十一話「叙勲」了




